2025年2月28日
古くて新しい? ―復曲能「武文」新演出上演について―
国立能楽堂企画制作課 依田果穂
国立能楽堂では3月特別企画公演として、「天正狂言本」と古画による 狂言「袴裂」と復曲能「武文」を上演します。
ところで、皆さんは能にどのようなイメージを持っているでしょうか。能面を掛け煌びやかな装束をまとった姿、優雅な言葉が連なる詞章(能の歌詞や台詞)―静謐で美しく優雅な歌舞劇を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。今回は、今日私達が持つ一般的な能の印象を塗り替えるような復曲能「武文」についてご紹介します。
能「武文」
舞台は摂津国大物の浦(現在の兵庫県尼崎市)。土佐国(現在の高知県)へ下るため、ここに一宮御息所が警護の秦武文を連れて逗留しています。絶世の美女と名高い御息所を、九州の武士松浦某が覗き見て一目惚れしてしまいます。松浦は御息所を掠奪するため、宿の亭主や地元の舵取と策略を巡らせ、火事と夜盗騒ぎに見せかけて町の家並みに火をかけさせます。混乱のさなか武文は松浦が待つ船に御息所を預け、御息所はまんまと松浦に連れ去られてしまいます。計略に気づいた武文は小舟に乗って松浦の船を追うものの叶わず、敵船から嘲笑を受け屈辱のあまり腹を切って海中に身を投げます。
浮かれ騒ぐ松浦達の船が鳴門の海にさしかかると、渦巻く潮に翻弄される船の前に武文の怨霊が現れます。松浦は怨霊を鎮めるために御息所の衣を海に投げ入れますが、武文の怨霊は衣を抱きしめつつも松浦を海に引きずり込み、波間に消えていくのでした。

能「武文」は『太平記』を原典とした作品で、江戸中期の記録を最後に上演が絶えていましたが、昭和62(1987)年に国立能楽堂で復曲初演されました。復曲を通じて浮かび上がった「武文」の特色には次のような点がありました。
・地謡が現行曲と比べ少なく、口語的な台詞を中心に進行する
・場面が頻繁に転換する
・主役の武文のみならず各役に見せ場がある
いずれも今日一般的に上演されている能とは異なる特徴です。
650年を超える歴史の中で能は徐々にその形を変え、“世阿弥型”とも言うべきスタイルを確立しました。しかし世阿弥らが確立するに至るまでには、この「武文」のような劇的な演目も数多く上演されていたようなのです。
国立能楽堂では本年3月「武文」を新演出で上演します。初演時の魅力を損なうことなく、役どころや場面、台詞を整理してより分かりやすく、そして武文が御息所に抱く秘めた心情にクローズアップします。能をよくご存じの方には新鮮な、能をよく知らないお客様にも楽しんでいただけるスリリングな舞台になるはずです。

狂言「袴裂」
この3月特別企画公演では、合わせて狂言「袴裂」を上演します。
「袴裂」は現存する最古の狂言台本「天正狂言本」のみに伝わる演目で、現行の狂言「二人袴」の古形と考えられています。江戸時代の狂言絵を参照しつつ新たな解釈も加え、2020(令和2)年に国立能楽堂にて復曲初演されました。
狂言「袴裂」
予定より早く聟入りにやって来た聟。舅はあいにく準備が整わず袴がありません。仕方なく太郎冠者の袴を借りて面会することにします。舅と太郎冠者は交替で袴を履いて応対しますが、とうとう二人一緒に出てくるよう言われてしまい…。袴は一枚、人間は二人。はたしてうまく切り抜けられるのでしょうか。
能・狂言の古い形を探ることで新たな魅力を発見していただけることでしょう。貴重なこの機会をどうぞお見逃しなく!
※本記事公開時点でチケットが売り切れとなっている場合もございます。どうぞご了承くださいませ。
国立能楽堂3月特別企画公演
「天正狂言本」と古画による 狂言「袴裂」・復曲能[新演出]「武文」
(住所)〒151-0051
東京都渋谷区千駄ヶ谷4-18-1
- 問合せ
- 《国立劇場チケットセンター》(午前10時~午後6時)0570-07-9900/03-3230-3000[一部IP電話等]
- 交通
- JR(総武線)千駄ヶ谷駅下車・徒歩5分
都営地下鉄(大江戸線)国立競技場駅下車A4出口・徒歩5分
東京メトロ(副都心線)北参道駅下車出口1または2・徒歩7分
都バス(早81:渋谷-早大正門・黒77:目黒-千駄ヶ谷駅前)
千駄ヶ谷駅前下車・徒歩5分
ハチ公バス(神宮の杜ルート)国立能楽堂下車・すぐ - 公演日程
- 令和7年3月28日(金)~2025年3月29日(土)
午後1時開演 - 観劇料
- 正面=7,500円
脇正面=6,300円(学生4,400円)
中正面=5,200円(学生3,600円) - ホームページ
-
【インターネット購入】
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