2024年8月14日
国際企画マーケットの経験をとおして
映画監督・坂本悠花里
ndjc2022「長編映画の企画・脚本開発サポート」にて、『白の花果』という長編映画の企画を選出していただき、講師の方々とともに脚本を練り上げ、パイロット版の映像を制作しました。
今回、私はこの『白の花果』で、2024年3月に開催された香港国際映画祭併設の企画マーケット「The Hong Kong – Asia Film Financing Forum (HAF)」に参加しました。HAFは、アジアの国々の企画を対象に、国際共同製作の可能性を探っていくマーケットです。世界中の製作会社、プロデューサー、機材やポストプロダクションの会社、宣伝や配給の会社、フィルムコミッション、映画祭のプログラマーなどがゲストとして参加し、ゲストたちは興味のある企画にビジネスミーティングを申し込みます。
『白の花果』も多くのゲストから、ビジネスミーティングの申込みをいただきました。

HAFでインタビューを受けている様子
(C)Yukari Sakamoto
ビジネスミーティングで質問されることは様々です。たとえば、「あとどのくらい予算が必要なのか」、「どういったスケジュールなのか」というような制作に関することから、「何故この作品をつくろうと思ったのか」、「タイトルの意味は何か」といった作品の内容に関することまであります。思わぬところで反応が良かったり、反対に厳しい意見をもらったりすることもあり、作品について客観的に見つめ直す良い機会になりました。
HAFでは、参加した企画を対象に賞が用意されています。『白の花果』は、ウディネ・ファーイースト映画祭(※)の方に選んでいただき、ウディネ フォーカスアジア賞を受賞しました。そして、FOCUS ASIA 2024にも招待していただきました。
※ウディネ・ファーイースト映画祭 :イタリアのウディネで開催されるヨーロッパ最大のアジア映画祭

ウディネ フォーカスアジア賞を受賞
(C)Yukari Sakamoto
FOCUS ASIAは、アジアとヨーロッパでの国際共同製作を促進するためのマーケットで、2024年4~5月にイタリアのウディネで開催されました。ここでは、個別に行われるビジネスミーティングだけではなく、大勢のゲストの前でつたない英語ながら自分の思いをプレゼンテーションしたり、共同製作の事例や各国における宣伝方法の違いなどのカンファレンスに参加したり、とても有意義な時間を過ごすことができました。

FOCUS ASIA 2024
(C)Yukari Sakamoto
今回、HAFとFOCUS ASIAという2つの国際マーケットに参加することで、国際共同製作の知識が深まりました。また、各国の人と話す中で、「作品を自国だけではなく、当たり前のように世界へと広げていくのだ」という考えに強く刺激を受けました。私も世界を目指して、いつか様々な国で仕事をしたいという思いが高まりました。
それと同時に、英語で正確に意図や思いを伝えることができないもどかしさもあり、現実的に国際共同製作を目指すのならば、一番に、言語とコミュニケーションの問題を努力していかなければならないと感じました。
また、日本では一般的に、国内で映画製作の全てを終わらせる考えが浸透しているので、国際共同製作を行いたい場合は、企画の最初の段階から国外での製作も視野にいれなければならないと実感しました。
このように乗り越えるべきことはありますが、国際共同製作では、国内での既存のやり方にとらわれずに新たなクリエイティブの可能性を模索することができると強く感じています。
コミュニケーションの大事さと同時に、実は今回、『白の花果』という企画自体には、純粋に興味を持ってもらえている感触がありました。コミュニケーションが十分でなくても、この作品の「本当の他者理解とは一体なにか?」というテーマに共感してくれる人もおり、同じような感性や問題意識を持ってくれている人には、少ない言葉やイメージでも伝わるものがあるのだと感じました。賞をいただけたことも、何か心に引っかかりを感じてもらえることがあったからなのだと思います。
今回の経験をいかし、まずは良い映画をつくり、みなさんに観ていただけるように発表していくことを頑張っていきたいです。

『白の花果』(C)2023 VIPO
【プロフィール】
坂本 悠花里 (さかもと ゆかり)
1990年生まれ。上智大学で哲学を専攻後、東京藝術大学大学院映画専攻にて編集を学ぶ。2019年公開の『21世紀の女の子』で『reborn』を監督する。その後、2019年に制作した自主映画作品『レイのために』が第20回TAMA NEW WAVEコンペティション部門、大阪アジアン映画祭2020インディーフォーラム部門、大阪アジアン映画祭オンライン座などで入選・上映された。2022年にコロナ禍で制作した短編映像『木が呼んでいる』が藝大アートフェス2022でアート・ルネッサンス賞を受賞。ndjc2022「長編映画の企画・脚本開発サポート」で長編企画『白の花果』が選出される。