2019年7月17日
五億円のじんせい観てよ
映画監督 文 晟豪
屋上から飛び降りようとしている人を説得して思いとどまらせる。そんな場面に出くわすことは一生のうちに,あっても万が一。せいぜい万が二くらいでしょうか。そんなとき,自分は説得できる自信はありません。十回のうちに二回くらいは成功するかもしれませんが,最初の一回目で成功する自信もありません。
「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」に参加して5年が経ち元号も変わった7月,映画「五億円のじんせい」が公開されます。生きる意味,命とお金の価値に触れたオリジナル作品です。
「五億円のじんせい」は海外で心臓移植をするために必要な5億円が募金で集まり,手術が成功したある男の子のその後のお話です。高校生になった男の子は,たくさんのお金で救われたというプレッシャーに勝てなくて,その命を絶つことにします。ただ,見知らぬ誰かに「死ぬ前にお金を清算してから死なない?」と言われたことが発端となり,様々なアルバイトをする旅に出ます。外の世界を知らず,無難ないい子をこなしていた青年は,死ぬための旅を通して,いつしか生きる意味を探し始めます。

©2019 『五億円のじんせい』NEW CINEMA PROJECT
この企画のきっかけは「心臓移植を受けた子って,気軽にシャツの第一ボタンもあけられない。息苦しくしてたら本来楽しめるはずのことも逃しちゃうよね」とふと感じた所からスタートしました。
なので,現状の心臓移植手術に一石を投じたい話ではないんです。映画の青年は息苦しく生きている人の代表です。
話は戻りますが,屋上で飛び降りようとしている人に自分が鉢合わせる機会は万が一です。そして説得も自分にはできない。でも,息苦しくて耐えられなくなった人たちが屋上に上る前に,この映画が劇場で届き,十回のうち八回くらいは説得してくれると信じます(希望はもちろん十割です)。
映画監督と社会の関わり方ってそういうものじゃないですか?いやそういうものでしょ。
そして万が一,この先屋上で飛び降りようとしている人に出くわしたら「五億円のじんせい観てよ」って言います。

©2019 『五億円のじんせい』NEW CINEMA PROJECT

【プロフィール】
文 晟豪 (ムン ソンホ)
広島県出身。
韓国ソウルにある弘益(ホンイク)大学視覚デザイン科映像専攻卒業。
CM制作会社、CS放送局で映像の企画制作やOAP(On Air Promotion)を担当した後、2013年からフリーランスに。
同年、文化庁委託事業「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」で短編映画『ミチずレ』(脚本/監督)を発表。
2017年 GYAO+Amuseによる映画製作オーディション企画 「NEW CINEMA PROJECT」第1回グランプリに「五億円のじんせい」が選ばれる。
NEW CINEMA PROJECTで完成させた初長編作品「五億円のじんせい」は2019年7月20日(土)よりユーロスペース他全国順次公開。