2017年7月3日
暗闇で汗をかく
映画監督 堀江貴大
自主制作で映画を作り始めた福岡の大学1年生の冬,友達と一緒に作った映画が青森のショートフィルムコンテストで上映していただけることになり,一人真冬の青森へと向かいました。上映会場の大きなスクリーンに自分の映画が映し出された瞬間,暗闇に包まれた観客席の中にいた僕の全身から大量の汗が噴き出してきました。自分の作った映画が全然知らない人たちに観られている。自分が丸裸にされて観られているような気分で,それまで味わったこともない恥ずかしさなのか嬉しさなのか得体の知れない感情に襲われました。汗は止まらない,当然上映も止まりません。その日を境にして,映画のことを考えない日はないという映画に呪われた人生が始まりました。
東京藝大大学院の映画専攻への入学を機に神奈川に移り住み,新しい環境で映画を作り始めました。そこではたくさんの仲間との出会いがあり,大人数で映画を作ることの面白さや難しさを知りました。大学院卒業後に参加した「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」では,制作プロダクションの元で初めてプロのスタッフの方々と映画を制作する機会を頂き,短編映画『はなくじらちちち』を監督しました。このプロジェクトを経てハッキリと意識するようになったことは,自分の演出や思いを,スタッフキャストの皆さん,そしてお客さんに伝える事が監督の仕事だということです。それは,商業映画の世界で活躍する方々と一緒に映画を作ることで学ぶことができたかけがえのない財産です。

『はなくじらちち』
©2016 VIPO
昨年末,幸運な出会いに恵まれて,藝大の修了制作として監督した初めての長編映画『いたくても いたくても』を劇場公開することができました。そのときお客さんから頂いた感想は次の作品への原動力となっています。

『いたくても いたくても』
©東京藝術大学大学院映像研究科
そして,商業長編デビュー作となる『ANIMAを撃て!』が,7月15日(土)より開催されます「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017」のオープニング作品として上映されます。主人公の女性コンテンポラリーダンサーは,自分だけにしか踊れないダンスを探してもがきます。僕自身,自分にしか撮れない映画があると信じて映画を作り続けてきました。劇場の暗闇が明るくなったとき,お客さんの心に熱いものが残っている,そんな映画を目指しました。
“映画は観られて完成する”,青森でのあの日からそう思い続けてきました。汗をかかずに自分の映画を観客席で観ることができる日は一生訪れないかもしれないけれど,だからこそこれからも映画を作り続けていきたいです。

『ANIMAを撃て!』
©2017埼玉県/SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ
【プロフィール】
堀江貴大
1988年岐阜県出身。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域修了。文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2015」に参加し,短編映画『はなくじらちち』(16)を監督。初長編作『いたくても いたくても』(15)は,SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2016のコンペティションにノミネートされたほか,第16回TAMA NEW WAVEコンペティションにてグランプリ,ベスト男優賞,ベスト女優賞を受賞。その後,全国劇場公開された。また,商業長編デビュー作となる『ANIMAを撃て!』がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017のオープニング作品として上映予定。