2015年6月9日
義経と知盛 ~悲しき2人のヒーロー~
『義経千本桜 ‐渡海屋の場 大物浦の場‐』
国立劇場制作部歌舞伎課 松田佳葉
「もし,あの時○○だったら……」「もし,この時××が△△していたら……」
歴史の授業を受けながら,あるいは旅行先で史跡を訪れて,皆さんはこんなふうに考えたことはありませんか。
歴史に“もし”はないといわれますが,だからこそ,あったかもしれない歴史の空想物語は私たちの心を惹きつけてやみません。それは昔の人々も同じだったようで,歌舞伎には,歴史の“もし”を扱った演目がたくさん存在します。今回ご紹介する『義経千本桜』もその一つ。『菅原伝授手習鑑』『仮名手本忠臣蔵』とともに三大名作と呼ばれ,現在でも高い人気を誇っています。
時は平安時代の末期,源平時代とも呼ばれる中世日本。武士の棟梁として台頭した平家一族は,平清盛の孫である安徳帝を天皇の位につけ,天皇の外戚(母方の親戚)として栄華を極めていました。平家の専制に不満の声が高まる中,ついに源氏一族が,対抗勢力として源頼朝を中心に反旗を翻します。

源平合戦図屏風(画像提供:東京国立博物館)
両者は激しい戦いを繰り広げましたが,頼朝の弟である源義経の活躍もあり,源氏が勝利。平家は壇ノ浦で滅亡します。しかし,勝利の立て役者である義経は頼朝に謀反の疑いをかけられ,追われる身となってしまいました。ここから『義経千本桜』の物語が始まります。
タイトルに義経の名前が入っていますが,物語の中心となるのは平家の武将たちです。壇ノ浦で滅びたと思われていた平家の武将がもし生きていたら,そして,ひそかに義経への復讐を企てていたとしたら……。平家と義経,敵同士の立場ではあれど,共に滅びゆく身である彼らの悲しい物語が,流転の身となった義経を軸に展開します。
7月の国立劇場では,その中でも人気の高いエピソードの一つ「渡海屋の場 大物浦の場」を上演します。
<渡海屋の場・大物浦の場 あらすじ>
義経一行は九州へ落ち延びるため,摂津国大物浦(現在の兵庫県尼崎市)の渡海屋という船宿に滞在しています。渡海屋の主人銀平は,男気あふれる頼もしい人物。妻のお柳とともに,義経一行の味方と思われました。
しかし銀平の正体は,壇ノ浦で入水し,死んだはずの平家の武将・平知盛だったのです!
妻のお柳は,天皇の乳母・典侍の局。そして二人の娘とされていたお安こそが,先の天皇・安徳帝その人でした。三人は庶民に姿を変え,義経へ復讐する機会をうかがっていたのです。
果たして,義経たちの運命は!?

平知盛(尾上菊之助),典侍の局(中村梅枝)
お話の主役である平知盛は,平清盛の四男。「平家物語」では,武勇に優れた聡明な武将として描かれています。お芝居では,颯爽とした海の男から一変,後半では誇り高き武将に大変身します。典侍の局も,しっかり者の船宿の女房から,上品な乳母に変わる難しい役どころ。役柄がまったく異なる人物を俳優が鮮やかに演じ分けるのも,お芝居の見どころのひとつです。
今年の夏は,ぜひ国立劇場で歌舞伎の世界に飛び込んでみませんか?
皆さんを,あったかもしれない,もう一つの源平の世界へご案内します!
国立劇場歌舞伎鑑賞教室 7月『義経千本桜』
(住所)〒102-8656 東京都千代田区隼町4-1
- お問合せ
- 【国立劇場チケットセンター】(午前10時~午後6時)
0570-07-9900,03-3230-3000[一部IP電話等] - 交通
- 東京メトロ半蔵門線・半蔵門駅より徒歩5分,半蔵門線・有楽町線・南北線永田町駅より徒歩8分
都営バス都03(晴海埠頭-四谷駅)三宅坂下車徒歩1分 - 公演日時
- 7月3日(金)~24日(金) 11時開演・2時30分開演
※10日(金)・17日(金)は2時30分のみ
※《社会人のための歌舞伎鑑賞教室》
=10日(金)・17日(金)6時30分開演 - 御観劇料
- ・一般:1等席3,900円,2等席1,500円
・学生:全席1,300円 - ホームページ
- http://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_l/2015/7153.html?lan=j
『親子で楽しむ歌舞伎教室』公演情報はこちら
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【インターネット予約・一般券のみ】
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