2019年1月31日
次の世代へ繋げていくために
映画監督 浅野晋康
昨年(2018年)9月に,新作映画 『くらやみ祭の小川さん』を撮影しました。
東京・府中で毎年開催される「くらやみ祭」を題材にしたこの映画は,「思いがけず早期退職するハメになった主人公が,くらやみ祭に参加することで改めて家族と向き合い,人生再出発へと向かう」奮闘を描いたものです。

©︎ヴァンブック
そんな映画撮影の中で印象的だったのが,出演者の六角精児さんと柄本明さんが仰っていた言葉です。
それは,私が演出とともに「もし生理的・心情的にやりにくいようでしたら言ってください。」と伝えたことに対する応答だったのですが,それぞれ言い方は違えど,期せずしてお二人が同じような意味の発言をされたのです。
「やりにくい芝居なんてないんだよ。やりやすい芝居もないけれど。」
お二人が口にされたのはこのような意味の言葉でした。
この世界には様々な演技体系・出自を持った俳優がいます。その中には,演出に対して「それは生理的・心情的にできない」と仰る方もいます。もちろん私はそうした想いも尊重したいと考えていますが,その一方でこのお二人のような姿勢に接すると,強い共感とともにハッとさせられるものがあります。「どんな球でもちゃんと打ち返すのが俳優の仕事だ」という覚悟と,「その覚悟をお前は持っているのか?」という厳しいまなざしを感じるからだと思います。

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いまの私には,こうした時間の積み重ねが何よりも幸福だと感じられます。 思い起こせば,ndjc 2009の「きみは僕の未来」に参加したとき,撮影終了の際にスタッフから労いのプレゼントを頂いたことがありました。いま思えばそれは「この苛酷なプロの世界へようこそ」という大いなる励ましであり,私を映画監督としてのスタート地点に導いてくれるものでした。
そして今回の映画でも,撮影終了の際に主演の六角精児さんから花束を頂きました。やはり受け取ったものは労いの気持ちだけではなかったと感じます。「もっともっと面白い映画を作らなければいけない」「作り続けなければいけない」,そして「いま私が受け取ったものを,次の世代へと繋げていかなければいけない」,そんな大きな決意へと私を導いてくれたからです。

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そのような想いとともに完成した映画『くらやみ祭の小川さん』は,キャスト・スタッフの尽力により,幅広い世代の方に楽しんでいただけるものになりました。是非公開の際には劇場で御覧ください!

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【プロフィール】
浅野 晋康 (あさの ゆきやす)
1977年岐阜県大垣市出身。株式会社ノックアウト所属。
専門学校在学中より映画制作を始める。自主制作映画『新しい予感』『Catchball With ニコル』が,ぴあフィルムフェスティバルPFFアワード2004&2006入選。
その後,2006年に監督作『A DAY IN THE LIFE』が劇場公開。
2009年には,ndjc2009に選出され,35mmフィルム短編映画『きみは僕の未来』を監督した。
これまでの主な監督作品は,映画『いかれたベイビー』(13年),ドラマ『俺たち絶体絶命!』(13年),ドラマ『愛してCRAZY』(14年)など。脚本作品としては,2017年公開の映画『一礼して,キス』(監督:古澤健)がある。
またその他にも,演劇ユニット「エマニュエル」を主宰し,定期的に作品制作を行っている。
最新作は,自らのオリジナル脚本を監督した映画『くらやみ祭の小川さん』(2019年公開予定)。