2016年9月1日
「ヤバいもの」が映るとき
映画監督 藤井悠輔
映画には名状し難い何かが映るときがあります。うまく言葉にできませんが,何かヤバいものが映ってしまったという感覚です。自分はそれを捉えたい,撮りたいという想いで映画を作っているところがあります。
昨年の「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」で,プロのスタッフ・キャストの方々とともに「罪とバス」を制作しました。ひとつのフレームの世界を皆で一喜一憂する撮影現場の空気がたまらなくいいなと思いました。撮影後,クタクタに疲れても,また明日が来るのが待ち遠しい。一度,あの空気を味わってしまうと,なかなか抜け出せない魅力があります。
脚本指導が終わってから,講師の柏原寛司さん(ndjc2015脚本指導講師)から「現場で一人でも多く味方につけた方が勝ちだ,頑張れよ」とメールをいただいて,それを肝に銘じて現場に臨みました。監督はもちろん決断する力は必要ですが,更に人を味方にして巻きこむ力も大事だなと感じました。「映画を本気になって作る人間が最低でも三人いれば,その映画は良い作品になる」と,大学卒業後,上京してお世話になったある監督が言っていましたが,今になって実感としてわかるようになりました。
『罪とバス』©2016VIPO
プロジェクトの特長でもある35mmフィルム撮影を経験できたのも,大きかったです。次の作品がデジタル撮影だとしても,フィルム撮影の緊張感のある現場を経験したことが活きると思います。今回の狙いは50,60年代のアメリカ映画にあった現実から少し離れた夢のような色彩豊かなトーン。例えば,ワーゲンバスのスカイブルーや中古車販売店の看板の赤,万国旗など色鮮やかなものを画の中に意識的に入れていきました。完成した作品をフィルムで試写すると,狙っていたトーンがよく出ていて,フィルムは色の幅が広く,すごく画が豊かに感じました。そこに登場する役者陣も画に馴染んでいると思います。
『罪とバス』©2016VIPO
作品の内容については,あのシーンはもっと粘れば良かったなとかいろいろと反省する点はあります。でも,最も撮りたかったボコボコにされて傷だらけになっても立ち上がる主人公ゴローの表情に名状し難い「ヤバいもの」が映ったのではないかと思います。
完成から約半年,今はまたヤバいものが撮りたくて,うずうずしています。
【プロフィール】
1980年京都府生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業後,商業映画の制作に携わり,現在はCM制作会社に勤務する。短編映画「COIN LAUNDRY」(2013),「はちきれそうだ」(2014)が,ショートショートフィルムフェスティバル & アジアやしたまちコメディ映画祭,アシアナ国際短編映画祭,ジャパンフィルムフェスティバルなど国内外の多数の映画祭で上映される。
文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2015」で,35mmフィルム作品「罪とバス」(2016)を監督。