「誰でもできる著作権契約マニュアル」 第2章 3. (2) A.

(2)契約の内容

 他人に著作物の創作を依頼する契約において定められる内容は、大きくA.相手方に依頼する著作物の創作作業の内容を定める部分と、B.創作された著作物の著作権の帰属やその利用方法を定める部分、の二つに分けることができます。
 以下、順番に、どのようなことを契約書に盛り込めばよいかを説明します。

A. 相手方に依頼する著作物の創作作業の内容を定める部分

<1> 依頼内容の特定

 著作物の創作を依頼するなど他人に一定の仕事を依頼する契約では、まず、相手方に依頼する仕事の内容を特定することが何よりも重要です。たとえば、次のような方法で依頼する仕事の内容を特定する方法があります。

  • 原稿執筆の場合には、執筆のテーマや原稿の分量等で特定することが考えられます

規定例

第○条(委託)

 乙は、甲に対し、以下の原稿(以下「本著作物」という)の執筆を依頼し、乙はこれを承諾した。

原稿テーマ:「○○先生の業績と人柄」
原稿分量 :8,000字以上10,000字以内

※乙は依頼者、甲は執筆者を指します。

  • イラスト作成の場合には、イラストのテーマや、イラストのサイズ等で特定することが考えられます

規定例

第○条(委託)

 乙は、甲に対し、以下のイラスト(以下「本著作物」という)の制作を依頼し、乙はこれを承諾した。

イラストのテーマ:富士山
イラストの大きさ:A4

  • 写真撮影の場合には、撮影する写真のテーマ・対象、納品する写真のサイズ、カラー・モノクロの別、分量等によって特定することが考えられます。

規定例

第○条(委託)

 乙は、甲に対し、以下の写真(以下「本著作物」という)の撮影を依頼し、甲はこれを承諾した。

テーマ: 初日の出
形 式: モノクロ

<2> 納品(いつまでに完成し、どのような方法で納入するか)

 この契約は、依頼を受けた者は依頼者に対して仕事の完成(著作物の創作)することを約束し、依頼者は相手方が成果物(著作物)を完成させたことに対して報酬を支払うことを約束する契約です。したがって、成果物をいつまでに完成し、完成した成果物をどのような方法で依頼者に納入するかについて定めておくことが必要です。
 納品の時期や方法については、次のような方法で定めることができます。

(ア) 納期は年月日で明示する方法や、一定の期間を定めて示す方法(たとえば、「契約締結後3ヶ月以内」と規定する場合)が考えられます。
(イ) 成果物の納入方法も具体的に定めておいた方がよいでしょう。たとえば、以下のような方法があります。
(a)原稿執筆の場合  : 原稿用紙の持参・郵送、データが入ったCD-ROM等の持参・郵送、電子メールでのデータ送信等
(b)イラスト制作の場合: キャンバスの持参・郵送、データが入ったCD-ROM等の持参・郵送、電子メールでのデータ送信等
(c)写真撮影の場合  : ネガフィルムの持参・郵送、データが入ったCD-ROM等の持参・郵送等

規定例(原稿執筆を依頼するケースの一例)

第○条(納入)

 甲は、乙に対し、本著作物を以下の形式により、平成○年○月○日までに、乙に対して納入する。

納入方法: テキストファイル形式で、乙担当者(△△@△△.co.jp)に電子メールにて送信する方法

<3> 検査条項

 「著作物の創作」のように、ある仕事を完成させることを契約の目的とする契約においては、創作者から納入された成果物によって「仕事の完成」があったと評価してよいかどうかについて依頼者側が検査する必要があります(たとえば「富士山」の写真を撮影することを依頼した契約で、「日本海」の写真を撮影しても、仕事を完成したことにはなりません。)。そこで、この納品検査の方法等について契約で定めておくことが必要です。

規定例

第○条(検査)

 乙は、前項の納入を受けた後、速やかに納入物を検査し、納入物に瑕疵がある場合や、乙の企画意図に合致しない場合は、その旨甲に通知し、当該通知を受けた甲は、速やかに乙の指示に従った対応をする。

 上記の規定例を、より具体的にするため、次のように定めることもあります。

規定例(詳細に規定する例)

第○条(検査)

乙は、前項の納入を受けた場合、○日以内に納入物を検査し、納入物に瑕疵がある場合や、乙の企画意図に合致しないと認められる場合は、その旨甲に通知するものとする。この場合、甲は、速やかに乙の指示に従った対応をとらなければならない。

前項の期間中に乙から甲に前項の通知がなされないときは、前項に定める検査に合格したものとする。

<4> 納入物の所有権

 著作物の創作を依頼する契約においては、著作者から依頼者に納入された原稿やネガフィルム等の成果物の所有権が当然に依頼者に移転することにはなりません。成果物の所有権の帰属について契約で決めておかないと、後日、成果物の所有権を巡って争いが生じる危険があります。原稿やイラスト等の場合、オリジナルの原稿やキャンバスそれ自体が財産的な価値を持つことがあるため、特に注意が必要です。逆に、フロッピーやCD-ROM等により、電子データ形式で納入を受ける場合は、成果物の所有権が問題になることは少ないといえます。
 依頼者において成果物の所有権まで取得したい場合や、著作者において成果物の所有権を保有しておく必要がある場合は、特に成果物の所有権の帰属を契約書に明確に定めておく必要があるでしょう。

規定例(利用後、創作者が成果物の返還を受ける場合の一例)

第○条(納入物の返却)

 乙は、納入物を、利用が終了し次第速やかに甲に返却する。

規定例(あらかじめ返却の期限を定めておく場合の一例)

第○条(納入物の返却)

 乙は、納入物を平成○年○月○日までに甲に返却する。

規定例(納入物の所有権を依頼者に帰属させる場合の一例)

第○条(納入物の所有権) 

 納入物の所有権は、対価の完済により、乙に移転する。

<5> 報酬

 報酬については、後で説明します(B.<4>の「対価」)。

<6> 保証条項

 納入された著作物が他人の著作権やプライバシー権等を侵害しているような場合、これを実際に利用する依頼者が、著作権侵害等を理由に権利者から損害賠償等の責任追及を受ける立場になります。このため、著作物の制作委託契約においては、著作者が著作物について他人の権利を侵害していないことを保証する条項を設けることがあります。
 ただし、このような条項を設けただけで、著作権やプライバシー権の侵害の被害者に対しての責任が全くなくなるわけではないので、注意が必要です。

規定例

第○条(保証)

 甲は、乙に対し、本著作物が、第三者の著作権その他第三者の権利を侵害しないものであることを保証する。

 なお、著作権以外に関係することがある権利を列挙したり、クレームへの対処についても規定する場合もあります。

規定例(詳細に規定する例)

第○条(保証)

甲は、乙に対し、本著作物が、第三者の著作権、プライバシー権、名誉権、パブリシティ権その他いかなる権利をも侵害しないものであることを保証する。

万一、本著作物に関して、第三者から権利の主張、異議、苦情、対価の請求、損害賠償請求等がなされた場合、甲は、その責任と負担のもとこれに対処、解決するものとし、乙に対して一切の迷惑をかけないものとする。

<7> 仕事の進め方

 成果物の完成までに長期間を要するような場合には、仕事の進捗状況を管理するための条項や、依頼者の指示に関する条項を設けることがあります。

規定例
第○条(遵守事項)

甲は、乙の企画意図を理解、尊重し、適宜乙の指示に従うものとし、乙は、甲に対し、適宜企画意図に合致させるために作品の修正を求めることができる。但し、甲の作業を不当に遅延させてはならない。

甲は、乙から要求があったときは、乙に対し、適宜作業の進捗状況その他制作に関する事項を報告しなければならない。