2014年11月5日
能・狂言ってなに?
国立能楽堂企画制作課 諸貫洋次
みなさんは能を見たことがありますか。狂言なら見たことがあるでしょうか。今では各地の劇場で狂言だけを上演する公演も増えましたが,能と狂言は能舞台という専用の舞台で600年以上もの長い間,一緒に演じ継がれてきた日本の古典劇です。でも,古典といっても決して古臭くなく,現代の私たちからみると,かえって新鮮に感じることがたくさんある演劇です。例えば能舞台では大きな舞台装置や背景を使うことはありません。演者の所作やセリフで舞台が山や海あるいは家の中といった情景となり,そこで起こるドラマを浮かび上がらせます。何もないからこそ観客の想像力を刺激する,こうした優れた演出や演技が国境やジャンルを越えて様々な芸術に影響を与えています。

狂言「鬼瓦」野村万作
狂言は中世の日常的な出来事を題材にしたものが多く,大半は二人か三人の少人数で演じられる,セリフを中心とした劇です。設定は中世ですが,描かれているのは現代でも変わらない人間の姿です。一定の様式に則った演技で喜怒哀楽を表現しますが,比較的写実性を持つ開放的な演技で,セリフも聞き取りやすいので,初めて見る方でもすぐに楽しめます。主人と太郎冠者など,おおらかでちょっぴり愚かな登場人物たちをきっと身近に感じることでしょう。

能「井筒」梅若玄祥
一方の能は歴史上の事件や物語などの文学作品を素材として書かれ,謡と呼ばれる歌と,舞を中心に進行する歌舞劇です。亡霊や鬼,神そして女性など多くの主人公は能面という世界でも類のないほど繊細な仮面と,美しく豪華な衣装を着用します。演技は狂言とは対照的に求心的で,最小限の動きで最大の効果をねらう表現方法をとります。地謡というコーラスや囃子という器楽演奏を伴うのも特徴です。能の言葉は和歌や連歌の手法を用いていて,すぐには聞き取れないかもしれませんが,事前にあらすじだけでも予習すれば大丈夫。必ず共感できる普遍的なテーマを持っていますので,歌舞伎や文楽とも違う独特の美しい演技に注目してみてください。
能のレパートリーは現在250ほどですが,能を現在のかたちにした世阿弥の作品は特に優れたものとされています。『伊勢物語』を題材に女性の恋を懐旧のうちに描いた「井筒」,『平家物語』を素材にした「忠度」や「清経」,子供を探し求める母を描く「桜川」などが人気演目です。国立能楽堂で12月に上演する「錦木」や1月に上演する「山姥」も世阿弥作品です。いずれも見て美しく,聞いて楽しめる作品ですので,ぜひ能楽堂に足をお運びください。

スーパー能「世阿弥」
また,国立能楽堂では能・狂言を新たに作ることもあります。昨年は世阿弥その人を主人公にしたその名もスーパー能「世阿弥」を上演しましたし,過去には少女漫画『ガラスの仮面』の作中劇「紅天女」を能にしたこともありました。初心者のみなさんは,そうした新作を入り口に能・狂言に親しんでいただくのもおすすめです。
未知の世界が広がる能と狂言。見ないともったいないですよ。
国立能楽堂 12月普及公演・1月定例公演
〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-18-1
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0570-07-9900,03-3230-3000[一部IP電話等] - 交通
- JR(総武線)千駄ヶ谷駅下車・徒歩5分
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東京メトロ(副都心線)北参道駅下車出口1又は2・徒歩7分 - 公演日時
- ・12月普及公演 平成26年12月13日(土)午後1時開演
解説/狂言「御茶の水」/能「錦木」 - ・1月定例公演 平成27年1月16日(金)午後6時30分開演
狂言「成上り」/能「山姥 白頭」 - 御観劇料
- ・一般 正面4,900円/脇正面3,200円/中正面2,700円
・学生 脇正面2,200円/中正面1,900円 - ホームページ
- http://www.ntj.jac.go.jp/nou.html