2020年11月26日
コメディの中にテーマ
監督・脚本 藤澤浩和
脚本を書く際,リサーチが好きなので本を読んで調べたり,現場に見に行ったりする事が多いです。
ある日,競技ダンス動画を見て「とても激しく,見て楽しい表現スポーツだな」と思い,次の休日に横浜で行われる大会を見つけ出し,中々なお値段のする入場料を払って競技ダンス大会の初観戦をした事が,映画『レディ・トゥ・レディ』の始まりでした。
会場ぎっしりに,ガッチガチにメイクした(表情の印象も審査の対象になる為,目尻をガッツリあげたりします)ダンサーたち。クレオパトラみたいな女性がパートナーの男性に,「あなたのリード全然ダメじゃない!…お腹すいた,ファミレス行こ!」と,シビアにダメ出しした後に庶民的な話をする落差…しかしながら,一度フロアに出れば,阿吽の呼吸で舞い踊り,何より楽しそうで美しかった。
聞けば,毎週こんなお祭り騒ぎをやっているらしく,「調べて映画にしたい」と強く思うようになりました。

©2020 イングス
特定の競技や世界を映画にする際,「他では代替不可能な事」を抽出して,テーマにしたいと考えています。
今回の場合「リード&フォロー」でした。競技ダンスは一人で踊る事はできません。男性を「リーダー」女性を「フォロー」として,お互いを支え合い,一つの表現とします。
この概念を一番効果的にドラマに落とし込む方法は,何だろう…。そう考え,ログライン,テーマを探って行った結果「前代未聞の同性カップルによるダンス」という物語が形作られていきました。

©2020 イングス
ndjcでは「嘘々実実」という,面接で嘘をついた就活生が,嘘を埋める努力をする内に自分の道を切り開く話を書きました。
比較的自分に近い話だったのですが,「何を伝えたいか」をつかみ取るまでにとても時間がかかり,御指導いただきました。自分が面白いと思うものと,語るべきものを結び付ける事に慣れていなかったのだと思います。
今回は「女性同士の社交ダンス」という,一見自分からはとても遠いものを扱っていますが,描かれるのはパートナーシップや,決まりに捕らわれずに生きるといった,普遍的な事だったりします。
コメディに「いま語るべき」テーマを潜ませ,見る前と後とで,世界の見え方が違って見えるものを作りたいというのは,自分の変わらぬ想いです。ndjcの時に,朧気に感じていた事が,今ははっきりとした輪郭をもっています。

©2020 イングス
そして,映画は見てもらって完成すると思っています。劇場で御覧いただければ幸いです。
【プロフィール】
藤澤浩和(ふじさわ・ひろかず)
1981年兵庫県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。大学在学中から 自主映画を制作する。 卒業後『パッチギ!』(監督:井筒和幸)にボランティアスタッフとして参加。 その後上京し,助監督として崔洋一,金子修介,深作健太,矢口史靖,ミシェル・ゴンドリーなど多くの監督のもとで経験を積む。 2011年文化庁委託事業「若手映画作家育成プロジェクト」で「嘘々実実」を監督。 初長編となる前代未聞の女性同士の社交ダンスを描いた『レディ・トゥ・レディ』が,2020年12月11日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー