2023年4月25日
家族の愛を描く組踊「孝行の巻」
国立劇場おきなわ事業課宣伝観客係 金城夕子
北谷間切屋良村(現在の嘉手納町)の「漏池」という池に棲む大蛇が、度々風雨を巻き起こし農民たちを苦しめます。そこで、王府は大蛇を鎮めるために、遺族の生活を保障するとして生け贄になる人を募ります。母と弟と貧しい生活をしている娘は、家族のために弟を説得し、母に黙って生け贄になることを申し出ます。それを知った母は・・・
組踊の創始者・玉城朝薫が創作した五つの作品(朝薫五番)のひとつ「孝行の巻」は、舞台に大蛇が登場し、天井から君臨した星(神)により退治されるという大きな仕掛けがあるのは「孝行の巻」のみどころであり、他の作品では見られない特徴でもあります。

大蛇登場の場面
まずみどころ(ききどころ)のひとつは、詞章の美しさ。
「風の根も絶えらぬ 雨の根もたえらぬ」
「首里納めならぬ 那覇収めならぬ」
といった対句が多く用いられ、リズム感のある唱え(せりふ)が楽しめます。
また、姉弟それぞれ自分が生け贄になろうと主張するシーンでは
「先咲ちやる花や さきどまた散りる(先に咲いた花は先に散るのが常)」
「花に吹く嵐 時や知らね(咲く花に急に嵐が吹き散ることもあることを知らないのか)」
と、花を用いた美しい言葉で、互いを思いやる姉弟げんかが胸を打ちます。

姉弟の別れ
唱えとともに心情を表す歌も重要な役割を担っています。姉弟が稲粟の落穂を拾いに出かける場の、不運な境遇にある心境を表現する「宇地泊節」や、生け贄となりにゆく姉と弟の別れの場での「本伊平屋節」など、低い音階で歌われる旋律が、この上ない悲しみを表現しています。特に「本伊平屋節」では、歌の途中にせりふが挿入されるという珍しい演出があり「孝行の巻」の聞きどころです。
そして終盤のみどころは、大蛇が登場し火を噴く場面。大蛇が出現し火を噴くというような仕掛けは他の作品にはみられず、この作品の大きな特徴となっています。約300年前にこのような技法がすでに確立されていたことに驚きます。

親子の再会
国立劇場おきなわでは、今年5月に組踊「孝行の巻」を上演いたします。
ぜひこの機会に、親子の愛・兄弟の愛を描く組踊の舞台をお楽しみください。
国立劇場おきなわ 5月組踊公演「孝行の巻」
(住所)〒901-2122
沖縄県浦添市勢理客四丁目14番1号 国立劇場おきなわ 大劇場
- 問合せ
- 国立劇場おきなわチケットカウンター Tel.098-871-3350(午前10時~午後5時30分)
- 交通
- バス:国立劇場おきなわ(結の街)バス停下車 徒歩約1分
勢理客バス停下車 徒歩約10分 - 公演日程
- 令和5年5月13日(土)14時開演
- 観覧料
(税込) - 一般¥3,700、大学生¥2,000、3歳以上高校生以下¥1,000
※その他、各種割引あり - ホームページ
-
https://www.nt-okinawa.or.jp/performance-info/detail?performance_id=2415