「誰でもできる著作権契約マニュアル」 第2章 3. (2) B.

(2)契約の内容

B. 創作された著作物の著作権の帰属やその利用方法を定める部分

  • 著作権法では、現実に作品を創作した人(イラストの場合にはイラストレーター、写真の場合にはカメラマン、文章の場合には執筆者)が著作者となり、その著作者が著作権を持つものと定められています。依頼者が報酬を支払ったからといって、それだけで著作権を取得することにはなりません。
  • 依頼者が作品を利用するためには、著作権者からその利用について了解を得るか、またはその利用に関する著作権を譲り受ける必要があり、これらについて契約書で定めることが必要です。
  • 著作権を誰が持つかを巡って後に争いが生じないよう、契約書で著作権の所在を確認しておくことが重要です。

<1> 著作者に著作権を残す場合

(ア)著作権の所在の確認

 上記のとおり、後に紛争にならないよう、契約書で著作権の所在を確認しておくことが重要です。

規定例

第○条(権利の帰属)

 本著作物の著作権は、甲に帰属する。

(イ)利用の許諾

 著作権が著作者に帰属する場合、依頼者が作品を利用するためには、著作権者である著作者から、著作物の利用に関する了解を得なくてはなりません。

  • 利用する態様は、なるべく具体的にわかりやすく記載してください。

対象著作物が文章の場合の規定例

第○条 甲は、乙に対し、本著作物を、下記の態様で利用することを許諾する。

 (1) 印刷物における利用

・印刷物の名称:広報○○
・発行部数:1,000部
・販売期間:平成○年○月○日から1年間
・販売地域:日本国内
・発行日(予定):平成○年○月○日

 (2) インターネットホームページにおける利用

・サイト名:○○社公式サイト
・URL:http://www.○○.co.jp
・掲載期間:平成○年○月○日から1年間

 (3) 翻訳

・乙は、本著作物を英訳し、上記(1)(2)の各利用をすることができる。

  • 上記の規定例では、販売期間、掲載期間という形で、著作物の利用を了解する期間を規定しましたが、契約全体の「有効期間」を規定する形で期間を定める方法も考えられます。
  • 依頼者がその作品を独占的に利用したい場合(著作権者が依頼者以外の者に対してその作品の利用を了解することを制限したいとき)は、その旨を契約で定めておく必要があります。この点については、第1章1.(2).<1>.(エ)の「独占的に利用したい場合は、その旨規定する必要があります。」の説明を参照してください。

規定例

第○条(独占的利用許諾)

 前条の許諾は、独占的なものとし、甲は、乙以外の第三者に対し、(1)印刷物における複製、販売、(2)インターネットホームページにおける掲載、(3)翻訳、の各形態で本著作物を利用することを許諾してはならない。

<2> 依頼者に著作権を譲渡する場合

  • 著作権は、自由に譲渡することができるため、契約で、依頼者がその作品の著作権を著作者より譲り受けることもできます。
  • 著作権の譲渡を受けると、依頼者としては、その作品を自由に利用できるだけでなく、その作品を他人が利用することも制限できるようになるというメリットがあります。しかし、逆に著作者にとっては、著作権を譲渡してしまうと、その後は、譲渡先の了解を得ない限り、その作品を利用することができなくなりますし、類似の作品を作ることが制約されてしまう(譲渡した著作権を侵害する可能性がある)というデメリットも生じます。著作権を譲渡する契約を結ぶ場合には、このような著作者のデメリットに配慮して、これを調整する規定(たとえば、著作者自身の利用を認める規定や、著作者が類似の作品の創作することを認める規定等)を置くことも一つの方法として考えられます。
  • その他、著作権を譲渡するに際しては、譲渡する場合の対価の妥当性も含め、当事者間で十分に検討する必要があります。
  • 著作権の譲渡に関しては、第1章1.(2)<2>の「著作権譲渡契約」も参照してください。

規定例

第○条(著作権の移転)

 本著作物の著作権(著作権法第27条および第28条に規定する権利を含む)は、第○条の対価の完済により、乙に移転する。

【留意点】

  • 著作権を譲渡する契約において、二次的著作物を創作する権利(著作権法第27条)および二次的著作物を利用する権利(著作権法第28条)を譲渡の対象として明記しないときは、これらの権利は譲渡の対象としなかったという推定を受けます。
  • 個別の支分権(複製権、譲渡権等)単位で著作権を譲渡することも可能です。この場合、その支分権を譲り受けることで、著作物の利用目的を達することができるかどうかについて慎重に検討する必要があります。

<3> 著作者人格権

  • 著作者人格権は譲渡することができません。したがって、その作品の著作権を著作者が持つ場合でも、依頼者に譲渡される場合でも、著作者人格権は著作者が有することになります。
  • 作品の利用に関し、著作者人格権の問題が生じる可能性がある場合は、この点を意識した契約書を作成する必要があります。

(ア)同一性保持権

  • 無断で作品の内容や題号を改変すると同一性保持権の侵害になります。さらに、以下のような改変であっても、同一性保持権の問題が生じる可能性があります。
    • 文章の場合:送り仮名の変更、てにをは等の変更、仮名遣いの変更、改行位置の変更等
    • イラストや写真の場合:サイズの変更、色調の変更、縦横比の変更、一部切除等

 そのため、改変する場合には、あらかじめ著作者の確認を必要とすることを念のために規定したり、一定の場合には著作者の確認なしに改変することを規定することがあります。

(イ)氏名表示権

  • 作品を利用するときには、その著作者名を表示する必要がありますが、あらかじめどのような著作者名を付せばよいかを契約書で定めておくとよいでしょう。著作者名を付さなくてよい場合には、その旨を契約書に明示しておきましょう。

(ウ)公表権

  • 著作権法では、著作者に「公表権」が認められています。具体的な公表の時期や方法については、明確にしておくことが大切です。どのタイミングで作品を公表するかについては、利用許諾契約の場合は、契約内容のところで併せて規定することができます。
  • 著作者が、公表時期について、特段の指定をしない場合は、公表については契約書に記載しないことも多いと思われますが、利用者に委ねることを明確にするためその旨を契約書に明記することもあります。

規定例(変更のつど許諾を要し、かつ、氏名表示を要する場合)

第○条

乙は、本著作物を改変する場合、事前に甲の承諾を得なければならない。

乙は、本著作物を利用するにあたって、次のとおり著作者名を表示する。
        ○○○○

甲乙は、本著作物の公表日を、平成○年○月○日以降とすることを確認する。

規定例(一定範囲での変更を認め、かつ、氏名表示を要しない場合)

第○条

甲は、乙が本著作物を利用するにあたり、その利用態様に応じて本著作物のサイズ、色調を変更したり、一部を切除することを予め承諾する。但し、乙は、これら改変であっても本著作物の本質的部分を損なうことが明らかな改変をすることはできない。

乙は、前項以外の改変を行う場合は、事前に甲の承諾を得なければならない。

乙は、本著作物を利用するにあたって、著作者の表示をすることを要しない。
甲乙は、本著作物の公表日を、平成○年○月○日以降とすることを確認する。

<4> 対価

  • 著作物を創作してもらう契約における「対価」には、以下の内容が含まれています。
    • 創作作業への対価(作業料)
    • (著作者から著作物の利用の了解を得る場合)著作物の利用許諾の対価
    • (著作者から著作権の譲渡を受ける場合)著作権の譲渡の対価
  • 対価の支払い方法には、第1章.1.(2).<1>.(オ)の「使用料の支払いについて規定するようにしましょう。」で述べたとおり、様々な方法があります。
  • 振込の場合は、振込手数料を誰が負担するかについても明記するようにしましょう。
  • 対価が著作権の譲渡に対する対価を含む場合、著作権の譲渡に対する対価がいくらかという内訳を明記した方が望ましいといえます。

規定例(一括払い・利用許諾の一例)

第○条(対価)

 乙は、甲に対し、本著作物創作業務および本著作物の利用許諾の対価として、金○万円(消費税込み)を、平成○年○月○日までに支払う。

規定例(一括払い・著作権移転の一例)

第○条(対価)

 乙は、甲に対し、本著作物創作業務および本著作物に関する著作権譲渡の対価として、金○万円(消費税別途)を、平成○年○月末日までに、別途甲が指定する銀行口座に振り込む方法で支払う。振り込み手数料は乙の負担とする。なお、対価の内訳は、以下のとおりとする。
  金△万円:本著作物創作業務に対する対価
  金□万円:本著作物に関する著作権譲渡の対価

規定例(複合方式・利用許諾の一例)

第○条(対価)

乙は、甲に対し、本著作物の創作業務の対価として、金△万円を、平成○年○月末日までに、別途甲が指定する銀行口座に振り込む方法で支払う。振込み手数料は乙の負担とする。

乙は、甲に対し、本著作物の利用許諾の対価として、以下の算式で算定される金額を支払うものとする。
  本件書籍の消費税を含まない本体価格(△△円)×発行部数×□%

前項の対価は、毎年3月末日、9月末日を締め日として、締め日から30日以内に、別途甲が指定する銀行口座に振り込む方法で支払う。振込み手数料は乙の負担とする。
※作品が掲載される印刷物を「本件書籍」と定義することを前提としています。

  • 印税方式を採用する場合、正しく印税が計算されているかどうかを受け取る側が確認できるように、帳簿閲覧権等につき規定することがあります。

規定例(帳簿閲覧等に関する規定の一例)

第○条(帳簿閲覧等)

乙は、各支払終了後7日以内に、支払額の計算明細書を甲宛に送付しなければならない。

乙は、本件著作物に関する会計帳簿その他関係記録につき、甲の請求に応じ、これを乙の営業時間中に限り、甲に閲覧させなければならない。

<5> その他の条項について

 その他、契約書には、解除に関する条項、秘密保持に関する条項、権利義務の禁止条項、契約内容の変更方法に関する条項、協議に関する条項、等を置くことがあります。これら条項の説明および条項例は、第1章.2.(3)の「その他契約書に盛り込まれることのある事項」をご覧ください。