インタビュー
おいしいもの研究所代表
Yoshiharu Doi
おいしいもの研究所代表、十文字学園女子大学特別招待教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員。NHK「きょうの料理」講師38年継続。
映画「土を喰らう十二ヶ月」料理監修を担当。
2022年土文化庁長官表彰受賞。
著者にベストセラー「一汁一菜でよいとう提案」(新潮社)など。
和食が、ユネスコの無形文化遺産に登録されて10年ですけども、豊かな自然を背景に、私たちの暮らしを作ってきたものであるということが、世界に認められたというか、これから大事にしていかなければならないものだということです。
日本の食文化は、学びという「宝物」の宝庫なんです。だから、ヨーロッパの三ツ星シェフたちが日本にこぞって来るっていうのは、日本から学ぶべきところがたくさんあるということ。だけれども、私たちは自分たちの足元にある美しいもの、暮らしというものを一番忘れてるんじゃないかと思うんですね。そういうことを本気で思い出すきっかけになるのが、あのユネスコ無形文化遺産。
和食を伝えていくっていう意味では、食事という「料理して食べること」であるということです。料理する人はやっぱり手を使う。自然という食材に直接触れるということが大事なんです。
「料理する人」が真ん中にいて、あの「自然」と「食べる人」、私たちの暮らしの調和を作ってるんだということです。
自然を楽しむっていうのは、日本にはその1つの春夏秋冬というの中にも、「はしりもの」「さかりもの」「なごりもの」という風に3つに分けるわけです。同じ野菜でも全然違うもののように扱うということです。その1つの食材の一生を楽しむということです。
私はみんな人格があるようなもののように、いいかぼちゃを見つけたいい芋を見つけた。ああ、いい顔してるなって思うわけです。私たちはそこに美しさを見ているっていうことです。その美しさというのは、ありのままの美しさであるから、傷がついていることも、形が悪いことも全部、実は美しいんです。
美しいものを見つけることができる、自分で見つけてほしいと思いますよね。それが日本的な生き方です。
私たちは「自然の移ろい」というようなものを発見できるのであるということです。そうすると、そのものを作る土台というのがまずは必要で、それが一汁一菜という汁飯香です。ご飯が主食としてあって、味噌汁の中にはタンパク質とか、野菜とか、ミネラル、豊かな発酵食品から、いろんなものが摂取できる。
そして漬物も人間が作ったものじゃなくて、発酵食品でしょう。それをお膳の上に汁飯香として三角形の形っていうようなものが、私たちの心の居場所であり、健康の土台を作るものであるということなんです。
「ああ、いいな」「綺麗だな」って思うような季節の野菜を買ってきて、自分で小さく切ってお椀の中に入れる。そんなシンプルな生き方の中に、私たちは無限の豊かさを持ってる。小さなお椀の中だけでも、有限の世界の中に無限の変化がある。自然の移ろいを、共存共鳴してきたっていうのが、和食文化が未だに繋がっているということです。
人間の命の他にも、動物とか植物とか、あらゆるものがいますよね。そこの中に八百万の神というようなものを見出すわけです。その神様と一緒に共存共鳴してきたのが、日本の暮らしのあり方なんです。そうした食材というものにも、神様がいるわけです。お米の中に七人の神様がいるようなものを、下に置けないのであると。だから手に持って食べるような習慣は、そこから生まれているんです。
私たちの姿勢の美しさや、食べる姿の美しさを作っていくわけですね。そうすると、こういった道具と人間をつなげてるわけです。こういうふうにお茶碗を撫でて、「なんとも気持ち良い」豊かな気持ちにもなれるというのは、私たちはそういった道具さえも人間のように見てるわけです。
暮らしの中の美意識っていうのは、まさに日本という国はですね、そもそもですよ、水に不自由したことがない国であるということなんです。水に不自由したことがないということは、私たちはいつでも手を洗えた。神様がいるところには、体を清めて入る。すなわち、私たちがお参りするときにも、水で手を洗うということが当たり前の生活になっている。
日本の清潔っていうのは、まさに日本のオリジナリティだと思っているんです。山の上でも安心して、お刺身が食べられる。清らかさという美味しさを私たちは食べられるわけです。
日本料理というのは、その道中にあるものをいかに楽しむか、いかに喜ぶか、いかに美しい瞬間を発見し、心に留めるかということが日本人の美意識であり生き方である。なかなかかっこいいんですよ。