2025年12月24日
文化庁著作権課著作物流通推進室
■ はじめに
2023年の著作権法改正により設けられた「未管理著作物裁定制度」について、2026年4月からの運用開始に向けて現在準備を進めています。ここでは、同制度の目的や仕組み、運用開始に向けた準備状況などについて紹介します。
著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」とされており、例えば小説や音楽、絵画、写真やゲームなど、様々な種類のものがあります。
近年、デジタル技術やインターネットの発達により、だれもが気軽に写真や動画、音楽、イラストなどの作品を作り、SNSや動画配信サイトなどを通じて世界に発信できるようになりました。こうした個人の創作したコンテンツを使いたいというニーズがあることに加え、「過去の名作ゲームをもう一度復刻したい」「昔の著作物をデジタルアーカイブなど新しい形で残したい」といったニーズも高まっています。
このように他人の著作物等を利用する場合には、その著作物等の権利者(著作権者(作詞家、作曲家等)または著作隣接権者(実演家等))の許諾を得ることが原則です。しかし、権利者が既に亡くなっていて誰が権利を相続したか不明であったり、権利を持つ会社が休眠していて連絡が取れなかったりする場合には、許諾を得ることが難しく、利用を断念せざるを得なくなります。このような場合に著作物等を適法に利用できるようにするため、著作権法には従来から「著作権者不明等の場合の裁定制度」が設けられています。これまでも制度面・運用面の改善を重ねる中でこの制度の裁定件数は増加傾向にありますが、要件である「著作権者等が不明である」という事実を担保するに足りる程度、著作権者等を探すための努力を行う必要があるなど、制度利用のハードルが高いことが指摘されていました。
こうした課題に対応するため、2023年の著作権法改正で新たに設けられたのが「未管理著作物裁定制度」です。文化庁では、2026年度からの運用開始に向けて準備を進めています。
■ 制度の目的と仕組み
未管理著作物裁定制度は、「著作物を利用する際には、権利者の許諾を得る」という原則を保ちながらも、利用者が「利用の可否に関する権利者の意思を確認できない場合」に、権利者の意思確認のための一定の手続を踏み、文化庁長官の裁定を受け、通常の使用料に相当する「補償金」を支払うことで、最長3年間、著作物等を適法に利用できるようになる仕組みです。他方で、権利者が「自分の著作物等が裁定により利用されている」と分かったときは、利用者から支払われた補償金を受け取ることができます。
本制度により、これまで「権利者に連絡したけど応答がない」「権利者探索を含む権利処理コストが高い」といった理由で利用を諦めざるを得なかった作品も適法に利用できるようになります。
なお、前述の「著作権者不明等の場合の裁定制度」とは要件や効果が異なりますので(例えば、未管理著作物裁定制度では利用期間の上限がありますが、「著作権者不明等の場合の裁定制度」では利用期間の定めはありません)、二つの裁定制度が併存します。利用者は、著作物等の種類や利用方法などを考えながら、どちらの制度を利用するかを決めることとなります。
■ 利用が想定される場面
未管理著作物裁定制度の利用が想定される場面としては、例えば、次のようなケースが考えられます。
• 古いゲームソフトを復刻したいが、権利を持つ会社が休眠していて連絡が取れない。
• 他人のブログで見つけた風景写真を電子書籍に掲載したいが、権利者に連絡が取れない。
• 絵画をホームページに掲載したいが、著作権が相続によって複数人に分かれ、一部の権利者と連絡が取れない。
このように、文化のみならず教育や地域振興など、様々な分野で本制度の利用が期待されています。
■ 制度の対象となる著作物等
(未管理公表著作物等への該当性確認)
未管理著作物裁定制度の対象となるのは、著作権等管理事業者により管理されておらず、利用の可否に関する権利者の意思が表示されていない公表著作物等(「未管理公表著作物等」)です。すなわち、著作権等管理事業者に管理されているか、権利者の意思が表示されている次のような場合は、「未管理公表著作物等」に該当せず、制度の対象外になります。
• 「無断複製禁止」「営利目的でない場合は自由利用可」など、利用ルールが明記されている場合
• 権利者のホームページやSNSで、「利用に関する申込は、以下のメールアドレスまで」といった形で、利用に関する協議を受け付ける意思及び連絡先が示されている場合
利用者は、これらを確認するため、①著作物等やその周辺(書籍の奥付やCDのパッケージなど)を確認するとともに、②インターネットによる検索、③分野横断権利情報検索システム(後述)による検索を行う必要があります。
もし、権利者の方々が「自分の作品をこの制度により使われたくない」と考える場合は、著作権等管理事業者に管理を依頼するか、作品の周辺や自身のウェブサイト、SNSプロフィール欄などに、利用ルールや利用に関する協議を受け付ける意思と連絡先を明記することで、その作品は制度の対象外になります。
(権利者の意思の確認)
こういった利用ルールや意思及び連絡先が表示されておらず「未管理公表著作物等」となるもののうち、権利者への意思確認措置を利用者が行ったにもかかわらず、意思を確認できなかったものが、本制度の対象になります。この意思確認措置として、利用者は、利用に関する協議を受け付ける意思を伴わない連絡先(「お問合せはこちら」等)に連絡し、14日間応答がなければ、本制度の対象となり得ます。また、上記のような意思が表示されておらず、かつ連絡先が何ら示されていない場合も、本制度の対象となり得ます。
これに加えて、著作者が利用を廃絶しようとしているような事実(例:著作者が発行された出版物を回収した)が無いことも必要です。
■ 裁定の流れ
本制度の利用者は、登録確認機関(2025年12月時点で、(公社)著作権情報センター(CRIC)の1者を登録)に申請することになります。この際の申請書類や手続等については、利用者向けのマニュアルである「裁定の手引き」の改訂版を今年度内に公表予定です。
登録確認機関は、申請書類等が要件を満たすかを確認し、適切と認めたものを文化庁に送付します。その後、文化庁長官による裁定が行われれば、利用者は裁定により決定された額の補償金を指定補償金管理機関(CRICを指定)に支払うことで、著作物等を適法に利用できるようになります。
裁定の結果は文化庁の「裁定実績データベース」で公表されます。権利者が自分の著作物等が裁定を受けて利用されていることに気づいた場合は、実際に利用された分の対価として補償金を請求できます。また、権利者は裁定により認められた利用期間の範囲内であれば、裁定の取消を請求できます。裁定が取り消されると、利用者は著作物等の利用を停止しなければいけません。利用者が取消後も著作物等を利用したい場合は、権利者から許諾を得るために直接交渉することになります。
■ 制度開始に向けて
文化庁では、2026年度からの制度運用開始に向け、関連する法令の整備や、前述の「裁定の手引き」の改訂など準備を進めています。特に、同年4月以降に裁定制度の利用を検討されている方は、2つの裁定制度の違いや申請手続の全体像を分かりやすくまとめた「裁定の手引き」の概要版(https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/tyosakubutsu/pdf/94304601_01.pdf)を12月24日に公表していますので、ぜひ御参照ください。
あわせて、文化庁では、権利者等情報の探索を効率的に行うための「分野横断権利情報検索システム」や「個人クリエイター等権利情報登録システム」の構築も進めています。このうち、「分野横断権利情報検索システム」は、利用者が利用しようとする著作物の種類や利用方法などに応じて、確認すべきウェブサイト等(著作権等管理事業者や権利者団体のデータベースなど)を検索するものです。また、「個人クリエイター等権利情報登録システム」は、個人クリエイター等が、自分が創作した著作物等の利用に関する意思表示等を登録するためのもので、利用者は登録された個人クリエイター等の著作物等の意思表示の確認を行うことができますし、直接連絡を取ることもできるようになります。
本制度やこれらのシステムは、利用者にとっては著作物等の適法利用を促し、権利者にとっては気づかなかった著作物等の有償での利用ニーズを把握し、その後のビジネスにもつながることになりますので、双方にメリットがあると言えます。
未管理著作物裁定制度が、権利者と利用者の橋渡しとなり、我が国の文化の更なる発展に寄与するものとなるよう、引き続き運用開始に向けた準備を進めてまいります。


