「誰でもできる著作権契約マニュアル」 第2章 5. (2)

(2)募集要項の内容

<1> 著作権の帰属
採用作品の著作権が誰にあるのかを明確にしておきましょう。

 主催者が利用することを前提としたシンボル・マークなどの作品の公募の場合、採用作品の著作権の帰属を明確にしておく必要があります。公募における採用作品の著作権も、原始的には入選者に帰属します。
 主催者が、採用作品の著作権の主催者への帰属(転)を希望する場合には、募集要項にその旨を明記する必要がありす(第1章 1.(2)<2>(ア)の「著作物の創作を依頼し、報酬を支払ったとしても、著作権が譲渡されたことにはなりません。」参照)。
 た、キャラクターデザインを立体化したり、標語を外国語に翻訳したりすることなどが予定されている場合には、著作権法第27条(翻訳権、翻案権等)および第28条(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)に定る権利をて主催者に転する旨も明記する必要がありす(第1章 1.(2)<2>(エ)の「二次的著作物に関する権利を譲渡する場合は、その旨明記する必要があります。」参照)。

規定例(採用作品の取扱い)

 当選者は採用作品の著作権(著作権法第27条および第28条に規定する権利を含む)を主催者に移転します。

 主催者が採用作品の著作権の主催者への帰属(移転)を希望しない場合、主催者が採用作品を利用できるようにするため、採用作品に関する著作権の入選者から主催者への利用許諾(ライセンス)に関する規定が必要になります。
 著作権の利用許諾(ライセンス)に関しては、以下の2点が最も重要なポイントになりす。

(ア)独占・非独占

 主催者が採用作品を主催者だけで利用したい場合、入選者と独占的利用許諾契約を結ぶ必要がありす(第1章 1.(2)<1>(エ)の「独占的に利用したい場合は、その旨規定する必要がありす。」参照)。
 独占的利用許諾とは、著作権者である入選者が主催者以外の第三者には入選作品の利用許諾を与えることができないというものです。独占でない場合を非独占といいす。

規定例(採用作品の取扱い)

 主催者が採用作品を独占的に利用できるものとしす。

(イ)利用的

 入選者から利用許諾(ライセンス)を受けたからといって、著作物(採用作品)を全く自由に利用できるわけではありません。主催者(ラインセンシー)は、契約で定めた利用方法および条件の範囲内でしか、採用作品を利用することはできません。
 主催者は、募集要項に採用作品の利用目的を漏れなく記載する必要があります。

規定例(採用作品の取扱い)

 採用作品はテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、書籍、パンフレット、文具、具など、主催者が○○○○イベントの実施、広告宣伝等のたに必要と判断する利用的に利用できるものとしす。

コラム 応募作品の著作権の帰属
 募集要項の中に「応募作品の著作権は当方に帰属します」という条件が入っている場合がありますが、この場合、採用作品のみならず、落選作品も含めて全ての応募作品の著作権が主催者に帰属することになるのでしょうか。採用作品については、通常、入選者に賞金品も授与されますし、主催者の利用もありますから、「著作権譲渡の契約」を結んでいるとの解釈に合理性がありますが、落選作品についてはそうではありません。募集要項に「応募作品の著作権は当方に帰属します」と記載されていても、主催者に著作権が譲渡されるのは入選作品だけと解釈するのが合理的であると考えられます。
 ただし、主催者としては応募事業の紹介や記録のたに応募作品を利用したい場合がありす。応募事業の紹介や記録のたに応募作品を利用することは許されているとも考えられすが、無用のトラブルを防止するたには、募集要項に応募作品のこのような利用について明記しておきしょう。
規定例(注意事項)

 応募者は、応募事業の紹介や記録のために主催者が応募作品を利用することを認めることとします。

<2> 採用作品の修正・翻案
採用作品の修正・翻案が予定されている場合には、その旨を明確にしておきしょう。

 採用作品を主催者が実際に利用していくには、専門家等による修正が必要な場合があります。採用作品の著作権が主催者に移転されていても、入選者には著作者人格権(同一性保持権)がありますから(第1章 1.(3)(ウ)の「内容等を修正する必要がある場合は著作者からの確認等について取り決てください。」参照)、採用作品の修正が予定されている場合には、募集要項に採用作品の修正に関する応募者の事前了解に関する条件を入れておきしょう。

規定例(注意事項)

 当選者は、採用作品の一部修正・翻案を主催者に認めることとします。

<3> 採用作品の商標・意匠の出願・登録
採用作品の商標・意匠の出願・登録が予定されている場合には、その旨を明確にしておきしょう

 シンボルマークデザイン、キャラクターデザインなどは、商標・意匠の出願・登録が可能です。著作権と商標権・意匠権とは全く別の権利ですから、商標・意匠の出願・登録をする可能性がある場合には、商標・意匠の出願・登録について明記しておきしょう。

規定例(注意事項)

 当選者は、主催者が採用作品の商標・意匠の出願・登録をすることを認めることとします。

<4> 応募作品のオリジナル性と第三者の権利
応募作品が応募者のオリジナルのものであり、第三者の権利を侵害するものでないことを明確にしておきしょう

 第三者が創作した作品を応募者が勝手に応募するのは、第三者の権利侵害になるものであり、トラブルになる恐れがあります。また、応募作品がすでにどこかで公表されているものだと、新規性に欠けるなどの問題が生じる恐れがあります。このようなトラブル等を防止するために、募集する作品は、応募者が創作した未公表の作品とすることを明記しておきましょう。

規定例(注意事項)

 募集する作品は、応募者が創作した未公表の作品としす。

 た、第三者が著作権を有する著作物や商標権を有するマークなどを一部でも応募作品に利用すると権利侵害となりす。応募作品に第三者が著作権を有する著作物や商標権を有するマークなど利用しないようにさせるたに、募集要項に第三者の権利を侵害していないことのについても明記しておきしょう。

規定例(注意事項)

 作品の中に第三者が著作権等の権利を有している著作物等を利用していないものとします。

<5> 著作権譲渡等の対価
採用作品に対して提供される金品の内容を明確にしておきしょう。

 出版や映画化など、著作物の利用に関する契約では、通常、利用の条件として対価(著作物等の使用料など)の支払いを定める場合が多いわけですが、シンボルマークなどの作品の公募の場合は、対価に代えて、表彰・賞金などの懸賞が行われることが多いと思われますので、その内容について明記しておけばよいでしょう。

規定例(表彰・賞金)

 採用作品1点金○○○円

 なお、金品を受け取ることで、入選者の所得額が増加し、納付すべき所得税の額や翌年の住民税の額が増加することが考えられす。た、所得税法には、配偶者控除をはじとしたいろいろな控除がありすが、その適用を受けられなくなったり、世帯主の健康険が使えなくなったりする場合も考えられす。たとえ、少額の金品であっても、入選者にその他の一時所得がある場合には、これらの問題が発生する可能性がありす。募集要項では、金品にかかる税金について最寄りの税務署に相談するよう注意を促しておくべきでしょう。

規定例(注意事項)

 当選者は、賞金品等に係る税金について最寄の税務署に相談してください。

<6> 応募作品の返却
応募作品の返却に関する事項を明確にしておきしょう。

 応募作品を返却するか否かを明確にする必要があります。返却する場合は、<1>返却期間と<2>返却方法を明確にする必要があります。

<7> その他

 その他、募集要項に必要な事項は募集事業の性質や主催者の手続きの必要に応じて工夫してください(募集のテーマ、作品の種類、応募資格、応募作品の規格、募集期間、応募方法、応募先、審査員や選考方法、問い合わせ先など)。また、応募者の個人情報の利用目的を明示しておくことにも留意しましょう。

コラム 民法における「優等懸賞広告」
 民法では、「ある行為を行った者に一定の報酬を与えることを広告した場合は、広告した者はその行為を行った者にその報酬を与えなければならない」と規定されており(第529条 懸賞広告)、また、「広告に応募期間を定めていた場合に限り、複数の応募者のうち優れた者のみに報酬を与えることができる」と規定されています(第532条 優等懸広告)。作品展やコンクールにおいて作品を募集し、その中から優秀作品等に品や金等が贈られるのはこの規定に基づいていす。
 募集を行う者は、応募が行われる前であれば募集要項と同様の方法によって募集広告を撤回することができます。ただし、当初の募集要項において、取り消しを行わない旨を表示していた場合には撤回することができません(第530条)。
 優等懸賞広告の場合、入選者の判定は、募集要項に定めた判定者(審査員)が行いますが、定めがない場合は広告者(主催者)が行います(第532条第2項)。また、応募者は入選者の判定に異議を述べることはできません。
 複数の応募作品が同等と判定された場合、それぞれ平等の割合で報酬を受けることができす(ただし、報酬が分割しにくい性質のものである場合には、抽選によることを募集要項に定ることができす。)(第532条4項)。また、募集の性質上、一定の客観的水準を満たす必要がある場合には、あらかじめその旨を募集要項に表示しておくことにより、応募作品にその水準を満たすものがなかったときに「入選作品なし」とすることができます(第531条3項)。