2025年10月28日
市民とつながり、ふるさとまるごとが博物館(前編)
南アルプス市教育委員会文化財課 保阪太一
はじめに‐文化財課のお手伝い
平成15年に6町村が合併して誕生した「南アルプス市」は、厚い砂礫のベールで覆われた常襲干ばつ地域と地下水位の高い常襲洪水地帯が同居した地域で、「埋蔵文化財不毛の地」などと呼ばれていました。どの町村にも博物館はない状況で、文化財や歴史資源に対する理解が低いという印象でした。
そのため、まず私たちは、市民とつながり、あらゆる歴史資源に市民が触れる機会をあの手この手で増やすことにし、軽バンに土器等の考古資料や古民具、古文書、解説パネルなどの資料を積んでは学校に限らず地域の寄り合いに至るまで出向き、講座や史跡の案内など地域づくりの「お手伝い」を開始しました。年々依頼は増え、現在も年間250件という高水準で推移しており、歴史資源を地元に活かそうという住民の意識も高まってきました。ハコモノのニーズも生まれ、平成21年に既存施設をもらい受け「ふるさと文化伝承館」をオープンさせています。
あちら側からこちら側へ
「ふるさと文化伝承館」は文化財課の業務の一つとして運営している小さな施設ですが、地域の方々に地域で継承されてきた文化資源の魅力を再発見してもらうべく、本市の歴史的ストーリーを伝えるユニークな体験メニュー作りなど、ソフトの充実を心掛けています。
最近では、国指定史跡の堤防についての企画展示で、石積み部分が未完成の模型を手作りで用意し、来館者に石を積んでもらい完成させるという、みんなで展示を成長させる試みも行いました。来館者が作り手になれるのです。
小学校とコラボした授業も同じで、ただ見学や体験を受け入れるのではなく、打ち合わせを繰り返し、学校と一緒に授業を組み立てるようにしています。その中で、さらに一歩進めて児童と一緒に手描きの展示パネルを作成したり、児童の音声ガイド「文化財Mなび」なども作成しています。
授業の最後には「今日から伝承館の仲間なので、もう伝える側だよ」と話します。そうすると実際にその週末には家族を連れて一所懸命に解説する子供たちの姿があります。実際に小学校のお子さんを持つ職員からは、子供から地域の歴史を教わったよなんて話もよく耳にするようになりました。
国史跡「桝形堤防」の模型の入館者による石積みの様子
国語の単元を活用したパンフレットづくりを説明板に転用し、展示もする。
土偶を軸に~展示室でベイビーくらぶと市民のグッズ展開
鋳物師屋遺跡出土の土偶「子宝の女神ラヴィ」(重文)は、妊婦姿をしており、当館の目玉です。
これにあやかり、平成26年から、市内企業と子育てNPOとの協働で、0歳児の親子に向けた「ベイビーくらぶ」を開催しています。ラヴィのキャラクター化も実現し、中で子供が飛び跳ねて楽しめるラヴィ形の「ふわふわ」も用意しました。
これらは、博物館から足が遠くなりがちな子育て世代に楽しみながら地域の歴史に触れてもらうための仕掛けです。興味の入口は多く、ハードルは低いほど良いと思っており、実際リピーターが続出しています。
縄文展示室でのベイビーくらぶ~土器や土偶に囲まれてベビーマッサージや縄文のお話。
キャラクター化したラヴィちゃんと「ふわふわ」~お待ちいただく間に、土偶のことや南アルプス市の歴史についての説明を行っています
市内在住の作家さんや福祉団体、商店とコラボして、赤ちゃん用のスタイやおむつポーチなど「子育て」というコンセプトでラヴィちゃんのオリジナルグッズも展開しています。素材を提供することで、市民のみなさんが自由に調理してくれます。こうして一見文化財とは関係のないように思われる分野の方々ともつながることで、地域の歴史や文化に関わる人を増やし、文化財や歴史資源が住民にとって身近な存在になっていくことを目指しています。
グッズ販売コーナー
近年では市民や子どもたちと一緒に、本格的に地域の歴史資源を掘り起こし、発信する取り組みも開始しています。後編でご紹介します。お楽しみに!
ふるさと文化伝承館
山梨県南アルプス市野牛島2727「湧暇李の里」内
https://www.city.minami-alps.yamanashi.jp/sisetsu/shisetsu/bunkazai-densyokan/![]()
- 利用時間
- 午前9時30分~午後4時30分
- 休館日
- 毎週木曜日(この日が祝日の場合は開館し、翌平日が休館)、年末年始
- 利用料金
- 無料
- アクセス
- 【車利用】
高速道路利用の場合
・中部横断自動車道「白根インター」下車。国道52号線(側道)を北上。
・「湧暇李の里西」交差点を右折して300m。「湧暇李の里」内。
甲府方面から一般道利用の場合
・県道甲斐・芦安線の信玄橋を渡り、山梨中央銀行前の信号を右折。
・600m先「樹園」案内板を右折してすぐ。「湧暇李の里」内。
【公共交通機関利用】
・JR中央線甲府駅下車。山梨交通バスターミナル芦安方面行きバス「野牛島」下車、徒歩10分
・JR竜王駅よりタクシーでおよそ10分
