2018年3月15日
『声』
映画監督 岡太地
この連載のタイトルは『若手映画監督の声』。ちょっとここでは『声』に着目して,映画を作る人間が,映画ではなくて『声』を上げなければならない理由を考えてみたいと思います。
『川越街道』 (C)ENBUゼミナール
実写の映画を作るのには,他人や資金の協力が必要不可欠。その協力は黙っていても得られません。不思議なことに,世の中には誰かに映画を撮らせてあげたい,という人がいるのです。ただその人に気づいてもらうためには,喉を大きく開けて「撮りたい!」と『声』を上げなければいけません。そうしないと何も撮れない,撮って生きていくことはできないと思います。誰も目の前にお膳立てはしてくれません。
『川越街道』 (C)ENBUゼミナール
今年3月31日からロードショーされる僕の監督作品『川越街道』は,何かをしたいのに,できないでいる時間の無力さ。そこからのささやかな希望を描いた映画です。昔,学校を出た後,映画作品を次に繋げることができず実家に帰って何もしていない,無力でニートな期間がありました。この時のやるせなさといったら,思い出しても涙が出るほどです。それでも何か撮りたい,と企画応募の機会があれば動きました。
『川越街道』 (C)ENBUゼミナール
チャンスを得て『ndjc:若手映画作家育成プロジェクト』で『屋根の上の赤い女』という作品を撮り,そこで新たな『映画の学校』を体験しました。実際の制作でしか学ぶことができない映画づくりの力を目の当たりにし,現場でも『声』を上げることを学びました。思いの丈を精一杯,表に,声に出すこと。プロのスタッフとの間で緊張のあまり黙ってしまわず,自分の思いを自分から伝えること。そこで初めて不思議なことに『聞いて』くれる人が現れるのです。伝えきれなかった悔しい思いは心の根っこに絡みつきます。若手映画監督は,必要以上にでも『声』を上げ続けないと存在できないのだと,今でも感じます。
『屋根の上の赤い女』 (C)2007 DAICHI OKA/VIPO
映画が人の心を動かすからこそ,だれかの声を『聞ける』人が産まれるのではないでしょうか。そのためにも良い映画を作らなくてはいけません。誰も『声』を聞く人がいなくなっては,私たちの世界は静かに閉じていきます。
【プロフィール】
映画監督。武蔵野美術大学映像学科非常勤講師。
1980年生まれ。京都府出身。大阪芸術大学映像学科・大学院修了。在学中に中島貞夫監督,大森一樹監督に師事。
映画作品にてぴあフィルムフェスティバル2005にて準グランプリその他3賞受賞をはじめ国内外で上映。お笑いトリオロバート主演映画『レトロの愛情』が2013年沖縄国際映画祭にて特別招待上映。2018年3月31日(土)より『川越街道』が池袋シネマ・ロサにてロードショー!