2019年9月20日
300年の時を越えて
国立劇場おきなわ調査養成課課長 茂木仁史
<組踊上演300周年>
沖縄は今年,「組踊」の催しで賑わっています。歌と唱え(セリフ)と所作(演技と踊り)からなる演劇で,琉球国の踊奉行・玉城朝薫が1719年に初めて発表してから,今年で丁度300年の節目になるのです。
様々な取り組みのうち,最も興味を惹くテーマは,300年前の組踊はどのようなものだったか,でしょう。
<中山伝信録>
『中山伝信録』
当時,中国皇帝の命で琉球王を冊封(任命)する副使として訪れた徐葆光は,著書『中山伝信録』に観劇の様子を記しました。特に,上演中の舞台を描いた版画は貴重でしょう。首里城正殿の前に仮設舞台が組まれ,獅子舞が演じられています。左側の北殿からテーブル越しに見ている冊封使・冊封副使と,後ろ姿の琉球王も確認できます。舞台下には中国服の人々,舞台向こうの正殿の窓には頭上に髪を結った三名の人影が見えます。正殿の二階に王様以外の男性は入れなかったので,宮中の高貴な女性であろうと説明されてきました。
しかし不思議に思うことは,儒教の盛んな琉球で,女性が皇帝の使者や王様を見下ろすことが許されたのか。また,舞台は三方に欄干が巡らされ,登退場口がありません。楽屋はどうしたのでしょう。
絵画は,絵師の絵心によって実際にはあったものが省略され,また,形や大きさなども実際とは異なって描かれることがあります。舞台の疑問が氷解したのは,今から15年ほど前のこと。中国の故宮博物院の書庫でひっそりと眠っていた『冊封全図』が紹介されたのです。
<『冊封全図』による新発見>
『冊封全図』(故宮博物院蔵/国立劇場おきなわ10年誌より転載)
この絵には舞台後方に橋掛りと楽屋も描かれています。窓から覗いていた人影の代わりにテーブルとイスが置かれて見物人の存在を窺わせますが,この絵で見ると,そこは二階窓ではなく一階だと分かります。なんと『中山伝信録』の窓も,よくよく見れば一階だったのです。
実は,最新の研究で,『冊封全図』は『中山伝信録』の元本で,どちらも徐葆光の手になるものだと分かっています。美しく装丁され,たった一冊だけ清朝第四代皇帝の康煕帝に献上された画帳だったのです。
<タイムトラベル>
国立劇場おきなわでは,研究公演として隣接する公園を借用し,野外で当時の舞台を復元して上演します。橋掛り一つだけを登退場口とし,背後に幕の無い三方を見晴らす舞台です。演奏者も役者と同じ舞台上に座り,時には後見の役割も果たします。さてどんな風景か,幻想のタイムトラベルへ御案内します。
国立劇場おきなわ 10月研究公演
御冠船踊と組踊「執心鐘入」/「銘苅子」
(住所)〒901-2122 沖縄県浦添市勢理客4丁目14番1号 国立劇場おきなわ
- お問合せ
- 国立劇場おきなわチケットカウンター
098-871-3350(10:00~17:30) - 交通
-
バス:国立劇場おきなわ(結の街)バス停下車 徒歩約1分
勢理客バス停下車 徒歩約10分車 :那覇空港から約20分,モノレールおもろまち駅下車後車で約10分
- 公演日時
- 令和元年10月4日(金)・5日(土) 18:30開演
- 御観劇料
- 一般:3,700円 大学生等:2,000円 高校生以下:1,000円
※その他,各種割引あり。詳細はホームページを御覧ください。 - ホームページ
- http://www.nt-okinawa.or.jp/