2021年11月10日
文化庁文化資源活用課 課長補佐 平桑正利
事 業 係 林 純也
1.Living History促進事業とは
Living Historyは、欧州を始めとして行われている取組で、お城や古い町並みなどにおいて往時の出来事や生活を再現し、人々が「見る」「体験」することによって、文化財を生きた歴史として体感する取組です。
我が国では、重要文化財や史跡などの文化財は人々により長く守られ受け継がれてきた貴重な文化資源であり、その地域の人々の精神的な拠りどころにもなっています。歴史情緒を感じさせる観光資源としてもインバウンドの促進にきわめて重要ですが、訪日外国人などの観光客が各地の文化財を訪れた際には、必ずしも観光客にとって往時がわかりやすい形で公開されていないことも多く、文化財の価値や魅力が十分に伝わっていないのが現状です。
そのような課題意識から、Living History促進事業は、歴史的背景に基づいて往時を体験・体感できるような復元事業や展示・体験事業などの機会を提供するもので、より多くの観光客(特に外国人観光客)が日本の文化財などをわかりやすく理解・体感いただくことを目的としています。さらに、地域の文化財を観光資源として更なる磨き上げを行うことで、 文化財の活用による地域全体の魅力向上につなげるものです。
2.Living History促進事業の内容
Living History促進事業は、国指定文化財を核として、史料などに基づき、往時を再現した復元行事・歴史体験事業の実施、当時の調度品や衣装の整備・展示などを通じて歴史的な出来事や当時の生活を再現するコンテンツの開発を支援するものです。主に事業の初期費(イニシャルコスト)を補助するもので、体験プログラムを開発するための史料などの調査や時代考証、コンセプト設計、プログラムの企画・開発、衣装や調度などのツール類の制作、解説文の制作などの支援を行っています。
また、体験プログラムを継続的な事業として成立させるために、ターゲット調査、事例調査、収益性の検討、事業の実施方法や体制の検討なども補助の対象とし、事業を自走化させることについても支援しています。
3.事例紹介
令和元年度から3年度を通して124プログラムを支援しています。その中からいくつかの事例を紹介します。
○「Living History in 京都・二条城~生きた歴史体感プログラム~(Living History in 京都・二条城協議会)」(京都府京都市)
大政奉還など歴史の転換の舞台となっている二条城において、往時の様子を体感できるプログラムを開発しています。1626年(寛永3年)に後水尾天皇を招いて二条城で茶会を行った「小堀遠州茶会記集成」などの記録が残っており、その茶会を約400年ぶりに再現しました。茶会参加者は普段は入れない二の丸御殿黒書院にて往時の茶会を体験し、中庭では小笠原流弓馬術礼法の観覧も行われました。

○「姫路城を活かした歴史体感プログラム事業」(兵庫県姫路市)
日本で最初に世界文化遺産に登録された姫路城において、当時の歴史を体感できるプログラムを開発しています。「千姫姿絵」や「本多平八郎姿絵屏風」などの歴史資料に基づき、衣装や調度品を復元しました。また、1858年(安政5年)に姫路藩主酒井忠顕(ただてる)が上洛した際の大名行列の絵画「顕徳院様将軍御名代上京行列図」が残っており、それをもとに復元した衣装等を活用し往時の大名行列を再現しています。

○「芸術を生み出す縄文文化体感プログラム事業」(新潟県十日町市)
国宝火焔型土器の出土遺跡である笹山遺跡にて、縄文文化を体感する食や衣服着用体験、弓矢体験などのプログラムを開発しました。縄文料理は、遺跡出土資料などから当時の食材を推測し、調理技術を復元。現代人でも美味しく食べられるように工夫した料理を創作しました。また、復元竪穴住居内での調理実演のほか、衣服着用体験や縄文採集及び狩猟体験などを行いました。

4.事業の目指すところについて
Living History促進事業は、史料などに基づく時代考証を踏まえた歴史再現が大前提ですが、切り口次第で、さまざまな見せ方や伝え方を創出することができると考えています。訪日外国人に向けたわかりやすく面白い体験プログラムが各地に生まれることで、国内の方にも更なる文化財への理解を深めていただく機会の一つになると考えています。
本事業を通じて、文化財の更なる魅力が向上することで、訪日外国人が日本の歴史や文化に対する新たな発見や驚きと理解の促進に繋げ、文化財が地域の大切な観光資源となって地域を活性化できることを目指し、引き続き事業に取り組んでいきます。
プログラムの詳細についてはこちら
https://japanculturalexpo.bunka.go.jp/livinghistory/