2026年5月8日
文化庁美術学芸課 主任文化財調査官 横須賀倫達
その年に新たに指定される品々を紹介する「新指定国宝・重要文化財」展が、文化庁の京都移転に伴い、京都文化博物館で開催されていることをご存じでしょうか。
会場ではどこを見ても国宝や重要文化財ばかり、こんな贅沢な展覧会はなかなかありません。
展示室の様子
5月17日(日)まで開催中の本展は、絵画や仏像など見どころたくさんですが、ここでは奈良県飛鳥池遺跡の出土品を中心に考古資料コーナーの見どころをご紹介いたします。
【魅力その① 富本銭とその鋳造関連資料】
昭和、平成世代の子供たちは、最古の鋳造貨幣は“和同開珎”と教科書で習いました。ところが平成前半代の飛鳥池遺跡の発掘調査で、“富本銭”が出土。それのみならずその未製品や失敗品、鋳棹、坩堝や鋳型などの鋳造に関わる道具類も合わせて出土し、飛鳥時代後半にこの遺跡で富本銭が作られていたことが明らかになりました。富本銭こそが我が国最古の鋳造貨幣である、と教科書が書き換えられるとともに、長らく謎の存在であった「今より以後、必ず銅銭を用いよ」という『日本書紀』天武12年(683)の詔にある銅銭についても特定されたのです。
富本銭は、唐の開元通宝(621年初鋳)を模倣した貨幣と考えられます。何より、上下に鋳出された「富本」は中国『晋書』に記された「国を富ます本は貨幣である」という故事の引用と考えられ、左右の七曜文は陰陽五行(日・月と木・火・土・金・水)を、○の中央に□が空く形状は天円地方という中国思想における宇宙観を示しています。わが国における貨幣制度の起源が、中国の唐にあることも教えてくれます。
富本銭と鋳棹
【魅力その② 国内初のガラス生産と施釉陶器】
飛鳥時代後半に至るまで、国内では原料からガラスそのものを作ることができませんでした。古墳から出土するガラス玉などは、すべて輸入品か輸入品を溶かして作ったリサイクル品です。飛鳥池遺跡からは、ガラス製品のほか、ガラスの切れ端や屑、坩堝も出土しています。このうち坩堝に付着したガラスを分析した結果、国内産の鉛が使用されていることが分かり、鉱石(鉛)を使った国産ガラスとその製品製作が初めて確認されたのです。さらに、後世の奈良三彩や釉薬を使った様々な陶器に繋がる、施釉陶器の国内生産も飛鳥池遺跡で開始されたと考えられます。なぜなら釉薬とはガラスそのものですから。
【魅力その③ さまざまな木簡】
木簡はここに書き切れないほど多くの種類があります。例えば、「大伯皇子」など皇族の名を記した木簡は、工房への発注や、工房の管理・運営に皇族や国家が関わっていたことを示します。また、天武朝の紀年「丁丑年」(677)などを記した紀年銘木簡は、工房の操業年代を裏付けます。さらに「天皇聚□弘寅□」と記された木簡は、天皇という君主号の開始を議論する上で欠かせません。
この他にも、金・銀・銅製品の生産を示す資料、様という鉄製品の木製見本など、多彩な資料が展示されています。これらは、一つ一つは小さいながら、歴史上大きな転換期となった時代の様相を克明に伝える、唯一無二の品々なのです。
富本銭・ガラスとその製作関連資料・木簡
いち早く新指定の国宝・重要文化財が見られるチャンスですので、ぜひ京都文化博物館へお越しください!
令和8年新指定 国宝・重要文化財 展
- 開催期間
- 4月25日(土)~5月17日(日)
- 会場
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京都文化博物館 2階総合展示室
(〒604-8183 京都市中京区高倉通り三条上る東片町623-1) - 開室時間
- 10:00~19:30(入場は19:00まで)
- 休館日
- 月曜日(ただし、5月4日は開館)、5月7日(木)
- サイトURL
- 観覧料/チケット料金
- 一般600円(480円)、大学生400円(320円)、高校生以下無料
※( )内は20名以上の団体料金
※フィルムシアター(3階)もご覧いただけます。
(ただし催事により別途料金が必要な場合があります)
