2018年5月22日
二刀流
映画監督 真田幹也
今日も海の向こうの大リーグから,エンゼルスの大谷翔平選手の活躍のニュースが届く。皆さんは自分のやりたいことが2つあった場合,ひとつに絞りますか?それとも2つとも叶えたいと思いますか?今回は「二刀流」ということをテーマに少し書かせていただきたいと思っています。
『ミドリムシの夢』 ©「ミドリムシの夢」製作委員会
普段は役者として活動している僕が,今回初めて長編映画を撮らせていただきました。「監督をやるなら,俺は絶対君を(役者として)使わない」とある監督さんに言われた言葉が今でも耳に残っています。役者,ましてや監督というのは職人でもあります。その職人の仕事を2つやるということは,ひとつのことに絞ってきた職人からしたら認めることはできない。役者も監督も,その道で成功するのはほんの一握り,そこまで甘くない職業。今考えるとその監督さんなりのアドバイスだったのかもしれません。
『Life Cycles』 © 2007 MIKIYA SANADA/VIPO
役者として自分の肉体を使って表現をするのには限界があります。でも,他の役者さんの肉体をお借りすればもっとたくさんのことを表現できるのではないか?僕は男だけど,女優さんの力を借りれば女にだってなれる。僕にはまだ貫禄はないけど,年配の役者さんの力を借りれば貫禄も出せる。
「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」に参加させていただき『Life Cycles』という作品を監督させていただき,僕の考えが確信に変わりました。
『ミドリムシの夢』撮影風景 ©「ミドリムシの夢」製作委員会
僕の頭の中の芝居を,他の役者さんに表現してもらう。そう考えると,僕の中では,監督も役者も何も変わらないのです。もちろん,芝居以外に作品全てに責任を持つということが監督には求められてきますが。撮影現場で他の役者さんと,あーだこーだ芝居の話をする,自分で芝居をするのも楽しいですが,皆で芝居を創っていくその作業が僕にとって最高の楽しい時間です。世間から見ると「二刀流」かもしれません。でも僕の中では繋がっていること,「監督」なのか「役者」なのかは観客の皆さんに決めていただければ良いことだと思っています。
僕らは「二兎を追うものは一兎も得ず」と当たり前のように教えられてきた世代に育ちました。しかし,今はそういう時代でしょうか?大谷選手のように簡単にホームランは打てませんが,僕なりの答えを探しながら「ミドリムシの夢」は完成に近づいていきます。公開の際には,是非劇場に足をお運びいただければ幸いです。
【プロフィール】
1974年東京都出身。自転車キンクリーツカンパニー所属。
演出家・蜷川幸雄氏の元で修行を積み,06年文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」に選出され,『Life Cycles』を監督。『キスナナ the Final』(主演 池松壮亮)が第6回沖縄国際映画祭にて上映,『オオカミによろしく』がちちぶ映画祭2014にてグランプリを受賞。
駐車禁止違反制度をモチーフにした長編作品『ミドリムシの夢』が2018年公開予定。
公式HP http://sanamiki.com/