資料1 第2回企画調査会

文化審議会文化財分科会企画調査会(第1回)議事概要(案)

1.日時

平成18年11月15日(水) 10:00~12:00

2.場所

文部科学省10F4会議室

3.出席者

委員 石森会長,永井会長代理,西田委員,西山委員,林田委員,平川委員,星委員,松場委員,村上委員,神崎委員,斎藤委員,田中委員
事務局 加茂川文化庁次長,亀井文化財鑑査官,小松伝統文化課長,山﨑美術学芸課長,長屋文化財保護企画室長,その他関係官

4.議事等

(1) 文化庁次長より,挨拶が行われた。
(2) 調査会長の選任及び調査会長代理の指名が行われた。
(3) 議事の公開について決定が行われた。
(4) 事務局より文化財保護制度の概要説明及び企画調査会の調査事項について説明が行われた後,各委員より企画調査会で検討すべき調査事項について順次発言が行われた。
史跡発掘調査に携わっていた際に,史跡指定による規制に不満を持っている地元住民に対して文化財保護についての講座を実施し,時間をかけて史跡指定に対する理解を得てきた。企画調査会で審議されるべき事項として重要なのは,国民の文化財保護への理解と参加を促進するための思想的なものである。人々と自然との関わりの歴史を解明し,自分たちの身近にある文化財が自分たちの生活の基本であるという思想を育てていくことが根本的な解決策だと思う。
文化財の保護体系や組織の見直しという議論が起こっている中で,即応性のある施策が求められているのは理解できるが,これまで培われてきた日本の文化財行政の利点を失わないよう,慎重に議論する必要がある。日本と海外の文化財の保護の在り方の比較や新しい体制のシミュレーションを行い,我が国の利点を失わないような改革の在り方を模索すべきである。
文化財の周辺環境も含めた保護は,上から文化財のカテゴリーを広げていくという発想よりも,自治体がやっている文化財をいかしたまちづくりのような,ボトムアップ型の取組を考えていくことが重要。埋蔵文化財には調査の仕組みができているが,地上の文化財を無為な喪失から救うため,地域ごとの大事な文化財のデータベースづくりのようなことが必要である。
兵庫県では,阪神淡路大震災後,住民からの求めにより,指定文化財となっていない身近な文化財を保護する臨時的な制度を作ったが,専門家はすべて指定文化財の対応にとられてしまい,身近な文化財の保存に携わる人材の不足を実感した。また,文化財が自己完結型でなくなり,地域づくり,まちづくりへの発展が求められるようになった。文化財関係者も,痛んだから治すという外科医の集団ではなく,マネジメント,管理能力が求められるようになった。
また,兵庫県では,平成15年に歴史文化遺産構想を打ち出し,市町村と一緒に,まちづくり関係者との連携のガイドラインなどを考えている。また,ヘリテージマネジャーといって,市民の中から専門的な能力を持った方を養成し,まちづくりなどにいかすため,教育から受入先団体への派遣までをワンパックで行う制度を立ち上げた。その研修の際には,中で固まらず,どんどん外へ出て行って,文化財の考え方や気持ちをPRしてほしいという話をしている。
文化財の保存と活用に関し,行政と実際に住む者の意識にギャップがある。一番実感するのは補助金の在り方で,文化財の補助金を地域振興や観光振興などの経済振興と結びつけるのは非常に問題である。世界遺産をビジネスチャンスと考えるのも危険。補助金で人の意識は変えられないので,人の意識を育てていくことにより,初めて補助金もいかされる。また,県,市,民間の意識にギャップがあるので,それをつなぐことを考えたい。各地域でこれまで紡がれてきた文化が遮断され,すばらしい技術が衰退している。ビジネスを通じて,日本のすばらしいものづくりを発信していきたいと思っている。
若い学芸員に,責任を持って仕事をすることを再教育する必要がある。責任を取りたくないという思いが全国的に蔓延(まんえん)している。例えば,文化財の運搬時に同乗しない人が増えており,何かが起こったら運送会社の責任だという。そうではなく,借りたら全て責任を持たなければならない。このままでは文化財が焼けても指定し直せばいいという考えに行きかねず,非常に怖い。
文化財の修理にも入札が求められているが,技術と経験が必要であることを理解しているのか,という点で危険を感じる。屏風(びょうぶ)を直すのに1,000万円,1,500万円の修理と30万円,40万円の修理を比較して,安ければいいというのでは,100年,200年持つどころか翌日から壊れていくような修理になる。安ければいいという考えをしない方策ができないか。
文化財保護は広報が不十分である。もっと一般の方に知ってもらう必要がある。山手線の動画広告は月500万円で非常に成功している。文化財も,事業の充実とともにPRの予算を取るべき。また,「文化財保護強調月間」という表現もお役所的で非常に硬い。タレントを使うなど,もう少し親しみやすいものにならないか。
定年退職する団塊世代の方をアクティブシニアと呼ぶが,そういう人たちが研修を受けて文化財保護の活動ができるような制度を自治体や国で作れば,より多くの人々が文化に興味を持つのではないか。
これまでの報告書で方向性は示されているので,ここでは具体策を詰めていくことが大事だと思う。高松塚については,そうしたことが今後起こらないようにするために,きっちり調べてフォローすることが必要。また,総合的な指定については,各分野を幅広く見ることのできる専門家が少ないことが一番の問題であり,学問分野でもいろいろと努力する必要がある。地方でも埋蔵文化財以外の専門家が非常に少ない。
総合的な把握は,地方や所有者の申請を受けて指定を進めることが一つの打開策になるのではないか。申請が総合的なものであれば,行政側も複数の分野の専門家で対応せざるを得ない。また,日本で一番総合的な保護がうまくいっているのは世界遺産になったところなので,場合によっては世界遺産を増やすことも一つの手段となるのではないか。いずれにせよ,周辺環境を含めた保護には大きな犠牲と予算措置が必要となるため,よほど大きなメリットがないと難しい。1,000億円で日本の文化を全部やるというのは本当に大変。予算,税制面において思い切った措置がなければ難しい。
他省庁との連携が必ずしもうまく行っていない。ナショナルトラストなど他省庁の施策を具体的に取り上げて,対策を考えることはできないか。
総合的な指定ではないが,建造物と美術工芸品など重複指定は結構ある。例えば二条城は建物が国宝で,襖(ふすま)や壁が美術工芸品として重要文化財になっている。重要文化財の絵画を保存するためには収蔵庫に入れたいが,それでは建造物としての全体の価値を損ねる。指定の問題というよりは,保存の手法や理念の問題であり,お互いの垣根を越えた議論や人材交流が必要。総合的な把握とともに,その後の保存の方法も整理する必要がある。
総合的な指定の関係では,例えば,伝統的建造物群と地域の祭礼や行事などの民俗文化財を総合的に指定すれば,地域振興に良い結果が期待できる。また,世界遺産では国を超えてシリーズで一括して指定している例がある。全国の祇園祭を一括して指定する,幾つかの英国領事館を一括して指定するなど,新しい展開があり得るのではないか。
文化財保護法は地方自治体の指定に冷たい。市町村指定の上が県指定,その上が国指定というヒエラルキーになっているが,そうではなく,地方と国とは役割分担の関係なのではないか。地方は国とは違う観点を持っている。地方と国の審議会委員同士の意見交換の場を設ければ,地方と国の関係も改善される。
重要無形文化財保持者,いわゆる人間国宝は,本来文化伝統を次世代に継承する仕事であるが,名誉職や栄典のように受け止められている。本人も世間もそう見るので,中には人間国宝に認定された途端に仕事をしなくなるなど,かえって文化伝統の継承にマイナスになりかねない面もある。文化伝統を継承する重労働なのだという気持ちに切り替えるよう,システムを見直す時期ではないか。無形文化財や無形民俗文化財についても,ほかの分野にある登録文化財のようなシステムも課題として検討してはどうか。
これまで専門調査会の横の連絡がなかった。この機会にほかの委員の意見を聞き,同じような考えを持っていることを確認できて大変有り難い。
民俗文化財の制度ができて30年が経過し,指定されたものでも現場が相当変わっている。現状調査を行い,分野によっては再指定するなど,国としての方針を決めなければいけない。特に,無形文化財や無形民俗文化財は相当の変化,崩れがある。後継者が既にいないものが指定文化財でいいのかといった問題を考える時期が来ている。後ろ向きではなく,再編成していかすという姿勢で考えるべき。
他分野との連携や官民連携は言わずもがなであるが,官官連携という意識も必要。例えば国民文化祭は,担当県以外の認知度はほとんどない。もっと上手に運営して活用すればいい。文化財保護に関するフォーラムやシンポジウムを毎回行うなどしてはどうか。県の委員会ではなかなか考えつかないので,文化庁が提案してほしい。それを繰り返すことで,その県にある文化財の問題から具体的に理解してくる人が増える。
各分野の専門家の知識が文化庁内で共有されていない。文化財を総合的に捉(とら)えて国民に発信できる人が必要である。これは人や組織だけの問題ではなく,文化財保護法の体系そのものにも問題があるのではないか。
総合的な把握は,これまで2度にわたり提言され,部分的には実施されてきたが,基本的な部分は未着手になっている。それは何がネックだったのか,クリアするにはどういう方策があり得るのかというデータを出してもらえれば,この後の議論がやりやすい。
調査事項の3番目である様々な分野との連携方策も重要な課題なので,「その他」ではなく独立した課題とし,調査事項の4番目を「その他」としたらどうか。
調査事項は,文化財分科会で決まっているので,とりあえずはこの形でお願いしたい。
この調査会では,短期的な方策はもちろん,文化財保護をめぐる国民的合意の形成といった方向性も必要になると思う。文化財保護法の名称そのものにも問題があるかもしれない。観光基本法は,観光立国促進法に改正するという方向で動いている。文化財保護法も,世界に先駆けた立派な体制をつくったものではあるが,そろそろ文化財基本法のような方向が必要だろう。本来は保護だけでなく活用を図ることによって,最終的に国民の文化的向上と世界文化の振興に貢献することが目的である。
社会資本整備は主として国交省でやっているが,文化財や博物館,資料館など,国民の文化的生活の向上に資するものとして「文化資本」という概念を文化庁等が主張していく必要がある。幸い安倍首相が美しい日本づくりを提唱している。国立大学に運営費交付金が投入されるのは,新しい文化,人材を育成する文化資本として重要だからである。同様に,文化財を扱う部局も文化資本として位置付け,公共投資の対象としていくべき。問題は,法律的な裏付けがない。中長期的にはそういう大きな問題も頭に入れつつ,短期的なことを考える必要がある。
(5) 今後のスケジュールについて事務局より説明が行われ,次回の開催日の連絡が行われた。
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