2021年9月17日
演出の様々な形 ―能・狂言の多様性を楽しむ―
国立能楽堂企画制作課 佐藤恵一
能・狂言は長い歴史を経ることで、同一の曲でも様々な演出上の工夫が施され、流派や小書(特殊演出)により、違った上演の様式を保っています。
国立能楽堂では平成26年から「演出の様々な形」と題し、同じ演目を複数回にわたり異なる演出で上演し、その違いを楽しむ公演を開催しています。8回目となる本年は11月と12月の2ヶ月にわたり、狂言「成上り」と能「海士(観世流)/海人 (金剛流)」をご覧いただきます。太刀を盗られた太郎冠者の面白おかしい説明が聞かせどころの「成上り」は、流儀により作品の構成が大きく異なり、また秘宝の珠を奪取しに龍宮へ向かった海女の物語「海士/海人」では、小書により特に後場(作品の後半)の扮装・型などが変化します。
狂言「成上り」
寺籠りへと出かけた主人と家来の太郎冠者。ところが、太郎冠者は主人の大切な太刀を手に眠りこけてしまい、そこへ現れたすっぱ(いたずら者)に太刀を竹とすり替えられてしまいます。翌朝、目を覚ました太郎冠者はそのことを主人に隠したまま帰途につき…。
太刀が竹に成り上がったという苦しい言い訳を思いつく太郎冠者ですが、そこで列挙される例えに流儀による内容や順序の違いが見られます。また、11月の大蔵流の上演では太郎冠者の飄々とした話に呆れた主人が叱るところで終曲となりますが、12月の和泉流では太刀を盗んだすっぱを捕らえようと奮闘するその後の主従の姿も描かれます。
能「海士/海人」
讃州(香川県)・志度の浦を訪れた房前の大臣(藤原房前)の前に一人の海女が現れます。房前の母はこの浦の海女で、龍神に奪われた宝珠を取り戻すべく自らの命と引き替えに珠を取り返したのだと、その様子を再現して見せた海女は、自分こそが房前の母の霊だと明かして姿を消します。房前が亡母に法華経を手向けると母の霊が龍女の姿で現れ、法華経の功徳によって救われたことを喜ぶのでした。
11月の観世流の小書「懐中之舞」では通常とは異なり、後シテ(後半の主役)・龍女が経巻を懐中したまま舞を舞うなどの変化が生じます。一方、12月の金剛流による上演では小書「変成男子」により、後シテは龍女でなく男体の龍王として現れるなど、両流それぞれの小書により独特な趣きをもって演じられます。
作品そのものの魅力とともに、能・狂言ならではの演出の多様な姿もお楽しみいただく絶好の機会です。どうぞ国立能楽堂へ足をお運び下さい。
国立能楽堂 11月・12月定例公演 演出の様々な形
(住所)〒151-0051 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-18-1
- 問合せ
- 《国立劇場チケットセンター》(午前10時~午後6時)
0570-07-9900、03-3230-3000[PHS・IP電話] - 交通
- JR(総武線)千駄ヶ谷駅下車・徒歩5分
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都バス(早81:渋谷-早大正門・黒77:目黒-千駄ヶ谷駅前)
千駄ヶ谷駅前下車・徒歩5分
ハチ公バス(神宮の杜ルート)国立能楽堂下車・すぐ - 公演日時と演目
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- 令和3年11月19日(金)午後5時30分開演
狂言「成上り」茂山茂(大蔵流)/
能「海士 懐中之舞」観世銕之丞(観世流) - 令和3年12月17日(金)午後5時30分開演
狂言「成上り」能村晶人(和泉流)/
能「海人 変成男子」廣田幸稔(金剛流)
- 令和3年11月19日(金)午後5時30分開演
- 観覧料(税込)
- 一般:正面5,000円/脇正面3,300円/中正面3,000円
学生:脇正面2,300円/中正面2,100円 - ホームページ
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【インターネット予約】
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