2023年9月15日
『浮上する』
映画監督・吉野耕平
2014年、ndjcで短編『エンドローラーズ』を撮ってから9年。長編三作目で潜水艦の映画を撮ることになりました。ロボットアームと喪服の物語から深海1000メートルの戦いの世界へ。まさかこんな未来が待っているとは夢にも思いませんでした。

©かわぐちかいじ/講談社
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この作品を通して、本物の現役潜水艦に乗せていただいたことをはじめ、さまざまな取材や撮影など貴重な体験をさせてもらいました。

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潜水艦には、調査用や観光用のものを除いて基本的に窓が一つもありません。そして一度海中に潜ってしまうと地上との通信もほとんどできません。真っ暗な海中を、特殊な計器から得られるわずかな情報を頼りに計算し、予測しながらひたすら孤独に進むことになります。自分たちがどこに向かっているのか、その道が正しいのか、全てを知ることができるのは海上に顔を出して、後ろを振り返ったときのみです。
それはどこか、映画作りにも似ているように思いました。

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映画作りは基本的に、たくさんの小さな要素を積み重ね、ひとつの大きな物語を描いていきます。驚きの表情・悲しいセリフ・想いを秘めて歩く後ろ姿のショットなど、無数の断片が編集で繋げられ、CGや合成が入り、音が重なります。あらゆる分野のスタッフがそれぞれの持ち場で一つ一つ力を尽くし、作り上げていきます。

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どんなストーリーを伝え、どんな感情のうねりを導きたいのか、何度も想像し、検討し、作業を進めます。しかしそれら全てが組み合わさり、一つになった先の姿を、実は誰も正確には知りません。
もちろん監督も、です。
ただ完成したものを観て初めて、自分達が進んできたものの答え合わせができるのです。

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VFXたっぷりのSF大作でも、繊細な心の機微を描いた短編でも、基本的にそれは変わりません。誰も答えを知らない暗闇の中、想像力を働かせながら話し合い、互いを信じ、時に疑い、進んでいく。おそらく映画というものが生まれたその時から、作り手たちはそれぞれの現場でそんな旅を繰り返してきたのだと思います。振り返れば9年前、ndjcでの短編映画製作で、その旅の入り口を教えてもらえたような気がします。

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さて、このたびいよいよ映画『沈黙の艦隊』が長い潜航を終えて公開になります。
この時代に、この時期に、世の中へと浮上していくことになります。

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どんな作品なのか、どう受け止められるのか、作りながらなんとか精一杯考えてきたつもりですが、それが正しかったのか、大間違いだったのか、これを書いている時点で誰も答えも知りません。
もちろん監督も、です。
ただ今は、映画作りという魅力的な暗闇から浮上したばかりのこの作品を是非、劇場でご覧いただければと願うばかりです。
【プロフィール】
吉野耕平
1979年大阪府生まれ。
CMやMVを中心に実写からアニメーション・CGまで幅広く制作。『夜の話』(2000)がPFFにて審査員特別賞を受賞。『日曜大工のすすめ』(11)が第16回釜山国際映画祭のショートフィルムスペシャルメンション受賞。ndjc2014で短編『エンドローラーズ』(15)・長編オムニバス映画『スクラップスクラッパー』(16)内『ファミリー』等、短編・中編映画 作品を撮り、映画『君の名は。』(16/新海誠監督)ではCG作家として参加。『水曜日が消えた』(20)で劇場長編監督デビュー。『ハケンアニメ!』(22)で再び監督を務め、長編映画監督3作品目『沈黙の艦隊』が2023年9月29日公開。