2025年9月30日
琉球国時代の演出を探る
国立劇場おきなわ 企画制作課調査研究専門嘱託員 茂木仁史
国立劇場おきなわでは「研究公演」と銘打ち、琉球芸能の過去の演出を研究し、復元・上演を行っています。
一般に伝統芸能の作品は過去のある時期に誕生して、その後再演を繰り返すうちに少しずつ変化しながら成長し、演出が定まると「古典作品」と呼ばれるようになります。作品の芸術性と集積された古来の姿の歴史的価値が認められ、そこから伝承されていくのです。
琉球芸能は、かつて大変革を経験しました。琉球国時代から明治の新時代への転換です。士族の芸能から庶民の芸能になり、舞台構造や踊衣裳も大きく変わりました。
国立劇場おきなわでは2019年と2022年に、かつて首里城の庭に設置された「御城舞台」の構造を劇場横の公園に再現し、野外公演を実施して演出等の研究を進展させました。

2019年の研究公演 組踊「銘苅子」。野外舞台で1719年の舞台を復元。
天界(後方の橋掛り揚幕)へ向かう天女(新垣悟)と、見送る子供たち
また昨年は、これまで謎であった「板締縮緬衣裳」を復元・上演することが出来ました。
「板締め」とは、図柄を彫刻した二枚の板の間に布をピッタリ挟み、赤い染料を流し込んで板の溝部分を染める技法です。江戸では女性の艶やかな下着や着物の裏地として粋でお洒落に用いました。琉球国はその布を若衆(少年)の踊衣裳にするため大和(日本本土)から輸入し、あえて表着に用いて少年の可愛らしさを強調したのです。しかし大正時代に安価な西洋の「プリント」が市場を席捲すると染工場は閉鎖され、琉球舞踊・組踊の若衆衣裳もいつしか「無地の赤い衣裳」や「紅型」に変っていきました。そして「板締め」の若衆衣裳の実物が現代に残されていないことから、「幻の衣裳」となったのです。しかし近年、群馬県の染工場の子孫で染色家として活躍する吉村晴子氏が自宅の蔵から板締めの板を発見し、失われた技法の復活に成功しました。そこで、琉球国の「板締縮緬衣裳」の製作を依頼したのです。起伏のある「縮緬」の布に板締めで染めることは新たな挑戦で大難題でしたが、苦闘の末に得られた衣裳は想像を遥かに超えた美しい衣裳だったのです。

2024年研究公演/組踊「大川敵討」 大川の若按司(糸数彰馬)。
「板締縮緬振袖単衣裳」が幼い按司の無邪気さを引き立てる。
来たる2025年12月13日、その板締め衣裳を着用し、さらに新たな衣裳も復元して公演を行います。琉球舞踊は「扇子をどり」と「女笠をどり」、組踊は「執心鐘入」をとりあげ、1838年の御城舞台の構造による舞台での上演です。解き明かされた謎は次の謎を呼び、あっと息を飲む方向へ導かれることもあります。目下復元のための研究会は、大いに白熱しているところなのです。
国立劇場おきなわ 12月研究公演 琉球国時代の演出による 舞踊と組踊「執心鐘入」
- 開催期間
- 令和7年12月13日(土) 14:00開演 16:00終演
- 観覧料
- 一般¥3,700円, 大学生¥2,000円, 高校生以下(3歳以上)¥1,000円
※各種割引はホームページに掲載 - イベントURL
- https://www.nt-okinawa.or.jp/performance-info/detail?performance_id=2673
国立劇場おきなわ
(住所) 〒901-2122
沖縄県浦添市勢理客四丁目14番1号 国立劇場おきなわ 大劇場
- 問合せ
- 国立劇場おきなわ チケットカウンター
TEL(098)871-3350(午前10時~午後5時30分) - 交通
- バス:国立劇場おきなわ(結の街)バス停下車徒歩約1分、勢理客バス停(国道58号沿い)下車徒歩約8分
タクシー:那覇空港から約20分 - 開館時間
- 10:00~18:00
- 休館日
- 12/29~1/3
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