2025年7月2日
ロマンスカーミュージアムにおける基本方針の再定義について
ミュージアムコンサルタント 真山健児
(元ロマンスカーミュージアム支配人)
ロマンスカーミュージアム(以下、当館)は、2021年、神奈川県海老名市に開業した小田急電鉄の企業ミュージアムで、2024年に登録博物館に指定された、開館5年目の若い施設になります。
開業準備段階から、企画コンセプト「電車だけじゃないワクワクを」、デザインコンセプト「Playing Garage(魅せる検車庫)」を定め、制服やコンテンツ、お客さまへのお声がけの仕方等、細部に至るまで、このコンセプトを浸透させてブランディングを進めていきました。

◆開業時に定めた当初の各種方針
開業時、当館の象徴である「ロマンスカー」の魅力は何なのか、お客さまはどの様な想いを抱いているのか、どうあってほしいのかをかみ砕きながら、スタッフで議論し、お客様や関係者といったステークホルダーへどう表現するか、どの様に伝えていけば良いのかを共通言語で話せるようにするため、「ミッション」、「コンセプト」、「バリュー」を定義し、各事業の実施可否や優先順位の判断基準にもしてきました。
ミッション:ロマンスカーの魅⼒を通じて「感動」「笑顔」「未来」をつくります。
コンセプト:“子ども” も“ 大人” も楽しめる鉄道ミュージアム
バリュー :「旅」人々に憧れられる“ホスピタリティ”や“ブランド”を感じさせる
「暮らし」日常的な出会い、絆を深める“情緒的な価値をもつ
「ロマンスカー」時代の最先端を走り続けた“高性能車両”

ホームページに表記しているミッション

ツールを使い言語化を図るワークショップ
◆基本方針の再定義
3年が経過し、登録博物館の申請に向けて、基本方針の見直しを行いました。その過程でこれまでの事業を振り返ると、スタッフ間でコンセプトのイメージを共有できていない部分があったり、スタッフの入れ替わり等で認識のズレが出ていたり、自身の抱える業務の意義を見失っている現状が浮き彫りになりました。
そこで、当館の学芸員を中心にスタッフ全員で3年間を振り返りながら、改めて、自分たちの基本方針を再定義することとしました。
根幹としてきた「ミッション」を中心に、文化審議会博物館部会で示された「これからの博物館に求められる役割・機能(5つの方向性)※」を拠り所にして、実施してきた各事業を細分化しながら、リスト化し、5つの方向性に合わせる形で、分類を進めました。
(資料5)1.これからの博物館に求められる役割」について

3年間実施してきた各事業をリスト化

これまでの各事業を領域に分類
分類をすすめると、1つの方向性の中にも内容が違う事業があり、もう一段階細分化した「ビジョン」を設ける必要がでてきました。
さらに企業ミュージアムの特異性として、5つの方向性に当てはめることができない領域があることも認識できました。それは館の事業によって従業員の会社への帰属性を高めたり、グループ各社の事業との間にシナジーを与えたりするインナーブランディングという領域でした。この領域を「ともに支える」と定義しました。
結果、以下のとおり、「6つの領域」と「10の運営ビジョン」を定めました。

最終的にまとまった運営基本方針体系図
◆最後に
当館は、今回の方針の再定義をする中で、5年を目途に方針見直す機会を設けました。人員体制や事業の変化に合わせて見直しや更新をすることで継続的に進化させながら、館の成長を支える方針として活用することができると考えています。また、事業を整理していく過程で、スタッフの業務が各方針に収斂され、博物館事業の一翼を担っているというモチベーションにも繋がりました。
各施設の置かれている状況は異なりますが、館としての方向性、各事業の意義を再認識することは、当事者だけでなく、ステークホルダーへの説明等、多様な効果があると考えています。事業に行き詰ったり、スタッフの意欲が下がってしまったりしたとき、改めて、スタッフみんなで、議論する場を設けることが必要だと感じています。
以上
ロマンスカーミュージアム
- ホームページ
- 住所
- 〒243-0438神奈川県海老名市めぐみ町1-3
- 交通
- 小田急線海老名駅隣接地
- 開館時間
- 10:00~17:00
- 休館日
- 毎週火曜日、年末年始
- 観覧料
- 大人:900円 子ども:400円 幼児:100円