2014年6月19日
ndjc2012への参加と,夢とその実現について
映画監督・鈴木研一郎
2012年,「若手映画作家育成プロジェクト(ndjc2012)」に参加させていただきました。書類選考とワークショップを通して選出された5人の若手映像クリエイターが本格的な短編映画を制作する,という大変魅力的な事業で,貴重な35ミリフィルムを使用し撮影を行える,またとない機会でした。
加えて私の作品『ラララ・ランドリー』は,物語に音楽が大きく絡む,いわゆる「ミュージカル映画」でしたので,余り作られることのない国産ミュージカル映画に,一流のキャスト・スタッフとともに挑戦できるというのは夢のような話でした。このようなチャンスをくださったndjcの関係者の方々に,心から感謝したいと思います。
映画『ラララ・ランドリー』
夢,といえば,コインランドリーを使用した撮影3日目の夜に,こんなことがありました。『ラララ・ランドリー』キャストに渡部直也という俳優がいます。彼は同じ大学の先輩であり,私の学生時代の作品ほぼすべてに出演しています。様々な役柄をそつなくこなす器用な男で,年の割に頭髪がやや残念なことになっているのが特徴です。
俳優・渡部直也と私(鈴木研一郎)
その日は移動車を使用したミュージカルシーンの撮影がありました。スタッフの手によって,現場にレールと台車が効率よくセットされていきます。私と渡部はそれを眺めながら,どちらからともなく「凄いことだ」と話し出しました。
学生時代,自分たちにはとても手が出なかったドリー(撮影用の台車)やフィルムカメラが設置され,すばらしい技術をもったスタッフがそれらを操り,自分の「夢」を「現実」にすべく現場が一丸となって動いている。そしてその中でも我々は相変わらず,「監督」と「俳優」という立場でいられる。この奇跡,この幸せ。思ったことを思ったとおりにできない,そんな日々が続く中,この場所に必ず戻ってこなければならないと,心底そう感じました。
コインランドリーを使用した撮影現場
製作期間中,プレッシャーに負け思うように動けなかったことも数多くありました。どんな理由があれ作品の責任は監督にあり,にもかかわらず自分のやりたいことを見失うような瞬間すらあったことを,本当に情けなく感じています。
自分の新作『ハローゼア』は,出身地である静岡県浜松市を舞台に,市の助成事業の一環としてはじまった作品で,ndjcでの反省と思いを叩き込んだ,新たなミュージカル映画です。そして「夢」を「現実」にすることについて取り上げた,ある種自分自身を切り取った作品でもあります。渡部もさりげなく出演しています。
映画『ハローゼア』
やりたいことをやり続けるのは本当に厳しく,つらい体験をすることもありますが,少しずつ成長しながら前進していければと,そして作品を少しでも多くの方に観ていただけたらと,切に願うばかりです。
プロフィール
静岡県出身。早大卒。作品の演出・脚本から,劇中曲の作詞・作曲までを手掛ける。大学卒業後,ミュージカル中編『街の音,なにがしの唄』を製作。うえだ城下町映画祭,沖縄映像祭ほか,4つの映画祭で評価を得る。翌年,浜松市制100周年記念事業の一環としてミュージカルテイストの長編『プレイヤーズ!!』を製作。その後,文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2012」に選出,短編『ラララ・ランドリー』を監督。ndjc史上初のミュージカル映画作品として話題を呼ぶ。現在,みんなのはままつ創造プロジェクト採択事業,長編『ハローゼア』を撮影中。