第1回ミュージアム・マネジメント研修の実施報告

主催:
文化庁
共催:
独立行政法人国立美術館
日程:
平成23年12月12日(月)〜14日(水)
会場:
国立新美術館 研修室

平成23年12月12日(月)〜14日(水)までの3日間,国立新美術館の研修室を会場として,第1回ミュージアム・マネジメント研修が開催されました。
近年,経済情勢の悪化や指定管理制度の導入など,ミュージアムの管理・運営をめぐる状況は厳しく,事業企画や事業評価,資金収集,広報戦略,著作権への対応などますます積極的かつ高度なマネジメント能力が求められるようになってきています。未曾有の大災害を前にして,ミュージアムの危機管理も大きな課題です。
こうした状況を背景に,新たな視点から自館の課題を見いだしマネジメントする実践力を養うことを目的に,研修が開催されました。
講義形式が中心の構成でしたが,講師陣はあえて博物館現場からではなく,異業種から選ばれています。新進のアーティストを世に紹介するギャラリー経営者や顧客サービスのプロを養成しているホテルの研修担当者,広告業界の最前線で話題性の高いCMをいくつも手がけるCMプランナー,アートを経営の中核に取り入れている温泉旅館当主など,受講生にとって新鮮な講師陣で,刺激の大きなものでした。受講生からは,博物館のマネジメントについて,新たな気づきが得られたという感想がよせられています。
また,いずれの講義も密度が濃く,各々一時間半ほどの講義時間が短く感じられるほどの内容でした。
以下,研修で使用したテキストと,当日の発表資料そして写真で研修の様子を紹介します。

研修初日(12月12日)

初日はまず,基調講演として,奈良美智や村上隆などの同世代のアーティストの展覧会を多数開催し,多くの芸術家を世に紹介してきたギャラリー経営者から,美術館におけるアーティストの評価に関する問題提起等をお話いただきました。続いて,東京ディズニーランドのオープン時にキャスト教育をされた経験をふまえて,顧客満足度をあげるための満足循環経営についての講義があり,さらに,ホテルにおける顧客サービス向上のための人材育成に関して講義をいただきました。博物館利用者の満足度を改めて意識して経営を振り返るきっかけとなる講義でした。

その後,グループディスカッション形式で,ボランティアの活用について,各々の館の現状と課題が協議されました。実際に長年ボランティアとして活動された講師によって,ボランティアの視点から導入にあたってのふまえるべきキーワードが示されています。博物館ボランティアの活動は課題として認識されている館が多いこともあり,協議時間が足りない状況となりました。

東京ディズニーランドに学ぶCSの秘密
講義Ⅰ「東京ディズニーランドに学ぶCS(お客様満足)の秘密」(講師:株式会社文化計画代表取締役 志澤秀一)
講義風景

研修2日目(12月13日)

研修2日目の午前は,ファンドレイジングに関する講義でした。経済情勢の厳しい中,いずれの博物館も資金調達は大きな課題です。文化施設への助成に携わられている立場から,ファンドレイジングにかかわる背景,具体的な活動においてふまえたいキーワードなどが話されました。
午後は指定管理者制度をテーマに,パネルディスカッションが行われています。
指定管理者制度の導入について,その概要と現状,課題について司会から提示され,これをうけて,各パネラーに受講生も交えて活発な意見が交換されました。パネラーには,実際にいくつもの文化施設の指定管理に携わる方や,指定管理ではないものの,館の運営を委託されて業務を担っている方,指定管理者制度をはじめ地方自治に詳しい大学教授などがそれぞれの立場で制度の課題を指摘されています。この制度への関心の高さもあり,受講生には最も評価の高い講座となりました。

メディアの進化と表現の深化
講義Ⅳ「メディアの進化と表現の深化」(講師:株式会社電通 エグゼク ティブ・クリエーティブディレクター(CMプランナー)澤本嘉光)講義風景

続いて,CM業界の第一線で活躍され,誰もが知るCMを手がける講師から,広報戦略に関する講義がありました。
メディアの進化にともなって,視聴者の心に届く広告媒体をいかに作るか,緻密な分析の上で新たな手法を開発されていること,情報の伝え方・方法を吟味することで小さな博物館においても,より有効な広報の手法があることなどが触れられています。

研修3日目(12月14日)

研修3日目の午前は博物館・美術館におけるリスク・マネジメントについて,東日本大震災の経験をふまえて,各館の備えを自己点検し,今後の対応を考える講義でした。実際に被災地の現場で,被災者の支援や災害復旧にあたった博物館経営者からの事例報告もあり,受講生全員が真剣に聞き入りました。午後は,博物館活動でも配慮が求められるようになってきている著作権について,文化庁の元著作権課の課長を経験された講師から,講義がありました。制度の概要や,美術館・博物館の活動にかかわる部分で想定される著作権関係の諸問題などが整理されましたが,もっと時間がほしかった,個別の事例に対するQ&Aを聞きたかったという感想もあり,やはり現場で直面する問題が多いことがうかがえます。

最後の特別講義は,アートを経営の中核に据えて,70%もの再訪率を実現している温泉旅館の当主から,これまでの取り組みと底流にある哲学が語られました。多くの示唆に富んだ講義で,受講生も博物館経営に照らしても持ち帰るものが多い内容でした。
なお,全ての講義を受講し,課題レポートを提出した受講生48名に,後日修了証書が交付されています。

アートスタイル経営からプロデュース経営へ
特別講義「アートスタイル経営からプロデュース経営へ」(講師:板室温泉大黒屋当主 室井俊二)
講義風景
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