2017年3月13日
仕事
映画監督 中尾浩之
死ぬまでにいったい何本の映画を作れるだろう?若いときから常に計算していました。年に一本だとすると,寿命が八十歳だとして二十歳でデビューしても60本しか作れない。いや,現実的に考えてせいぜい3年に一本ということになるだろうか。だとしたら,たった20本か・・・。(自分で脚本を書いて監督をする場合ですが)
そんなことを考えながら,温めていた企画がなかなか実現できずにあっと言う間に30歳を過ぎていました。寿命というタイムリミットを考えて,あと何本作れるかなと試算してみて,それしか作れないのかと愕然とする自分がいたわけです。まだ一本も本編を撮っていなかったのにもかかわらず。随分と図々しい若者ですね。
その焦りみたいなものを少しでも払拭しようと,短編を作ることにしました。短編映画では主にコメディが多かったです。観客のダイレクトな反応が笑いとして伝わってくるのが好きでした。

「THE SECRET SHOW」©2005 Pacific Voice Inc.
短編とはいえ,それなりに予算とエネルギーが必要です。制作にこぎつけるまでがなかなか難しい。なんとかならないかと考えている中,「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」で制作の機会を作っていただけることになりました。プロジェクトで制作した『LINE』もまたコメディです。上映会で起きた笑いは,今でも僕の財産になっています。本当に感謝しております。

「LINE」©2007 HIROYUKI NAKAO / VIPO
その後,NHKでテレビシリーズを作る機会が訪れました。歴史エンターテインメント番組「タイムスクープハンター」です。

「タイムスクープハンター」©NHK/P.I.C.S.
シーリーズは6年間続き,気づいたら総制作数は80本になっていました。おかげさまで劇場版まで作ることもできました。

「劇場版タイムスクープハンター 安土城 最後の1日」©TSH Film Partners
それだけ本数を作っても,創作に対する焦りみたいなものが無くなることはありません。やりたい企画がたくさんありすぎて,とにかく時間がない,というのが口癖のようになっています。
頭で描いたものを,ポンと映像で出してくれる機械でもあればいいんだけれど,それはそれでつまらない。映画づくりというのは,スタッフやキャストとの化学反応で,思いがけないシーンが生まれるのが醍醐味の一つなのです。それゆえ完成するまで膨大なエネルギーと時間を費やします。作れば作るほど命を削られていく感じがして,余計に焦ってしまうわけです。
今ではこう思うのです。作っても作っても作り足りない。その焦燥感みたいなものがなくなったらおしまいなんじゃないかと。だからこそ,僕は映像を作ることを『仕事』にしているのだと。
【プロフィール】
日本大学芸術学部放送学科卒。クリエイティブプロダクションP.I.C.S.所属映像クリエイター。「スチーム係長」が1998年MTV Station-IDコンテストにてグランプリを受賞。2000年カンヌ広告祭におけるニューディレクターズショーケースで世界の新人監督8人に選出される。2004年ショートフィルム「ZERO」が,アカデミー賞の登竜門でもあるSHORT SHORTS FILM FESTIVALにてグランプリ・審査員賞・学生審査員賞をトリプル受賞。2009年脚本・演出を手がけた歴史エンターテインメント番組「タイムスクープハンター」がNHK総合にて放送開始。以後6年に亘りSeason1~6が放送される。2013年夏には「劇場版タイムスクープハンター 安土城 最後の1日」が公開。現在Season1~6のDVD及び劇場版のDVD&Blu-layが発売中。
現在,様々なメディアで新プロジェクトが多数進行中。
主な受賞歴
- 2011年 ヒューゴ・テレビ賞(アメリカ・シカゴ国際映画祭)バラエティ・エンターテインメントシリーズ部門
タイムスクープハンター 奨励賞受賞 - 2010年 第27回 ATP賞テレビグランプリ2010 情報バラエティ部門 タイムスクープハンター スペシャル
「幕末決死行! ~江戸牢獄・限界長屋の実態~」最優秀賞受賞 - 2006年 Anifest 国際アニメーションフィルムフェスティバル「スチーム係長」Prize for the Best Television Film and Serial 受賞
- 2005年 文化庁メディア芸術祭 アニメーション部門「trainsurfer」審査員会推薦作品受賞