2025年12月25日
目黒寄生虫館―信念を貫く小規模博物館の挑戦(前編)
目黒寄生虫館 事務長 亀谷 誓一
◆寄生虫学の専門博物館
世界でも稀な寄生虫学に特化した専門博物館、それが目黒寄生虫館です。私の祖父、医学博士・亀谷了の創意による個人博物館として1953年に創設され、1957年に財団法人格を取得しました。町医者として日々患者と向き合い、得た収入を財団に投じ続けた熱意によって、一貫して入館無料の方針を守ってきました。
1953年、創設当時。右に立つのが亀谷了(掲げた看板には「観覧無料」とある)
1993年にリニューアルオープンした現在の外観
定期預金の利息と創設者の寄付で運営が成り立っていたのは古き良き時代のお話。創設から72年、館を取り巻く経済状況は様変わりしました。しかし、「啓発活動にお金はとらない」という創設者の信念を、今なお継承しています。展示室わずか145㎡という小規模館でありながらも展示は充実。液浸標本をはじめ1950年代に作製された寄生虫の蝋模型、論文に使われた精緻な原図など約300点の資料が並んでいます。それに動画やモニターを用いた解説があり、11か国語の多言語対応がついてWi-fiも備わっていれば「これで無料はあり得ない!」とSNSでたびたび驚かれるのも無理はありません。本日はそんな運営の実態をご紹介しましょう。
1階(左)と2階(右)が展示室。他の階は研究室など
◆様々な資金獲得
当法人は、基本財産等の運用益が主たる収入源です。投資に関する十分な理解をもって、安全性を考慮した資産運用を行っています。私たちのような小規模な財団には年間予算を賄えるほどの財産がないので、銀行に預けたとて利息は雀の涙です。
そのため重要なのはいかに外部資金を得るか。中でも支援者の皆様からの寄付金は不可欠かつもっとも励みになります。振り返れば2020年のコロナ禍がひとつの転機といえるでしょう。臨時休館や外出自粛の煽りで運営がひっ迫している窮状を公式サイトで訴えました。(このときに銀行振込やクレジットカード決済など送金手段を増やしています)来観者さんのつぶやきが広く拡散されたことで、結果的に多くの方からのご支援につながりました。中には、その後も継続してご送金いただく方もいらっしゃり、その温かいお気持ちには感謝しかありません。今では電子マネーによる寄付も可能になり、さらに利便性が増しました。つい最近、館内にある募金箱の画像をネットにアップして「もはや募金ではなく課金」と発信されている方を見つけました。想像以上のクオリティーと感じてくださったのか、ご満足いただけた思いが伝わり、嬉しくなりました。
パンフレットの隣に募金箱。累計額も掲示
また、助成金等のチェックも怠りません。車椅子用リフトが故障した際は(公財)東京観光財団の補助金を活用しましたし、(一財)全国科学博物館振興財団の採択を受けて展示更新を実施した箇所もあります(写真はその一例)。そして今は文化庁のInnovate MUSEUM事業をはじめ複数の助成金を得てデジタルアーカイブの公開準備を進めています。事業ごとの財源の切り分けが重要で、丁寧な事務作業が求められます。
フラッシュ撮影すると寄生虫の宿主(しゅくしゅ)がスマホの画面に浮かび上がる、特殊印刷を用いた導入展示。入口から楽しい。
最後に、ミュージアムショップも大事な収入源です。職員自らデザインしたオリジナルグッズは約20種類。学術面に齟齬がないことを重視して製作しています。絵葉書からTシャツまで価格帯は様々。海外の方向けに「手ぬぐいの使い方」などの英文解説紙を用意するホスピタリティも忘れていません。
ミュージアムグッズはオンラインでも販売中
このように、当館のような小規模館であっても、多様な資金獲得で持続経営を実現し、無料開館を貫くことは可能…つまり「これで無料は“あり得る”!」わけです。…といったところで前編はここまで。後編では法改正に伴う登録手続きの模様をお届けします。それでは皆様よいお年を!
目黒寄生虫館
153-0064 東京都目黒区下目黒4-1-1
- 利用時間
- 午前10時~午後5時
- 休館日
- 毎週月曜日・火曜日(祝日の場合は翌平日に休館)、年末年始
- 入館料
- 無料(募金箱あり)
- アクセス
- JRほか各線目黒駅西口から徒歩約12分
または各種バスで2停留所目「大鳥神社前」下車すぐ
