2020年11月30日
所縁の能・狂言
―勧進能―
国立能楽堂企画制作課 佐藤恵一
「勧進」という言葉を御存じでしょうか。もともとは僧が布教活動の一環として自ら庶民の元へ出向き仏教の教えを説く行為を言っていたようですが,次第に寺社・仏像の建立・修繕のための寄進を求めながら布教することを「勧進」と呼ぶことが多くなりました。
その歴史は古く,奈良時代に東大寺の建立にも勧進が行われていたようですが,中世に入ると橋や道路の建設といった,いわば公共事業を目的とした勧進も行われるようになりました。また,寄進の対価として行われる行為も僧が教えを説くだけでなく,琵琶法師が平家物語を語る「勧進平家」,相撲の興行を開く「勧進相撲」といったものも行われるようになり,庶民の娯楽としての側面も生まれてきました。
そのような中,勧進を目的とした猿楽(能の古称)「勧進猿楽」も南北朝時代頃から度々催されるようになりました。勧進猿楽も多くは寺社・仏像の建立・修繕等を目的としていましたが,むしろ大和猿楽四座(現在の能楽の観世流・宝生流・金春流・金剛流の源流)の太夫(宗家)の権威や将軍家との繋がりを顕示する場としての役割が大きかったといえます。特に江戸時代中期になると,幕府の公許を得て,太夫一代につき一回限りの「一世一代能」と呼ばれる大規模な勧進能が催されるようになりました。
12月の国立能楽堂では「月間特集 所縁の能・狂言―勧進能―」と題し,歴史上著名な4つの勧進能にスポットを当て,それらの勧進能で演じられた能を,そのときのシテ(主役)を演じた役者の子孫により上演します。また,狂言もそれぞれの勧進能で演じられた演目を取り上げます。

1日の定例公演は,寛政5年(1464)に京都の賀茂川と高野川の合流点である糺の森で将軍・足利義政の後援により催された,大規模な勧進能の嚆矢である「糺河原勧進猿楽」を取り上げ,3世観世太夫の音阿弥が演じた世阿弥の名作「実盛」を26世宗家観世清和が演じます。
12日の普及公演では,永正2年(1505)に京都・粟田口で催された「粟田口勧進猿楽」で,金春太夫・金春禅鳳が子息・七郎氏照とともに演じた「舎利」を,金春安明・憲和の現宗家父子により上演します。
18日の定例公演では,寛延3年(1750)に15世宗家観世元章により15日間にわたって行われた「寛延勧進能」の中で,元章の弟で後に観世銕之丞家の祖となる観世織部が演じた「邯鄲」を,9世観世銕之丞が演じます。
そして26日の企画公演は,長らく観世太夫のみに認められていた「一世一代能」の中,弘化5年(1848)に唯一宝生太夫により催された「弘化勧進能」。15世宗家宝生弥五郎の演じた「鞍馬天狗」を20世宗家宝生和英により,勧進能の際と同じ「天狗揃(白頭別習とも)」の小書(特殊演出)で上演します。
また,公演期間中,国立能楽堂の展示室では勧進能にちなんだ様々な資料も展示されます。この機会に是非国立能楽堂へ足をお運びください。
国立能楽堂 12月公演 月間特集 所縁の能・狂言 ―勧進能―
(住所)〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-18-1
- お問合せ
- 《国立劇場チケットセンター》(午前10時~午後6時)
0570-07-9900,03-3230-3000[一部IP電話等] - 交通
-
JR(総武線)千駄ヶ谷駅下車・徒歩5分
都営地下鉄(大江戸線)国立競技場駅下車A4出口・徒歩5分
東京メトロ(副都心線)北参道駅下車出口1または2・徒歩7分
都バス(早81:渋谷-早大正門・黒77:目黒-千駄ヶ谷駅前)
千駄ヶ谷駅前下車・徒歩5分
ハチ公バス(神宮の杜ルート)国立能楽堂下車・すぐ - 公演日時と演目
-
・定例公演 令和2年12月1日(火)午後1時開演
◎糺河原勧進猿楽 おはなし/狂言「伊文字」/能「実盛」
・普及公演 令和2年12月12日(土)午後1時開演
◎粟田口勧進猿楽 解説・能楽あんない/狂言「猿聟」/能「舎利」
・定例公演 令和2年12月18日(金)午後6時30分開演
◎寛延勧進能 狂言「悪坊」/能「邯鄲 盤渉」
・企画公演 所縁の能狂言 令和2年12月26日(土)午後1時開演
◎弘化勧進能 狂言「米市」/能「鞍馬天狗 天狗揃」 - 観劇料
-
定例公演・普及公演
一般:正面5,000円/脇正面3,300円/中正面2,800円
学生:脇正面2,300円/中正面2,000円
企画公演
一般:正面6,400円/脇正面4,900円/中正面3,300円
学生:脇正面3,400円/中正面2,300円 - ホームページ
-
https://www.ntj.jac.go.jp/
【インターネット予約】
https://ticket.ntj.jac.go.jp/(パソコン・スマートフォン共通)