2025年4月25日
文化財保護と美術館運営に活かす事務職員の力
徳川美術館 管理部 吉川由紀
近年、美術館や博物館の経営資源の多角化と拡大が一層求められるようになっています。2023年に国立科学博物館のクラウドファンディングが大きな反響を呼んだことをきっかけに、博物館活動や文化財保護への金銭的支援の重要性が広く認知されるようになりました。名古屋の徳川美術館では、この追い風を活かし、支援の獲得や事業の収益化に挑んでいます。
会員制度の改定・ミュージアムグッズの充実・施設改修や広報発信による集客力の向上など、日々取り組んでいる業務は多岐にわたりますが、今まさに育成中ともいうべき事業が、文化庁のコーチング支援を受けて企画された「徳川ナイトミュージアムPREMIUM」です。これは未来にわたる文化財保護の基盤を築くために新規顧客層の開拓を目的として開催するもので、「美術館に興味はあるものの来館までは至らない人」をターゲットにプログラムの設定を行いました。具体的な内容は次のとおりです。
1.著名人×学芸員のトークショー
美術専門家以外の著名人を招き、リラックスした雰囲気で学芸員の専門性を楽しめる場を提供。新規来館者にとっては来館の動機付けとなりやすい企画です。


4月26日の開催を予告するチラシ。デザインや記事制作も事務職員が行っています。

トークショーの様子。閉館後30分間でエントランスロビーをステージに設えます。
2.地元食材や地酒を用いた立食パーティー
名古屋の夜間観光の魅力を高めるとともに、夜ならではの特別な体験を演出。地元企業と連携することで、地域と美術館の関係強化というメリットも生まれました。

料理は発注先、提供方法含めいくつかのパターンを試したうえで、現在は敷地内の日本料理店にご協力いただいています。開催テーマに合わせた料理名が大変好評ですが、それも事務職員のアイデアです。
3.学芸員によるすべての展示室の同行解説
学芸員の専門知識を直接体験できる、美術館の核となるサービスです。参加者の満足度を高め、リピーターの増加に大きく貢献しています。
これらのプログラムに音楽やライトアップ、特別なお土産などの要素を加え、学芸員を含む全職員が一丸となって取り組んでいます。過去4回の開催では、初回は外部コーチ、2回目にはパーティープランナーの協力を得ながらノウハウを積み重ね、現在はほぼすべての業務を館内職員で行うことに成功しました。結果として、収益性の向上を実現し、現在は4月に開催する5回目に向けて、さらなる改善を進めています。

屋外を照らす葵紋は外部コーチの指導を受け設営しました。参加者の盛り上がりのみでなく、イベントを知らない通行人の方へのPRとしても効果を発揮しています。
これらの企画や取組は、「管理部」という事務職員セクションを中心に進めています。事務職員ならではの来館者に近い視点を活かし、運営のアイデアを積極的に提案することで、学芸員の専門性もさらに魅力的に引き立っていきます。広報やマーケティング、ボランティアや日々の接客から得るお客様の声など、様々な知見を持つ事務職員が文化財に造詣の深い学芸員の専門性を新しく活かしていく。この連携から生まれる好循環こそが、文化財保護の未来を支える大きな力になると確信しています。そのためにも、学芸員だけでなく、全国の美術館・博物館の事務職員同士がつながりを深め、互いに学び合う場を作ることが重要だと考えています。名古屋にお越しの際には、ぜひ徳川美術館の管理部を訪ねていただき、未来に向けた情報交換を行いましょう!
徳川美術館
〒461-0023名古屋市東区徳川町1017
- 問い合わせ先
- 徳川美術館 052-935-6262(自動音声)
- 交通
- JR中央本線「大曽根」駅南口から徒歩10分、市バス基幹2系統「徳川園新出来」下車徒歩3分
- 開館時間
- 10時~17時(最終入館は16:30)
- 休館日
- 月曜日・年末年始
- 入館料
- 一般1,600円 高大生800円 小中生500円
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