2015年9月18日
『新しさの時代劇』
『合葬』監督・小林達夫
時代劇を観るか,現代劇を観るか。その選択を決する動機は人それぞれで,作品それぞれではあるのだろうが,映画館でどちらも選べる気近さに比して両者の見え方はあまりに違う。映画制作は集合写真と似ているから,集まるメンバー(役者・スタッフ)・旅行に行く場所(舞台・画)が変われば違った作品になっていくのだし,そのときのみんなの気分なんかも映るのかもしれないが,そうやって全て映画は当たり前に別々の集合写真だ!という認識に対して,時代劇は違いよりもその様式の同じさが先行しているのかもしれない。作り手と画の差異が置き去りになるのは観光地の絵はがきみたいで放ってはおけないので,やはり都度監督はこの映画は新しい時代劇なのだと口にする。自分も映画『合葬』を監督する際に「新しい時代劇」という言葉を何度も繰り返した。
©2015 杉浦日向子・MS.HS/「合葬」製作委員会
新しさ。それは伝統ある時代劇というジャンルを刷新するという意志での新しさもあるのだが,人が集まって映画が作られるときの一回性。この映画固有の息づかいを丁寧に伝えたいという想いだった。時代劇の経験のない自分が,時代劇を監督する困難さは大いにあり,舞台をその時代らしく見せるのは簡単にできることではないのだが,その様式の再現にとらわれてカメラの前で起こることの一回性をおざなりにしないように意識した。当たり前のことと言われるかもしれないが,時代劇という様式以上にこの映画らしさがストレートに伝われば幸いである。
杉浦日向子さんの原作「合葬」があり,渡辺あやさんの脚本があり,キャスト・スタッフが一丸となりこの映画は完成した。その始まりを与えてくれた「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」に感謝します。映画『合葬』を撮りたいという,誰のもとにも届くはずのない二年前の自分の小さな声が,こうして映画となり遠くの誰かにも観ていただけるチャンスがあるのは,このプロジェクトに参加して『合葬』のプロデューサー両氏と出会えたからです。
このコーナーの名前に沿っていうなら,すべての若手映画監督は,それぞれの問題意識と置かれている環境の社会的・文化的要請の中で日々闘っています。そのなかでプロジェクトによって特別な機会を与えてもらった自分は,普通の成功を夢見る資格もない気がするので映画を通して何かを返していけるようになりたいし,他人とは違うものをつくっていければと思う。
映画制作に限らず出会いと別れがあるなかで,これから公開される映画を観てもらえる場があるということは,いまの自分にとってかけがえのない喜びと感じます。この文章を読んでいる目の前のあなた一人にとっても,映画『合葬』との出会いが人生のかけがえのない瞬間となることを願います。
【プロフィール】
1985年生まれ,京都出身。2007年に短編『少年と町』が第10回京都国際学生映画祭グランプリを受賞。その後,京都を舞台にした長編自主映画『カントリーガール』(10) ,12年文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」にて短編『カサブランカの探偵』(13)を監督。2013年には,京都市芸術文化特別奨励者に認定される。最新作『合葬』(原作:杉浦日向子「合葬」)は2015年9月26日全国公開。