2021年9月16日
映画は生まれ変わり続ける
映画監督・脚本家 堀江貴大
私はndjc2015に参加し、短編映画『はなくじらちち』を監督した後、2018年に『ANIMAを撃て!』というオリジナル長編映画で商業映画監督としてデビューをしました。
そして、現在公開中の映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』が商業長編映画2作目の監督・脚本作になります。
©︎2021『先生、私の隣に座っていただけませんか?』製作委員会
これまで監督した2作品は、共に原作のないオリジナルの長編映画です。
ゼロからイチを生み出す力は、『はなくじらちち』を作ったことで自分に身についたものだと感じます。自分の作りたい映画をゼロから作り出すことは楽しさと喜びがありますが、まず最初に予算を集めることの難しさがあり、映画化に向けて動き始めたとしてもそこから自ら脚本を書いていくことになるため多大なる労力と時間をかけることになります。
『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は、「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM 2018」で準グランプリをいただいたことで幸運にも映画化が決まりました。
しかし、やはり企画から公開まで数えると約3年間という月日があっという間に過ぎて行きました。
©︎2021『先生、私の隣に座っていただけませんか?』製作委員会
この映画は、「夫の不倫を知った漫画家の妻が、その不倫を題材に実録不倫漫画を描くことで夫に復讐する物語」です。つまり、「不倫」を題材に扱った作品です。
「不倫」が題材の作品というと、嫉妬渦巻くドロドロとした闘いが繰り広げられる作品を思い浮かばれるかもしれません。ですが、この作品で僕がやりたかったことは、「不倫」を題材にサスペンスフルな喜劇を作るということでした。
©︎2021『先生、私の隣に座っていただけませんか?』製作委員会
物語という内容があり、それをどう語るのかという形式があり、その関わり合いにこそオリジナリティがあるのだと思います。自分がオリジナルで映画を作りたいと思う瞬間は、物語と形式に新たな関係性を見つけた時にこそあります。
「不倫」というシリアスな題材を、先読みできないハラハラドキする展開でユーモアを交えて描く、ということが僕が考えるこの映画のオリジナリティでした。
©︎2021『先生、私の隣に座っていただけませんか?』製作委員会
この物語に血を通わせてくれたのが、この映画に携わるスタッフキャストの皆さんのお力です。脚本という僕が思い描いた一つのビジョンを素材に、意見を交わし合い、やがて言わずとも互いの思うことを感じ合いながら、一本の映画を作っていく。たくさんの人のビジョンが合わさって一本の映画が出来上がっていく過程は、とても危うく、故にスリリングで面白いです。撮影で、編集で、映画が生まれ変わる、そんな奇跡のような瞬間に自分は監督としてこの映画作りの中で何度も立ち会うことができました。
そうして完成した映画は、皆さんの人生が合わさった結晶のようなものに感じます。
この映画が、僕の手から離れお客さんの元に届いて、また新たに生まれ変わり続けていくことを想像するとワクワクします。
【プロフィール】
1988年生まれ、岐阜県出身。
東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻監督領域修了。ndjc2015に参加し、短編映画『はなくじらちち』(16)を監督。初の長編映画『いたくてもいたくても』(15)は、第16回 TAMA NEW WAVE コンペティションにてグランプリ、ベスト男優賞、ベスト女優賞を受賞。2018年、『ANIMAを撃て!』で商業長編デビューを果たす。
映像クリエイターと作品企画の発掘プログラム「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM FILM 2018」で準グランプリ受賞作品に輝いた『先生、私の隣に座っていただけませんか?』が劇場公開を迎えた。