2022年5月17日
いつか竹馬でダンスを
映画監督・吉野耕平
今年5月20日、二本目の長編となる『ハケンアニメ!』が公開になります。新人アニメ監督とスランプから復帰した天才監督が1クールのテレビアニメを舞台に対決する物語です。原作は三人の女性の視点から描かれるオムニバス色の強い構成ですが、映画ではその一人、新人の斎藤瞳監督の視点を中心にした構成になっています。
©️2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
初めてこの映画のオファーを頂いたのは、ndjcで短編『エンドローラーズ』を撮った後のことでした。次は長編に、と意気込んではいてもどうしたらいいかわからず、日々企画らしいものを書いては右往左往していたところを『エンドローラーズ』を観たプロデューサーからの突然のオファー。しかも内容は偶然にもまさに自分も映画化したいと思っていた小説。幸運ここに極まれりという状況でした。
©️2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
...が、しかし事はそうスムーズには進まず、そこから映画が本格的に動き出すまでに5年の月日が流れました。その間、紆余曲折あり別の初長編作『水曜日が消えた』に挑んでボロボロになり、人生初の娘が誕生して右往左往し、撮影に入った時には元号も世の中もすっかり変わっていた時期でした。
©️2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
しかし、結果的にそれこそがまさに最大の幸運と呼べるものだったのです。映画『ハケンアニメ!』の中心、新人アニメ監督である斎藤瞳の視点。それは人生で初めての状況に飛び込み、打ちのめされ、もがく人間の視点でした。誰もが経験するけれど、すぐに「あの頃は」「若かった」「青かった」という言葉とともに忘れてしまう視点。偶然にも初監督作を撮り終えた直後、その傷の痛みもリアルなままこの作品に向き合うことができたのは、本当に運が良いとしか言いようがありません。
©️2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
プロの現場で作品を撮るということは、ありとあらゆるプロフェッショナルが力を貸してくれて、自分本来の実力の何倍もの表現力を与えてくれるということです。乏しい才能に「下駄を履かせ」てくれるどころか、はるかに高い魔法の竹馬に乗せてくれます。しかしこの「魔法の竹馬」、慣れないとめちゃくちゃ怖いです。物凄い力とスピードが出る代わりに、すぐそれに振り回されフラフラ真っ直ぐ歩けない気になります。不安で立ち止まったり方向転換しようにも、どうしたらいいかもよくわかりません。恐怖に目がくらみ、蜃気楼が見えたり、いないはずの敵に怯えたり、何もないところでつまづきそうにもなります。周りを見ても相談できる相手は誰もいない(ような気がし)、望んで乗ったくせに全部投げ出して降りたくなってしまいます。(情けない限りです...)
©️2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会
『ハケンアニメ!』には、ndjc以来、自分が嫌というほど経験したそんな「新人あるある」を詰め込んでいます。直木賞・本屋大賞受賞作家である原作者・辻村さんの大人気小説。もっと上手に映画化できる人はいたかもしれません。しかし、自分以上にベストなタイミングで映画化に挑めた人はいないはず...。そんな何の根拠にも自信にもならない奇妙な感覚を信じて、今は公開を待っています。この世のどこかで今も次々生まれている新人、新しい世界に飛び込みもがく人に寄り添う作品になればいいなと願っています。自分もその一人であり続けたいと願いつつ。
【プロフィール】
吉野耕平
1979年大阪府生まれ。
CMやMVを中心に実写からアニメーション・CGまで幅広く制作。『夜の話』(2000)がPFFにて審査員特別賞を受賞。『日曜大工のすすめ』(11)が第16回釜山国際映画祭のショートフィルムスペシャルメンション受賞。ndjc2014で短編『エンドローラーズ』(15)・長編オムニバス映画『スクラップスクラッパー』(16)内『ファミリー』等、短編・中編映画
作品を撮り、映画『君の名は。』(16/新海誠監督)ではCG作家として参加。2020年に初の長編映画『水曜日が消えた』で脚本・監督・VFXを務める。