2026年7月27日
能・狂言の景物「月」
国立能楽堂企画制作課 依田果穂
夜空に浮かぶ月を見上げたとき、皆さんはどのような感情を抱くでしょうか。
古来、満ち欠けによって日々その姿を変える月に対し、日本人は人生の無常観や自らの心を投影してきました。また、暗闇を照らし出す月光は迷える人々を導く存在としても大切にされ、様々な芸術分野にも影響をもたらしています。
能や狂言においても、月は単なる背景にとどまらず、登場人物の心を映し出す重要な役割を担っています。国立能楽堂9月公演では、月が登場する能と狂言を1か月にわたり特集します。今回は、その中から月にまつわる能の名作「姨捨」と「鵺」をご紹介します。
能「姨捨」は、月の名所・信濃国更科(現在の長野県)にある姨捨山が舞台です。中秋の名月の夜、都から訪れた旅人の前に、かつてこの山に捨てられた老女の霊が現れます。澄み渡る月光の下、老女はこの地の月の美しさを讃えて説話を語り、昔を懐かしんで舞を舞います。やがて夜が明けて月が見えなくなると、旅人も去り、老女は再び一人取り残されるのでした。
数ある演目の中でも「姨捨」は秘曲とされるものの一つです。国立能楽堂では、まさに中秋の名月にあたる9月25日、稀代の名手・大槻文藏のシテで本作を上演します。大変貴重な機会をどうぞお見逃しなく。
能「姨捨」シテ:大槻文藏(提供:大槻能楽堂)
一方、能「鵺」には、頭は猿、尾は蛇、手足は虎という伝説の恐ろしい化け物「鵺」の亡霊が登場します。源頼政に退治され川に流された鵺は、旅の僧の読経に導かれ波間から姿を現します。武士に化け物退治の逸話はつきものですが、退治される側を主人公にして敗者の悲哀を描いているのがこの曲の特徴です。最後には、鵺退治に成功した頼政と暗い波間を流される鵺の対比が、それぞれ月を詠み込んだ和歌によって表現されます。
能「鵺」前シテ:角当直隆
能「鵺」後シテ:角当直隆
初心者の方におすすめなのが9月5日開催の「国立能楽堂ショーケース」です。能「鵺」に加え、狂言「盆山」が上演されます。
狂言「盆山」は、ある夜に「盆山」(盆の上に自然の景色を再現したもの)を盗みに忍び込んだ男が、家主に見つかり、犬や猿の鳴き真似をさせられるお話です。泥棒が真剣に鳴き真似をするコミカルな展開や、狂言特有の擬音や身振りによる豊かな表現がみどころで、初めての方も笑って楽しめる、狂言の定番曲です。最後に訪れる大ピンチを泥棒がどう切り抜けるのかご注目ください。
本公演では、開演前に能面体験や能楽師によるプレトークがあり、初めての方も安心してご参加いただけます。
月が登場する曲はたくさんありますが、能舞台に月のセットは登場しません。謡や台詞に耳を傾け、お客様が思い思いの月を心に描くのが能楽鑑賞の醍醐味です。今年は秋のお月見の代わりに、国立能楽堂で能・狂言の世界に触れてみてはいかがでしょうか。
国立能楽堂 9月公演〈月間特集 能・狂言の景物-月-〉
公演日時
・国立能楽堂ショーケース 令和8年9月5日(土)午後1時開演 プレトーク/狂言「盆山」/能「鵺」
・定例公演 令和8年9月9日(水)午後1時開演 狂言「隠狸」/能「三井寺」
・普及公演 令和8年9月12日(土)午後1時開演 解説・能楽あんない/狂言「箕被」/能「融 酌之舞」
・定例公演 令和8年9月18日(金)午後6時30分開演 狂言「月見座頭」/能「小督」
・特別公演〈中秋の名月〉 令和8年9月25日(金)午後5時開演 狂言「靱猿」/能「姨捨」
観劇料
・国立能楽堂ショーケ―ス
一般 正面¥4,000/脇正面¥3,400(学生¥2,400)/中正面¥2,800(学生¥2,000)
・定例公演・普及公演
一般 正面¥5,800/脇正面¥4,000(学生¥2,800)/中正面¥3,500(学生¥2,500)
・特別公演
一般 正面¥12,000/脇正面¥9,600(学生¥6,700)/中正面¥8,400(学生¥5,900)
チケットの購入:https://ticket.ntj.jac.go.jp/
国立能楽堂
〒151-0051東京都渋谷区千駄ヶ谷4-18-1
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ハチ公バス(神宮の杜ルート)国立能楽堂下車・すぐ
