2024年3月1日
あの世とこの世を行ったり来たり?バレエ・ブランの世界
新国立劇場制作部 舞踊広報担当 清水千奈美
亡くなってしまった愛しい妻に会うため、あの世へと足を踏み入れる…。ギリシャ神話のオルフェオとエウリディーチェのお話は、もしかしたら聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。こういった冥界を訪問するストーリーは日本神話のイザナギの黄泉下りなど古くから世界各地で見られますが、実はクラシック・バレエでもポピュラーな物語です。
例えばロマンティック・バレエの傑作『ジゼル』。身分を隠して村娘のジゼルとの恋愛を楽しんでいた貴族のアルブレヒトですが、彼に婚約者がいることを知ったジゼルはショックのあまり死んでしまいます。後悔に打ちひしがれたアルブレヒトは森の奥深くにあるジゼルの墓を訪れ、そこで幽霊として蘇ったジゼルと再会します。

『ジゼル』撮影:鹿摩隆司
ここでバレエの最大の魅力のひとつである、「バレエ・ブラン」が登場します。「バレエ・ブラン」とは白い衣裳を身にまとった女性ダンサーの群舞が踊る場面のこと。若くして亡くなってしまった乙女の亡霊たちが森に現れ、アルブレヒトを死に追いやろうと鬼気迫る踊りを見せます。ジゼルはアルブレヒトを亡霊たちから守り、アルブレヒトは無事生きて帰ることができるのです。
妖精や幽霊など「この世ならざるもの」を表現するのに、白い衣裳を着たダンサーたちが重力を感じさせずにふわふわと踊る幻想的な「バレエ・ブラン」はぴったりの方法といえます。

乙女の亡霊たちは夜になると森に現れ、迷いこんだ男性を殺そうとします
撮影:鹿摩隆司
「バレエ・ブラン」が有名な例として他に挙げられるのが、新国立劇場バレエ団が2024年4~5月に上演する『ラ・バヤデール』です。古代インドを舞台に、舞姫ニキヤと戦士ソロルの悲恋が描かれた作品です。王に仕えるソロルは、王から娘のガムザッティと結婚するよう命じられ、それに逆らうことができません。二人の仲を引き裂くだけでなく、ニキヤの存在を邪魔に思った王とガムザッティは、ニキヤを毒殺してしまいます。何とも泥沼なストーリーですが、複雑な人間関係とそれぞれの思惑が渦巻くドラマが言葉のないバレエで表現されるところに面白さがあります。

密かに愛し合っているニキヤとソロル
『ラ・バヤデール』撮影:瀬戸秀美
悔恨の思いにとらわれたソロルは、現実から逃れようと水たばこを吸って、夢を見ます。その夢のなかで、32人ものニキヤの幻影がいくつもの山をゆっくりと舞い降ります。ここが「バレエ・ブラン」として有名な「影の王国」のシーンで、これも亡くなってしまった恋人に会いにあの世を訪れる場面といえるでしょう。幻覚を見ているソロルには、ニキヤが幾重にも重なって見えているさまを表現しているのですが、32人のダンサーたちが静謐を湛えながら魅せる一糸乱れぬ踊りはこの世のものとは思えぬ美しさです。

「影の王国」の場面
ダンサーたちは3段の九十九折スロープをゆっくりと舞い降ります
撮影:瀬戸秀美
この「この世のものとは思えない美しさ」とは、まさしく「バレエ・ブラン」を表すのに言い得て妙です。この世ならざるものを表現するのに、ダンサーたちは日々鍛錬を重ねています。ぜひ、そのプロフェッショナルな踊りを新国立劇場でお楽しみください。

ニキヤとつかの間の再会を果たしたソロル。
夢から覚めた後、物語がどうなるかはぜひ劇場で!
撮影:瀬戸秀美
新国立劇場バレエ団 2023/2024シーズン『ラ・バヤデール』
(住所)〒151-0071 東京都渋谷区本町1-1-1
- 問合せ
- 【新国立劇場ボックスオフィス】03-5352-9999(10:00~18:00)
- 交通
- 京王新線(都営新宿線乗入)初台駅 中央口直結
- 公演日程
- 2024年4月27日(土)14:00
2024年4月28日(日)13:00
2024年4月28日(日)18:30
2024年4月29日(月・祝)14:00
2024年5月3日(金・祝)14:00
2024年5月4日(土・祝)13:00 2024年5月4日(土・祝)18:30
2024年5月5日(日・祝)14:00
- チケット料金
- S席14,850円/A席12,650円/B席9,350円/C席6,050円/D席4,950円 (10%税込)
- Webサイト