文化庁主催 第4回コンテンツ流通促進シンポジウム“進化する音楽著作権ビジネス 〜音楽著作権等を活用した資金調達の可能性を探る〜”

第2部:研究報告

「音楽著作権等の資産評価手法と当該著作権等を用いた資金調達に関する調査研究」

澤 伸恭(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社客員研究員)

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澤 伸恭

 委員会の中では、この8通りのスキームとその課題を検討いたしまして、その内、実現可能性のあるスキームはどれだろうかという検討をしました。さらにその留意点について検討しました。
 まず、音楽出版社が資金調達をする場合、著作権そのものをもとに資金調達するよりも、著作権をもとにした分配請求権、お金を受け取る権利をもとに資金調達したほうが何かと楽だろうと考えられます。少なくともJASRACの約款上は問題点が非常に少なくなりますし、またほとんど効果としても変わらないということで、分配請求権をもとに資金調達するスキームの検討をすることにいたしました。従いまして、音楽出版社が資金調達する場合、著作権使用料の分配請求権をベースに信託方式で資金調達するスキームと、分配請求権を担保に融資を受けるスキームの2通りを、実現可能性のあるスキームとして検討しました。
 レコード製作者が資金調達をする場合、ここではJASRACのような存在がありませんので、原盤に係る各種権利そのものを移転する場合と使用料等の請求権の移転等で、ほとんど課題は変わりません。そこで、レコード製作者が原盤供給契約を締結している場合には、まだレコード製作者に権利が残っていますので、各種権利を信託設定あるいは担保設定するスキームを検討することとしました。原盤譲渡契約を締結している場合、レコード製作者からレコード会社に権利が移っていますので、各種権利をもとにした請求権を信託設定、あるいは担保設定するスキームを実現可能性が高いと考え、検討対象としました。
以上の合計4通りを実現可能性のあるスキームとして、検討対象としました。

 本日は、時間の関係で、実現可能性のあるスキームのうちのひとつを簡単にご説明させていただきまして、研究報告を終わりたいと思います。
 音楽出版社が著作権使用料の分配請求権をベースに信託方式で資金調達するスキームです。まずスキームの概要についてです。作家は通常どおり音楽出版社と著作権契約を交わし、著作権を譲渡します。同時にJASRACと著作権信託契約を直接交わすようにします。作家は、JASRACから著作権使用料の分配を直接受ける形になります。これによって少なくとも作家の取り分は、JASRACから直接分配され、必ず確保できることになります。
 続きまして、音楽出版社の分配請求権の資産価値を客観的に評価します。音楽出版社は分配請求権を信託して、信託受益権を取得するという形です。音楽出版社はJASRACとの著作権信託契約において、信託会社への分配請求権譲渡について承諾を得ます。そうすると信託会社は音楽出版社との信託契約が終了するまでの間、音楽出版社に代わってJASRACから著作権使用料の分配を受け取ります。音楽出版社は信託会社を通じて投資家に信託受益権を譲渡します。そして、資金調達をします。信託会社は音楽出版社に対象楽曲の利用開発等の業務を委託します。音楽出版社は必ず利用開発を行わなくてはいけなくなります。それにより、自らの楽曲の利用開発が損なわれるのではないかという作家の心配も解消されます。
 信託会社は運用の成果を信託配当、信託元本の償還として投資家に支払います。また、信託会社が指定する監査法人、あるいは弁護士等は音楽出版社から財務情報等の開示を受け、権利移転の条件に該当がないか確認します。これは、音楽出版社Aが倒産してしまいますと作家に著作権が戻るなど、面倒なことが起こりますので、倒産する前に、倒産しそうになる条件を設定して、その条件に該当する状態になったときには著作権契約関係を移転させようということです。ですので、信託会社が定める権利移転の条件に該当した場合には、事前に指定された他の音楽出版社等に著作権を移転します。ここでは音楽出版社Bです。この出版社が作家、信託会社、著作権管理事業者との契約関係を引き継ぐという形のスキームを想定しています。また契約期間満了、もしくは償還完了した場合、信託会社は音楽出版社に分配請求権を返還します。
少なくともこのスキームであれば、作家、音楽出版社、JASRAC、信託会社等の関係者がなんとか同意ができるだろうということで、委員会においては合意できたスキームです。

 このスキームにおける留意点です。まず作家と音楽出版社の著作権契約において、音楽出版社から第三者への分配請求権移転、あるいは信託設定をする場合があるという同意を得ておくのですが、その場合であっても、楽曲の利用開発業務は継続することを明確にしておきます。これが、作家にとって一番の大きな心配事ですので、確保するようにします。それから、分配請求権移転による資金調達の目的を著作権契約において明確にしておきます。対象楽曲の利用開発の促進、作家におけるメリットの検討に関して、信託会社から対象となる楽曲の利用開発業務を音楽出版社が受託するわけですが、作家が本スキームに参加する直接的なメリットとして、例えば、その手数料収入の一定割合をスキームに参加する対価として作家に分配することもひとつの方法ではないかという意見も出ています。
 第三者への著作権使用料収入等の情報をプライバシーに配慮しながら開示することの同意を作家から得ておきます。
音楽出版社倒産時には他の音楽出版社に著作権を移転し、楽曲の利用開発業務を継続するということなどを、この著作権契約の中で明確にしておきます。

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