2023年2月24日
源氏の旗揚げ秘話
-国立劇場3月歌舞伎公演『鬼一法眼三略巻』-
国立劇場制作部歌舞伎課 長瀬 千宜
今から850年ほど前の12世紀中頃、源氏と平家の二つの武士団が争っていました。やがて源平の合戦を経て源氏が平家を滅ぼし、鎌倉幕府が成立します。この時代については、最近大河ドラマで取り上げられたのが記憶に新しいところです。国立劇場3月歌舞伎公演では、源平の合戦の前夜、源氏の旗揚げにまつわる秘話を描いた名作『鬼一法眼三略巻』を上演します。
原作は全五段の長い物語ですが、今回上演する「一條大蔵譚」と「五條橋」は、そのうちの四段目と五段目に当たります。異色のキャラクターである一條大蔵卿長成が主人公の「一條大蔵譚」は、単独でも上演される人気演目ですが、今回は上演が稀な「曲舞の場」を名場面「奥殿の場」と合わせてご覧いただきます。

一條大蔵卿長成(中村又五郎)
≪あらすじ≫
源義朝の妻であった常盤御前は、平治の乱で夫を平清盛に討たれた後、我が子の命を救うため、清盛の側室となった後、一條大蔵卿という公家に嫁がされます。大蔵卿は、源氏の子孫でありながら、源氏と平家の対立には無関心で、狂言に現を抜かしており、阿呆と評判の人物です。一方、常盤御前は毎晩楊弓(座った姿勢のまま小さな弓で的を射る遊び)に興じています。
ある晩、大蔵卿の館に、常盤御前の心の内を疑う清盛の家臣・播磨大掾広盛が訪れ、一條家の乗っ取りを企む家老・八剣勘解由と示し合わせ、大蔵卿殺害を図ります。しかし、呆けたように舞う大蔵卿に惑わされて斬ることができず、かえって翻弄されます。(曲舞の場)
源氏の再興を図る義朝の旧臣、吉岡鬼次郎と妻のお京は、常盤御前の本心を確かめようと、館に潜入します。源氏のことなど忘れたかのような常盤の態度を責める鬼次郎。しかし常盤は、楊弓に興じる振りをして、密かに平家打倒を祈願していました。この事を清盛に報告しようと駆け出した勘解由を、何者かが斬りつけます。長刀を手に現れたのは、普段とは打って変わって凛々しい姿の大蔵卿。果たして大蔵卿が語る驚くべき真実とは…。(奥殿の場)

常盤御前(中村魁春)
常盤御前の子・牛若丸(後の源義経)は、味方を集めるために夜な夜な五條橋で通行人の腕を試しています。一方、比叡山で修業をしていた武蔵坊弁慶は、曲者が出るという噂を聞き、五條橋にやって来ます。牛若丸が弁慶に挑みかかり、二人は激しく戦いますが、さしもの弁慶も打ち負かされます。正体を明かした牛若丸は、弁慶と主従の契りを結び、源氏再興を目指して出立します。(五條橋)
![五條橋 [3代目]歌川豊国画](img/img-104-03.jpg)
五條橋 [3代目]歌川豊国画
「一條大蔵譚」のなかで、大蔵卿は様々な表情を見せます。前半の「曲舞」では、呆けたように舞いながらも敵を翻弄する姿がユーモラスに描かれます。後半の「奥殿」で、心の底に秘めていた思いを初めて明かす場面では、一転して颯爽とした貴公子として登場します。この二面性の演じ分けが大きなみどころです。竹本という三味線音楽の演奏に合わせて本心を語る演技や、衣裳が一瞬で替わる「ぶっ返り」など歌舞伎ならではの演出も必見です。
「五條橋」では、牛若丸と弁慶の出会いが舞踊劇として描かれます。物語を締めくくる華やかな一幕です。
大蔵卿を当たり役とした二代目中村吉右衛門の薫陶を受けた中村又五郎が、大蔵卿に初役で挑むのをはじめ、常盤御前を中村魁春が勤めるなど、充実の配役でお送りします。
また、本編の前に「入門 源氏の旗揚げ」と題して、作品のみどころをわかりやすくご案内します。歌舞伎を初めてご覧になる方でも、お楽しみいただけること間違いありません。古典歌舞伎の醍醐味にあふれる名作で春のひと時をお楽しみください。
国立劇場 令和5年3月歌舞伎公演 歌舞伎名作入門
入門 源氏の旗揚げ
《鬼一法眼三略巻》一條大蔵譚 -曲舞・奥殿-/五條橋
(住所)〒102-8656 東京都千代田区隼町4-1
- 問合せ
- 《国立劇場チケットセンター》(午前10時~午後6時)
0570-07-9900 / 03-3230-3000[一部IP電話等] - 交通
- 東京メトロ半蔵門線〈半蔵門駅〉より徒歩5分、
半蔵門線・有楽町線・南北線〈永田町駅〉より徒歩8分
都営バス・都03(晴海埠頭-四谷駅)〈三宅坂〉より徒歩1分 - 公演日時
- 令和5年3月3日(金)~27日(月)12時開演
- ※10日(金)、20日(月)は休演
- ※17日(金)、24日(金)は12時・午後5時開演の2回公演
- 観覧料
(税込) - 一般=1等席(1階)8,000円、 2等席(2階)5,000円、 3等席(3階)3,000円
- 学生=1等席(1階)5,600円、 2等席(2階)3,500円、 3等席(3階)2,100円
- ホームページ
-
https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_l/2022/53327.html
【インターネット予約】
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