2017年9月1日
新谷寛行の休日
映画監督 新谷 寛行

『ジョニーの休日』©2017 VIPO
今回「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」で選出していただいたときに,僕の友人・知人が放った言葉は「大丈夫なの?」でした。
それは当然で,映像編集を中心に生計を立てているものの,13分ちょっとの短編映画1本を撮っただけで,映画制作に関してはズブの素人。その短編も周りのスタッフに頼りきって,自分も役者で出てしまった作品です。ヤバい,みなさん,僕のことを買い被ってらっしゃる,と完全にビビりまくっていました。それは物語冒頭の主人公の状況と同じでした。今回制作させていただいた『ジョニーの休日』は,「変わらない男が大変な状況に出くわして,自分が変わっていないことに気づく物語」です。
振り返ると,脚本指導含めて完成までに多くのスタッフやキャストの方々に支えていただきました。

『ジョニーの休日』撮影風景,東映東京撮影所にて
今作では幸運なことに全編セットで撮影させていただきました。それに当たり,美術の福澤さんと撮影前に新宿のションベン横丁でお会いすることとなり,今まで経験した現場のこと,各スタッフの仕事についてなどいろいろお話していただきました。後日聞いたところによると,新宿スバル前で解散したスタッフが立ち寄るのがその界わいだそうで,まさに映画業界の通過儀礼をさせていただいたような気持ちでした。最初はプロの方ばかりの現場で何をすべきか,全くわかりませんでした。徐々にモニターにかじりつくようになってしまい,あるスタッフの方にカメラの横にいた方が良い,と御指摘いただき,少しずつ自分がしたいことを発言できるようになりました。キャストの皆さんも僕がどうしたいのかを親切に聞いていただき,演出なるものが少しずつわかったような気がします。撮影後は,セット内で打ち上げをしていただき,舞台になった茶の間での「宴」は一生の思い出です。
ほとんどの人が社会に出て,身の丈以上の仕事に戸惑って悩んで怒られて,何とか帳尻を合わせているうちに,身の丈を仕事に近づけていくのだと思います。僕はこの歳になるまでそういったことから逃げて,職場を転々としてきました。身の丈以上の仕事を任される状況を自分で作ることもしませんでした。これからは卑屈にならず自虐的な言葉を発してヘラヘラするのはやめて,人と正面から向き合い,社会との接点を模索して生きていこうと思います。誰もが当たり前のようにやっていたことに,やっと気づきました。
ちなみに完成した作品を観て,僕の友人・知人が放った言葉は「ジョニーって,おまえでしょ?」でした。
【プロフィール】
1980年大阪府生まれ。京都産業大学卒業。大阪の映像制作事務所で修行ののち,2006年上京,イベント会社映像制作部に入社する。2008年に退社後は,様々な制作現場で経験を積む。初めて監督した短編「カミソリ」(2015)が水戸短編映像祭,ショートショート フィルムフェスティバル & アジア,福岡インディペンデント映画祭(優秀賞),札幌国際短編映画祭をはじめとして,世界各国で上映。