参考2 第1回企画調査会

文化財の総合的な保護を行うための施策について

1.総合的な保護の概念の整理

 過去の審議会報告において指摘されている総合的な保護として、以下の必要性が主張されている。

総合的な保護としての必要性

(1)複数の文化財を総体として保護しようとするもの

(a)相互に関連性のあるものを総合的・一体的に保護しようとするもの

  • ・文化財の種類の枠を超えて、総合的・一体的な保護の施策を講ずることが重要(平成8年報告)
  • ・文化財の類型を超えて一定の価値を持ちながら集まったものについては・・・その総体を一括して把握し保護の対象とする(平成13年報告)

基本的に指定文化財(一部未指定を含む場合もある)

(例)

  • ・歴史的関連性を持って一定地域に集積する複数の文化財
  • ・同一作家の作品と各種資料
  • ・祭礼行事における芸能・儀礼的所作と衣装・用具等
  • ・史跡や建造物と関係古文書・絵図

(b)相互に関連性を有する文化財で個々の文化財の価値が一定基準に達しないものを一括して保護しようとするもの

  • ・一定の地域内に所在し相互に関連性を有する文化財で個々の文化財の価値が一定基準に達しないが総体としては重要であるものについては・・・その総体を一括して把握し保護の対象とする(平成13年報告)

主に未指定文化財(総合的に集まることで価値づけし保護)

(2)文化財の周辺環境・景観を含めた面的な保護

  • ・文化財を単体として点的にとらえるだけでなく、その周辺環境を含めて面的に把握した上で保護することが必要(平成13年報告)

周辺環境についての積極的な保護

  • ・歴史的建造物や史跡・名勝などの文化財が比較的集中している地域については、単体として当該文化財の保存・活用を図るにとどまらず・・・文化財周辺の自然的・歴史的環境の保全を図り、広く歴史的文化地域として面的な整備を進めることが適当(平成8年報告)

周辺環境についての保護

※なお、上記(1)(2)に加え、同一の文化財が重複して指定されている場合の保護の考え方についても整理が必要であるとの指摘がなされているところである。
(例:名勝庭園の構成要素である建造物が国宝・重文に指定されている場合 等)

2.既存の文化財保護制度における総合的な保護

 従来の文化財保護制度に加えて、社会構造や国民の意識の変化を反映した改正の中で、上記1のような総合的な観点からの保護手法の充実はこれまでも図られてきている。具体的には、複数の構成要素からなる一定の範囲を文化財として捉え、保護を図る制度として以下のようなものがある。

(1)記念物(昭和25年文化財保護法制定時)<上記1の(1)(b)、(2)に該当>

貝づか及び古墳などの遺跡、庭園及び橋梁などの名勝地並びに動物、植物及び地質鉱物を保護するため、「記念物」を文化財として規定している。
 文部科学大臣は、記念物のうち重要なものを史跡、名勝又は天然記念物に指定することができることとなっている。

(2)伝統的建造物群(昭和50年文化財保護法改正)<上記1の(1) (b)、(2)に該当>

城下町、宿場町、門前町、鉱山町、山村集落など、周囲の環境と一体をなして歴史的風致を形成している伝統的な建造物を保護するため、「伝統的建造物群」を文化財として規定。
 「伝統的建造物群及びこれと一体をなしてその価値を形成している環境」を、市町村が都市計画で伝統的建造物群保存地区として定め、条例により当該地区の現状を変更する行為の規制などの措置を規定し、文部科学大臣は、市町村の申出に基づき、当該地区の中から価値が特に高いものを重要伝統的建造物群保存地区として選定することができることとした。

(3)文化的景観(平成16年 文化財保護法改正)<上記1の(1)(b)、(2)に該当>

棚田や里山など、地域における人々の生活又は生業及び当該地域の風土により形成された景観地で我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないものを保護するため、「文化的景観」を文化財として規定。
 文部科学大臣は、都道府県等の申出に基づき、都道府県等が定める景観法に規定する景観計画区域、景観地区内にある文化的景観について、文化的景観保存計画等、当該都道府県等がその保存のため必要な措置を講じているもののうち、特に重要なものを重要文化的景観として選定することができることとした。

(その他関係があるものとして、以下のものがある)

(4)建造物とその立地その他の関係する土地等の保護(昭和50年 文化財保護法改正)<上記1の(2)に該当>

有形文化財の定義(法第2条第1項第1号)が「建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書その他の有形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの(これらのものと一体をなしてその価値を形成している土地その他の物件を含む。)・・・」とされ、建造物における立地等、美術工芸品における附属物が保護対象となっている。

(5)美術工芸品の指定・登録<上記1の(1) (b)に該当>

美術工芸品においては、絵巻物や陶磁器等、一連の作品をまとめて重要文化財として指定している。
 さらに、登録有形文化財(美術工芸品)においては、登録基準として、「歴史的若しくは系統的にまとまって伝存したもの」「系統的若しくは網羅的に収集されたもの」と規定されており、ある作家の作品の大部分や、特定の産業に関する古文書や器具類等をまとめて登録することとされている。

(6)重要文化財(建造物)の環境保全<上記1の(2)に該当>

重要文化財(建造物)については、予算措置として、国庫補助による環境保全事業(火除地の買上げ等)が行われている。

(7)重要無形文化財・重要無形民俗文化財の伝承のための施設・用具等の保全<上記1の(1) (a)に該当>

重要無形民俗文化財については、予算措置として、伝承に必要な国庫補助による用具の修理・新調や舞台等の修理が認められており、重要無形文化財については、場合によっては国庫補助による用具の購入も認められている。

3.世界文化遺産の制度の概要と近年の傾向

世界遺産(文化)は、文化財を緩衝地帯も含め面として保護対象とする制度であり、以下の点で総合的な観点による保護が図られている。

(1)資産の構成<上記1の(1) (a)に該当>

世界文化遺産一覧表に登録推薦される資産は、真正性のほか、完全性の条件を満たすことが求められている。完全性の条件の評価として、顕著で普遍価値が発揮されるのに必要な構成要素が全て含まれているかが審査される。

<例>紀伊山地の霊場と参詣道

推薦資産は、文化財保護法上の史跡7件,史跡・名勝1件,名勝1件,名勝・天然記念物1件,天然記念物4件により構成されている。また、国宝4件,重要文化財23件の建造物が含まれている。

(2)資産の保護

○総合的な保存管理計画の策定の必要性<上記1の(1) (a)に該当>

各登録資産には、資産の顕著な普遍的価値をどのように保存すべきかについて明示した適切な保存管理計画の策定が必要である。
近年は、複数の構成資産から成るものや多様な構成要素から成る文化的景観などについては、資産全体を対象とする包括的保存管理計画を策定することを求められている。

○緩衝地帯(バッファーゾーン)<上記1の(2)に該当>

資産を適切に保全するために必要な場合は、適切に緩衝地帯(バッファーゾーン)を設定する必要がある。
 この緩衝地帯は、資産の効果的な保護を目的として、資産を取り囲む地域に、法的な手法により補完的な利用・開発規制を敷くことにより設けられるもうひとつの保護の網である。

<例>紀伊山地の霊場と参詣道

資産の面積 495.3ヘクタール

緩衝地帯の面積 11,370ヘクタール

(景観保全のための条例による利用規制等で対応)

(3)有形と無形の考え方<上記1の(1) (a)に該当>

近年は、資産が持っている有形の評価だけでなく、精神性等の無形の評価も積極的に行うべきとの指摘が世界遺産委員会でも議論されている。

<例>紀伊山地の霊場と参詣道

紀伊山地の吉野・大峯、熊野三山、高野山は、古代以来、自然崇拝に根ざした神道、中国から伝来し我が国で独自の展開を見せた仏教、その両者が結びついた修験道など、多様な信仰の形態が育んだ神仏の霊場であり、大峯奥駈道、熊野参詣道、高野山町石道などの参詣道(巡礼路)とともに広範囲にわたって極めて良好に遺存しており、また、それらが今なお連綿と民衆の中に息づいている。

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