2022年10月25日
オペラの現代性への挑戦、『ボリス・ゴドゥノフ』
新国立劇場制作部オペラ 広報担当 高梨木綿子
新国立劇場のオペラ部門では、世界的指揮者の大野和士芸術監督の方針のもとで、オペラの現代性を発信し続けています。オペラというと、一般的に親しまれている作品はモーツァルトやヴェルディ、ワーグナーなど、18世紀~19世紀の作品が中心。200年も前の社会背景のもとで作曲されたものなので、いかに名曲であっても、現在の私たちの感覚で見ると少し状況の理解が難しかったり、リアリティに欠けたりして興ざめしてしまうこともあります。世界中のオペラ演出家が、古典作品でも現代の観客が共感してリアリティを感じるよう、「この人間関係に焦点を当てよう」とか、「現代のこの状況と同じ苦しみが描かれているのではないか」と考え、挑戦をしています。名作として愛されているオペラには、今の私たちの心に響くポイントがあるもの。それがオペラの現代性です。
新国立劇場オペラ『カルメン』(2021年公演)より 堀田力丸撮影
例えば有名なオペラ『カルメン』は、19世紀のファム・ファタール(男を滅ぼす運命的な女のこと)文学から生まれ、魔性の女カルメンに魅惑されたドン・ホセが身を亡ぼす、という物語ですが、2021年に新国立劇場で上演した『カルメン』では、演出家アレックス・オリエはカルメンを一人の意志を持った女性として描き、恋もするし迷いもするカルメンと、ひとたび恋をするとストーカー化するホセという、どこにでもある男女のすれ違いの悲劇として、舞台を現代の東京に変えて演出し、観客を驚かせました。
新国立劇場オペラ『ペレアスとメリザンド』(2022年)より 堀田力丸撮影
今年7月に上演した『ペレアスとメリザンド』も不思議な女性と結婚した中世の王子とその弟の三角関係の物語ですが、女性演出家のケイティ・ミッチェルは、なぜ不思議な行動をするのか考え、心に傷を負った女性が夢の中で自分の過去と向き合うという物語に変えました。この2作品とも現代感覚の物語に置き換えることで、観客は自分の身近な問題として物語を捉え、考えを巡らせることになりました。出演する歌手にとっても、リアリティがあればあるほど、音楽の表現にも自然に気持ちが入るものです。舞台を観た多くの観客が「この作品はこういう感情を描いていたのか」と感動を新たにしたり、「このオペラにはこういう問題が描かれていたのか」と発見したりして、音楽や舞台美術などのインパクトと共に心に刻んだことでしょう。
『ペレアスとメリザンド』カーテンコールより 堀田力丸撮影
さて、新国立劇場が発信する次の新演出は、ムソルグスキーのオペラ『ボリス・ゴドゥノフ』です。ロシアのツァーリ(皇帝)をめぐる権謀術数の物語が、今の時代に通じる心理劇となって蘇ります。演出家マリウシュ・トレリンスキがクローズアップする人間の迷いや不安の物語は、シャープで緊張感に満ちた音楽やダイナミックな映像と共に、大きな衝撃を与えるに違いありません。新しい演出の世界初演、どんな世界が広がり私たちの目を開かせてくれるでしょうか。ぜひ楽しみに劇場へ足をお運びください。
『ボリス・ゴドゥノフ』セットプランより
新国立劇場 2022/2023シーズンオペラ
新国立劇場 開場25周年記念公演
文化庁委託事業「令和4年度戦略的芸術文化創造推進事業」
『ボリス・ゴドゥノフ』
(住所)〒151-0071 東京都渋谷区本町1-1-1
- 問合せ
- 03-5352-9999(新国立劇場ボックスオフィス/10:00~18:00)
- 交通
- 京王新線初台駅(都営新宿線乗入)徒歩1分
- 開館時間
- 11月15日(火)14:00、11月17日(木)19:00、11月20日(日)14:00、11月23日(水・祝)14:00、11月26日(土)14:00
- 観覧料
(税込) - S席27,500円 A席22,000円 B席15,400円 C席8,800円 D席5,500円
- ※学生割引(5%)、ジュニア割引(20%)、高齢者割引5%、当日学生割引(50%)など各種割引あり。Z席1,650円は公演当日朝10:00から販売。ご購入の際は下記ホームページで購入方法をご確認ください。
- ホームページ