「誰でもできる著作権契約マニュアル」 第2章 2. (2)

(2)契約の内容

 ここでは、市民センターが自主事業として、市内のアマチュアピアニストに、コンサートへの出演を依頼した場合を想定して実際の契約項目を説明していきます。

<1> 出演内容
出演者が行う演奏や上演(実演)について、その内容を特定し、出演者と確認します。

 具体的には、公演の日時、場所、イベントの名称、出演の内容です。この他、演奏・上演する演目等、既にわかっていたり、当事者で確認しておいた方がよいと思われる事項があれば、契約書に書いておいた方がよいでしょう。

規定例

第○条(出演の依頼)

 乙は、甲に対し、乙が主催する以下のイベントに出演することを依頼し、甲はこれを承諾しました。

(1) 日時:平成○年○月○日 ○時
(2) 場所:○○市民センター大ホール
(3) イベントの名称:○○○○
(4) 出演の内容:ピアノの演奏

<2> リアルタイム利用
実演を、会場以外で「リアルタイム」(生中継)で利用することが予定されている場合、その内容を特定し、出演者の了解を得ます。

 ここでは、

  • 他会場へ送信して上映する(会場名)
  • インターネットで送信する(ホームページ名称)
  • 放送・有線放送を行う(放送局名)

を例として挙げています。この他の利用が予定されている場合は、追加記入してください。

規定例

第○条(実演の利用許諾)
甲は、乙が甲の実演をイベントの記録として保存するために録音・録画等収録することを許諾します。但し、乙はその録音録画物を、複製を伴わずに乙の内部において鑑賞する場合、及び本契約で別に定める場合を除き、甲の許諾を得ずに利用することはできません。
甲は、乙が、甲の実演の様子を写真に撮影することを許諾します。
甲は、乙が甲の演奏を、演奏と同時にリアルタイムで次のように利用するか、または第三者に利用させることを許諾します。
(1) 市役所正面ホールで上映等すること
(2) インターネット(○○市ホームページ)を通じて配信する
(3) △△ケーブルテレビジョンを通じて放送・有線放送すること

<3> 第三者の著作物等の利用等

 他人の作った著作物(音楽、戯曲等)の演奏や上演を行う場合には、原則として、その著作物の著作者(著作権者)の了解が必要となります(コラム「他人の作った著作物(音楽、戯曲等)の演奏や上演を行う場合」を参照してください。)。そのため、実演する著作物について、主催者と出演者のどちらが、著作権者の了解を得て著作権料を支払うかを取り決めます。
 ともすれば忘れがちですが、大変重要な規定です。

規定例

第○条(実演する作品の著作権処理)

 甲の実演において第三者が著作権を有する著作物を利用する場合は、乙が乙の責任でその利用許諾を得て使用料を支払う等の必要な権利処理を行います。そのために、甲は、実演するすべての作品について正確な作品名、作家等著作権者の名称、その他必要な情報を事前に乙に提供しなければなりません。

【留意点】

  • 主催者が著作権者から了解を得ることとした場合、出演者から、演目の中で利用されたものの著作権者について正確に把握する必要があります。事前に、必ず出演者から上演または演奏の内容を聞いて、どこに連絡をして了解を得ればよいか、使用料はいくらになるか等を確認しなければなりません。
  • 脚本等でオリジナル作品を上演する場合でも、その中に音楽、小説や詩の一説、写真など他人の著作物が使われていると、その著作物の利用の了解を得る必要のある場合がありますので、十分注意しなければなりません。
  • 会場での演奏・上演の他、リアルタイムでの利用が予定されている場合や録音・録画して後日利用することを予定している場合は、その了解も得る必要があります。
  • 「アンコール」など、プログラムに記載されない演奏についても同様に著作権者の了解が必要です。

 ここでは主催者が了解を得る場合の例を挙げましたが、出演者が行う場合として、次の文例を挙げておきます。ただし、出演者が了解を得るとした場合、万一でも了解の受け漏れ等のミスがあったときには、主催者の責任も免れないことになりますので、十分注意してください。

規定例(出演者が著作権者の了解を得る場合)

第○条(実演する作品の著作権処理)

 第○条の実演を行うにあたって、実演する作品または作品に含まれる著作物等について著作権者等の許諾が必要な場合には、著作権者等の許諾を得ること、および対価を支払うこと等、必要な契約はすべて甲の責任で行います。

コラム 他人の作った著作物(音楽、戯曲等)の演奏や上演を行う場合
 著作者(著作権者)の了解が必要となります。演奏や上演を収録して後日別途利用する場合も、同様に著作者(著作権者)の了解が必要となります。いわゆる「自作自演」の演奏や上演の場合は、演奏や上演する人自身が著作者ですから、一般にそのような了解は不要です。しかしこの場合でも、自作演劇の背景音楽や舞台装置に他人の作品を使っていれば、その了解が必要となります。

コラム 営利を目的としない上演等
 公演が営利を目的としない場合、次の条件をすべて満たしていれば、著作権者の了解は不要となります(著作権法第38条第1項)。
  • 営利を目的としない
  • 聴衆、観衆から料金を受けない
  • 上演、演奏等について実演家に報酬を支払わない

 したがって、たとえ入場料無料のイベントでも、企業の宣伝目的のイベントや出演者に報酬が支払われるイベントは、著作権者の了解が必要となります。また、演奏等をリアルタイムでインターネット送信や放送を行う場合、それに関する了解が必要です。

<> 報酬
これまでのところで規定された、演奏とリアルタイムでの利用に対する出演者の報酬を取り決めます。

 取り決めにあたっては、消費税が含まれた金額かどうか、また所得税が源泉徴収されて支払われるのかどうかを確認しておくとより明確となります。

規定例

第○条(報酬の支払い)

 乙は、甲に対し、第○条に定める出演の報酬および第○条に定める実演の利用許諾の対価として金○○円(消費税込み)を平成○年○月○日までに支払います。

<> 写真の撮影・利用
実演の様子を写真撮影して後日利用することが予定されている場合、その内容を特定して、了解を得ます。

 また、それぞれについて追加報酬の有無を取り決めます。ここでは、次の事例を想定しています。なお、この条項は著作権の問題というよりは、肖像権に関する取り決めです。

  • 印刷物等に掲載する(印刷等の名称)
  • インターネットで公開する(ホームページの名称)

 この契約書に写真の利用方法を明記しなかった場合、利用に際しては改めて出演者の了解を得る必要があります。

規定例

第○条(写真の撮影等) 

 乙は、イベントで実演する甲を撮影した写真を、次のように利用するか、または第三者に利用させることを許諾します。

(1) 印刷物への掲載(報酬は第○条の報酬に含みます)
(2) インターネット上のホームページへの掲載(報酬は第○条の報酬に含みます)
ホームページの名称:○○市ホームページ
掲載期間:平成○年○月○日まで

<6> 録音/録画とその利用
実演を録音・録画して後日利用することが予定されている場合、その内容を特定して、了解を得ます。

 また、それぞれの利用について追加報酬の有無を取り決めます。ここでは、次のような利用について取り決めています。 

  • インターネットで公開する(ホームページの名称、公開期間)
  • 複製物(カセット、CD、ビデオ、DVD等)を配付する(配付先は関係者か一般か、有償か無償か、配付部数等)
  • 放送・有線放送を行う(放送局名、放送日)

 この条文では、「一般への頒布・販売」については追加報酬を支払う例、その他の場合は追加報酬を支払わない例(実演の報酬に含まれる例)としています。
 ここに掲げた例以外の利用が予定されている場合、それもなるべく具体的に契約書に書いておくべきです。
 また、利用にあたっての留意点も双方で確認して契約書に書いておくと、より明確になります。

規定例(録音・録画)
第○条
甲は、乙が乙の記録のために収録した録音・録画物を次のように利用するか、または第三者に利用させることを許諾します。
(1) インターネット上のホームページへの実演の録音または録画のアップロード(報酬は第○条の報酬に含みます)
 ホームページの名称:○○市ホームページ
 掲載期間:平成○年○月○日まで
(2) 甲および乙の関係者へ有償または無償での配布(報酬は第○条の報酬に含みます)
(3) 一般への配布・販売(報酬は別途支払います)
(4) 放送・有線放送(報酬は第○条の報酬に含みます)
 放送・有線放送局名:△△ケーブルテレビジョン
乙は、前項の利用にあっては必要な範囲で編集して利用することができます。但し編集にあっては、甲の名誉・声望を傷つけないように配慮します。また、乙は、甲の実演の利用に際し、公正な慣行にしたがって甲の氏名を表示します。
本条第1項の利用を行うにあたって、著作権者等権利者の許諾が必要な場合は、乙が乙の責任で権利処理を行うこととします。
甲または乙がこれら以外の利用をしようとする場合は、甲と乙とで協議して、利用の可否、態様、報酬の額等を決めることとします。

【留意点】

  • 録音・録画物の利用について了解を得るのは原則として主催者です。ただし、ホームページでの公開や放送は主催者以外が行うことも考えられるため、どこのホームページで公開するのか、どこの放送局で放送するのかを明記して利用の了解を得る必要があります(第1項)。
     また、ここに記載した以外の利用で主催者以外の人が利用する場合は、出演者に説明をし、契約書に利用主体を書き加えておくことが望ましいでしょう。
  • このページ下の「コラム」で説明しているように、「実演家」には実演家人格権があります。氏名表示ができない、あるいは利用にあたって編集・改変・削除等が予想される場合、あらかじめそのことの了解を得ておくとトラブル防止に役立ちます。ただし、いくら編集や改変の了解を得たからといって、出演者の名誉・声望を傷つけるような利用はできません(第2項)。
  • 他人の著作物が実演される場合、その収録物のそれぞれの利用についても著作権者の了解が必要です。(第3項)
     なお、主催者以外が利用する場合、実際に誰が了解を得て使用料を支払うのか、主催者は実際に利用する人ときちんと取り決める必要があります。もし了解の受け漏れミス等があった場合、主催者の責任は免れません。

 主催者以外の人が利用する場合の例文を挙げておきます。

規定例(主催者以外の人が利用する場合)

本条第1項の利用を行うにあたって、著作権者等権利者の了解が必要な場合は、乙が乙の責任で権利処理を行うこととします。但し、乙が第三者に当該利用をさせる場合、乙は乙の責任で当該第三者に著作権者等権利者の了解を得させることができます。

  • この契約書に明記しなかった利用方法で利用する場合、利用に際しては改めて出演者の了解を得る必要があります(第4項)。
  • 報酬について、「追加報酬あり」を選択した場合、実際の利用にあたってはあらためて出演者と報酬の額を協議して取り決める必要があります。もちろん、事前に取り決めておくことは問題ありません。その場合、報酬の額を契約書に書き込むか、または別紙にして文書で確認しておくとよいでしょう。
注: 上記は「著作権契約書作成支援システム」の出力イメージに即した説明になっていますが、実際に契約書の条項を作成する場合は、適宜修正してください。たとえば、上記の説明では、実演のリアルタイムでの利用と録音・録画物の利用とを分けて規定していますが、両方の利用を行う場合はまとめて規定する方がシンプルになります。まとめて規定する場合の契約書例を(3)<2>に掲載しています。

コラム 実演家の「ワンチャンス」主義
 演奏や上演を著作権法上は「実演」といい、演奏や上演をする人を「実演家」といいます。
 著作権法上、実演家の了解を得て映画の著作物(劇場上映用以外の映像作品も含みます。)に録音・録画された実演について、実演家はその後の利用に関する権利が原則として制限されています。したがって、最初に録音・録画するときの契約が大変重要になってきます。最初の1回の契約でその後の実演の利用までを念頭においた契約条件を決めておく必要があるという意味で、「ワンチャンス主義」といわれることがあります。詳しくはこのホームページに掲載されている「著作権テキスト」をご覧ください。

コラム 演奏・上演者の氏名を省略、編集・改変を行う場合
 演奏・上演した人(実演家)には、「実演家人格権」があります。このため、実演を収録したものの利用に際しては、実演家の氏名を表示しなければなりません(氏名表示権)。また、実演家の名誉または声望を害する形での変更、切除等の改変・編集はできません(同一性保持権)。もし、利用にあたって氏名を表示できなかったり、何らかの編集をすることが予想される場合は、あらかじめそのことについて実演家の了解を得ておく等の方法を考える必要があります。