2015年8月12日
琉球王朝文化の華「琉球舞踊」
国立劇場おきなわ事業課 川満秀樹
「芸能の島」と称されるほど沖縄は歌や踊りが盛んな地域です。その昔,中国,東南アジア,日本などとの中継貿易をとおして富と繁栄を築いた琉球王国は,アジア諸国との交流の中で様々な異文化を吸収しつつ,独自の美学と感性で世界に誇りうる王朝文化を育みました。その象徴が組踊,琉球舞踊,三線音楽などの伝統芸能です。今回は,琉球王朝文化の華である琉球舞踊の歴史について御紹介します。
沖縄文化を代表する芸能である琉球舞踊は,琉球王朝を中心に発展した宮廷舞踊の「古典舞踊」,王朝崩壊後の商業演劇の中で生まれた「雑踊」,戦後に生まれた「創作舞踊」の三つに大別することができます。琉球舞踊の源流は,古い祭祀や儀礼にあるといわれ,手をこねる動きの「コネリ」,体のなよやかな動きの「ナヨリ」などはその面影を残しています。

古典舞踊 老人踊 「かぎやで風」

古典舞踊 若衆踊 「若衆ぜい」
琉球は,1429年に尚巴志王によって統一され,1879年の廃藩置県による琉球王国消滅まで,独立国として独自の文化を育んできました。琉球と中国の交流は,1372年に中山王察度が明の太祖洪武帝の招諭に応じて進貢関係を結んだのが始まりといわれています。中国皇帝が臣下の国の国王を任命することを「冊封」といい,琉球国王が即位する際に,それを認める勅書を携えて来る使者を「冊封使」といいます。冊封は,1404年の中山王武寧から1866年の最後の琉球国王尚泰までに20回以上行われました。琉球王府は,冊封使を迎えて数か月にわたる式典を行うとともに,一行を歓待するために豪華な宴を催しました。
琉球は中国との冊封・進貢関係を基として,広くアジア諸国と交易を行っていたため,冊封使歓待の宴を国家の一大事業として位置づけ重要視しました。そのため,王府は音楽,舞踊などをつかさどる役職である「踊奉行」を冊封使歓待の余興芸能の総合演出者に任じ,その監督のもと古歌謡おもろ,舞踊,組踊などの芸能を上演しました。冊封使は国王に授ける王冠を携えてきたことから,冊封使が乗る船のことを御冠船と呼び,一行を歓待するために演じられた芸能は「御冠船踊」と呼ばれました。

古典舞踊 女踊 「天川」

古典舞踊 二才踊 「高平良万歳」
1609年の薩摩藩の琉球侵攻後,琉球は薩摩の実質的な支配を受けつつも,形式的には中国皇帝の冊封を受けるという変則的なかたちで日本の幕藩体制に組み込まれました。以後,琉球は国王が即位するたびに江戸に「謝恩使」を派遣し,また,徳川将軍の代替わりのたびに「慶賀使」を派遣しました。この幕府への使者派遣を「江戸上り」といい,1634年から1850年まで18回行われました。一行の中には舞踊を踊るための踊童子が含まれ,江戸の徳川将軍の御前や薩摩藩邸で舞踊を披露したとの記録があります。また,琉球に常在する薩摩役人の歓待などでも舞踊が披露されていたといわれています。
古典舞踊の特色である磨かれた様式美と高い品性は,このような歴史的背景から生まれ,王府のひ護のもと芸術的に洗練されていきました。古典舞踊には,長寿と子孫繁栄を願う威厳と慈愛にあふれた「老人踊」,元服前の少年による華麗で若々しさを感じさせる祝儀舞踊の「若衆踊」,恋や愛を主題とした内面の情念を最小限に抑制された所作でその抽象化した美を表現する「女踊」,空手を基礎にして着付けや歌曲に大和芸能を取り入れた青年男子のきびきびとした動きをみせる「二才踊」などがあります。当時の踊り手は,全て男性で士族のエリートたちに限定されていました。
1879年の王国解体によって失業した御冠船芸能の担い手であった士族たちは,生計を立てるため首里から那覇の町に住まいを移し,粗末な芝居小屋で木戸銭をとって民衆相手に宮廷芸能を上演するようになりました。商業演劇を営む中で誕生したのが農漁村や庶民の暮らしぶりをモチーフにした「雑踊」です。優雅で抑制された形式美の古典舞踊とは対照的に,軽快なリズムにのって明るく楽しく踊られる雑踊は民衆の心をつかみました。

雑踊 「谷茶前」
戦後隆盛した伝統芸能活動の中で生み出された新しい踊りを「創作舞踊」といいます。古典舞踊の型や技法の研究の一方で,雑踊に新たな息吹を加えるような,琉球舞踊の魅力と可能性の広がりを思わせる優れた作品が数多く創作されています。

創作舞踊 「子守節」
この9月には,国指定重要無形文化財「琉球舞踊」保持者らが一堂に会する「琉球舞踊特選会」が上演されます。琉球王朝文化の薫りを今に伝える琉球舞踊の伝統美を至高の技芸でご堪能ください。
国立劇場おきなわ 9月公演 重要無形文化財保持者公演 琉球舞踊特選会
〒901-2122 沖縄県浦添市勢理客四丁目14番1号 国立劇場おきなわ 大劇場
- 問合せ
- 国立劇場おきなわチケットカウンター(午前10時~午後5時30分)
Tel 098-871-3350 - 交通
- バス:国立劇場おきなわ(結の街)バス停下車 徒歩約1分
勢理客バス停下車 徒歩約10分
車:那覇空港から約20分,モノレールおもろまち駅下車後車で約10分 - 公演日時
- 平成27年9月12日(土) 14時開演
- 御観劇料
- 一般:3,600円 大学生等:2,000円 高校生以下:1,000円
- ホームページ
-
http://www.nt-okinawa.or.jp/