2018年2月5日
継承される“芸”
国立劇場 制作部歌舞伎課 松崎彩加
400年以上の歴史を持つ歌舞伎。長い歴史の中で数々の名作が生まれ,多くの名優たちによって今日までその芸が継承されてきました。国立劇場3月歌舞伎公演では,上方(京・大坂)の中村鴈治郎家――成駒家と,江戸の尾上菊五郎家――音羽屋,それぞれの家にゆかりの深い2作品を取り上げます。代々継承されてきた芸の,新しい世代への継承をお楽しみください。

桃井若狭之助(中村鴈治郎)
『増補忠臣蔵―本蔵下屋敷―』は,『仮名手本忠臣蔵』の九段目「山科閑居」の前日譚とも言える作品です。人形浄瑠璃で上演されていた同作を,明治30年(1897)に初代中村鴈治郎が歌舞伎へ取り入れました。初代鴈治郎は,元禄期以来の和事(優美な色男の恋愛描写を中心にした,柔らかみのある演技)を継承する一方,時代物(主に江戸時代以前の歴史的事件を扱った作品)の主人公も得意としました。その一つが本作の主人公・桃井若狭之助です。風格を備えた演技で好評を博し,度々勤めました。その芸は二代目鴈治郎,三代目鴈治郎(現・坂田藤十郎)へと継承されています。代々の鴈治郎にゆかりある本作を東京では65年ぶりに上演し,当代鴈治郎が初役で若狭之助を勤めます。
<あらすじ>
塩冶判官の刃傷事件をめぐる一連の行動で主人・桃井若狭之助の怒りを買った加古川本蔵は,下屋敷で謹慎していました。そこへ若狭之助が訪れ,本蔵を成敗すると見せかけて,桃井家を乗っ取ろうと悪だくみをしている家来・井浪伴左衛門を切り伏せます。本蔵は娘の許婚の父・大星由良之助に討たれる覚悟を決めており,若狭之助はその本心を見抜いていたのです。若狭之助は本蔵の忠心を惜しみながらも,その望みを果たさせるため,虚無僧姿への変装を勧め,由良之助が主君の敵と狙う高師直邸の絵図面を渡し,大星家が住む山科へ出立させます。

髪結新三(尾上菊之助)
近代以降,五代目尾上菊五郎は歌舞伎作者の河竹黙阿弥と提携し,数々の作品を手掛けました。その代表作の一つが明治6年(1873)初演の『梅雨小袖昔八丈―髪結新三―』です。五代目菊五郎は,江戸前のすっきりとした芸風と「生世話」と呼ばれる写実的な演技で主人公・新三を演じ,当たり役としました。これを六代目菊五郎が練り上げ,当代菊五郎も継承しています。今回は菊五郎監修の下,後継者の尾上菊之助が,粋でいなせな悪党・髪結新三に初役で挑みます。
<あらすじ>
材木問屋白子屋の娘・お熊と手代の忠七は恋仲。しかし,お熊に婿を迎える話が持ち上がり,二人は悲嘆に暮れます。その様子に目をつけたのは,廻り(出張専門)の髪結・新三。新三は,忠七にお熊との駆け落ちを言葉巧みに唆します。その夜,新三はお熊を駕籠に乗せ自分の長屋へ送ると,忠七を傘で打ち据えて夜道に置き去りにします。実は,新三は忠七を利用してお熊を誘拐し,身代金を得ようと企んでいたのです。だまされたことを知った忠七は身投げをしようとしますが,それを引き留めたのは俠客の弥太五郎源七でした。源七はお熊を返すよう新三に掛け合いますが,はねつけられてしまいます。しかしその後,新三は大家の長兵衛に丸め込まれ,お熊を白子屋に返します。面目を潰された源七は,仕返しのため新三を待ち伏せるのでした。

今年は明治150年
平成30年(2018)は,明治元年(1868)から満150年の年に当たります。明治時代に初演され,100年以上にわたり世代を超えて受け継がれてきた2作品が,今新たな後継者に受け継がれようとしています。その瞬間を国立劇場で見届けませんか?
国立劇場 3月歌舞伎公演
『増補忠臣蔵-本蔵下屋敷-』『梅雨小袖昔八丈-髪結新三-』
(住所)〒102-8656 東京都千代田区隼町4-1
- お問合せ
- 《国立劇場チケットセンター》(午前10時~午後6時)
0570-07-9900,03-3230-3000[一部IP電話等] - 交通
- 東京メトロ半蔵門線・半蔵門駅から徒歩5分,半蔵門線・有楽町線・南北線永田町駅から徒歩8分
都営バス都03(晴海埠頭-四谷駅)三宅坂下車徒歩1分 - 公演日時
- 平成30年3月3日(土)~27日(火) 12時開演
16日(金)・23日(金)は午前11時30分・午後4時30分開演
10日(土)・11日(日)は休演 - 御観劇料
- 1等A席:9,800円 1等B席:6,400円
2等A席4,900円 2等B席:2,700円 3等席:1,800円
※学生・障害者の方は割引あり - ホームページ
- http://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_l/2017/3108.html
【インターネット予約】
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