2024年6月27日
新作のバレエをつくるということ
新国立劇場制作部 舞踊広報担当 清水千奈美
「自分が想像する世界が目の前に広がったらどんなに素敵だろう!」自分の妄想を文章に書いたりするのが好きな子どもだった私は、当時そんなことを考えていました。大人になり、新国立劇場で働き、新しい舞台をつくる現場に立ち会うようになって、何とも呑気なことを考えていたものだと思います。なぜなら、ゼロから新しい世界をつくりあげ、新作のバレエを上演することは、とてもワクワクすることであると同時に、想像以上に沢山の人々の、沢山のエネルギーが必要で、気が遠くなるような道のりを経なくてはならないと実感したからです。
新国立劇場バレエ団では7月27日に初日を迎える、こどものためのバレエ劇場2024『人魚姫』の準備真っ最中。新国立劇場バレエ団に在籍していた貝川鐵夫さんが振付を務める、世界初演のオリジナル作品です。
貝川さんが振付を始めたのは、バレエ団で当時芸術監督だったデヴィッド・ビントレーが始めた「NBJ Choreographic Group」がきっかけでした。バレエ団から振付家を育てることを目標としたプロジェクトで、現在でも多くのダンサーが参加し、振付作品を創作しています。そのプロジェクトからいよいよ全幕バレエ(※)作品が「こどものためのバレエ劇場」という形で誕生します。貝川さんは「NBJ Choreographic Group」で作品を多く発表してきましたが、全幕バレエをつくるのはこれが初挑戦です。
※物語を表現するバレエでは「幕」という区切りで構成され、そのすべての幕が上演される公演を「全幕バレエ」と言います。
舞台装置を前に、美術デザイナーの川口直次さん、
照明デザイナーの川口雅弘さんと話し合う貝川さん(中央)
作品を振り付けるというのはとてもエネルギーの要ることです。どんなテーマ・ストーリーにするか、どんな場面構成にするか、どの音楽にするか、どのダンサーに踊ってもらうか、衣裳や装置、照明はどうするか、そしてそれは予算に見合うものなのか…。
踊りそのものだけでなく、本当に様々なことを考えなくてはいけません。何よりも自分の創作物を劇場で披露するというのは、自分自身や自分の思考をさらけ出すようなもので、とても勇気がいることだと、あるダンサーが話していました。
そんな根気が必要なことに挑戦する情熱は一体どこから生まれるのか、貝川さんに質問したことがあります。返ってきたのは、新国立劇場バレエ団で上演したナチョ・ドゥアトの『ポル・ヴォス・ムエロ』を踊り、その素晴らしさに触れたことで「この世界にずっと浸っていたい」と感じた、という言葉です。そのために、自分が素敵と感じる世界をつくってしまおうというのが振付を始めるモチベーションになったとのこと。素晴らしい作品が新しい作品を創るインスピレーションとなり、その連鎖が連綿たるバレエの歴史をつくっているのだと感動した瞬間でした。
『人魚姫』深海のシーンのリハーサルの様子
ビントレー元芸術監督は、「新しい振付は、バレエ芸術の生命力であり、その偉大な歴史や豊富なレパートリー作品にかかわらず、新しいバレエ作品なくしては、私たちに未来はなく、単に過去の作品が並ぶだけの博物館になってしまいます。」と「DANCE to the Future」2013年公演のリーフレットに寄せ、創作の意義を伝えています。クラシックバレエだけでなく、能や歌舞伎など長い歴史を持つ舞台芸術も、古典だけでなく新作に取り組んでこそ進化し続けられるものなのです。
皆様もぜひ、新しい作品がこの世に生まれる瞬間を目撃しに、劇場へいらしてください。
仮製作した衣装の試着の様子。貝川さん(左)と衣裳デザインを手掛けた植田和子さん
新国立劇場 こどものためのバレエ劇場 2024『人魚姫』<新国立劇場バレエ団委嘱作品・世界初演>
(住所)〒151-0071 東京都渋谷区本町1-1-1
- 問合せ
- 【新国立劇場ボックスオフィス】03-5352-9999(10:00~18:00)
- 交通
- 京王新線(都営新宿線乗入)初台駅 中央口直結
- 公演日程
- 2024年7月27日(土)13:00 託児サービス利用可
2024年7月27日(土)16:30 託児サービス利用可
2024年7月28日(日)13:00
2024年7月28日(日)16:30
2024年7月29日(月)13:00 託児サービス利用可
2024年7月29日(月)16:30
2024年7月30日(火)13:00
2024年7月30日(火)16:30 - チケット料金
- こども(4歳から小学生)2,750円/おとな(中学生以上)5,500円 (10%税込)
- Webサイト