別紙5

継続審議とすることが適当とされた文化資産

 今回提案のあった文化資産のうち、次ページ以下の20件については、さらに審議を尽くすために継続審議とする。20件の記載順は、都道府県の順番に基づくものである。
 今後、それぞれの資産について主題及び構成の熟度を高めていくためには、課題として以下に示す点を念頭において調査・審議を進めていくことが必要である。
 また、提案の各地方公共団体においても、これらの課題を踏まえて、主題及び構成について引き続き検討していくことが必要である。

1.共通課題

ア. 提案書において、資産の全体像を説明する上で基本となる主題又は考え方が明確化され、それに基づき、資産の範囲及び網羅すべき諸要素等に過不足がないか。
 
  • 資産の真実性に関しては、形態・意匠、材料・材質、位置・環境のみならず、用途・機能、精神・感性、技術の継承及び担い手の育成などの観点から総合的に判断することが必要である。
  • 資産の完全性に関しては、資産の主題が拡散することのないよう留意するとともに、代表的な構成資産の選択に努めつつ、それらの相互の関連性及び連続性をも十分尊重して資産構成とすべき諸要素を特定することが必要である。
  • 不明点又は不足事項が認められるものについては、提案した地方公共団体において再検討及び提案書の内容変更を要する。
イ. 世界的な観点から、提案資産の位置付けをどのように評価するのか。
 
  • 国内外の視点から比較研究を行い、提案資産が持つ顕著な普遍的価値の可能性について検討することが必要である。
  • (1)縄文文化の諸相を表す考古学的遺跡、(2)近世文化を背景に発展した城郭・城下町・街道・宿場町などの都市及び集落関連の資産、(3)宗教・信仰に関係する山岳・島嶼及び巡礼道・参詣道等の資産、(4)近代の重鉱工業に関する資産など、主題が類似する複数の資産については、相互の比較又は統合に関する議論を通じて、世界的な観点からの位置付けを明確化することが必要である。
  • 提案した各地方公共団体においても、上記の調査研究及び検討を行う必要がある。
ウ. 構成資産が多様で数多に及ぶものについては、それらの規模・性質に応じて十分な保護措置を行う準備があるか。
 
  • 国宝又は重要文化財、特別史跡名勝天然記念物又は史跡名勝天然記念物への指定及び重要文化的景観又は重要伝統的建造物群保存地区への選定等を進める上での手順を簡潔に整理し、示すことが必要である。
  • 包括的保存管理計画の策定のみならず、個別の文化財に関する保存管理計画の策定に関し、今後の方針・方向性・手順等を簡潔に整理して示すことが必要である。
エ. 既登録の文化遺産との統合又は再整理が可能であるか。
 
  • 新規の登録遺産数を抑制しようとの最近の世界遺産委員会の傾向に鑑み、既登録の文化遺産との統合又は再整理の視点を十分視野に入れ、資産構成について検討することも必要である。

2.個別の文化資産

青森県の縄文遺跡群

 日本の歴史の大半を占め、自然と人間との共生を示す時代として高い考古学的価値を持ち、10,000年以上もの長期間にわたり継続した先史時代の土地利用の原形を現在に留める貴重な物証である。集落遺跡・貝塚・低湿地遺跡・ストーンサークルなど多彩な遺跡群が、豊かなブナ原生林とも一体となって資産を構成しており、人間と自然との共生の持続性を示す一群の考古学的遺跡として、価値は高い。
 日本の世界文化遺産及び世界遺産暫定一覧表に記載された文化資産には、未だ見られない分野の文化資産である。
 なお、現時点での個別の課題は次のとおりである。

(1) 主題
   「縄文文化」の定義及び世界史上における位置付けの明確化が必要。
 地下に埋蔵されて遺存している日本の考古学的遺跡の価値・特質について、特に国外の専門家との合意形成に努めることが必要。
(2) 資産構成
   同一の文化圏及び地域性などの観点から、青森県以外の広域に所在する同種・同時代の諸要素の選択に関する検討が必要。
(3) 真実性
   地下に埋蔵されている考古学的遺跡と整備後の景観の両面から、資産の真実性について整理することが必要。
(4) 登録基準の妥当性
   提案書に示された登録基準のうち、ii)については同時代の他の文化圏との交流の観点から、iv)については歴史上の重要な段階を物語る建築・景観の顕著な見本の観点から、それぞれ適用の正当性について再考が必要。

ストーンサークル

 日本列島において10,000年以上もの長期間にわたり継続した先史文化の物証であり、特に葬送儀礼や季節暦の判定などを行う祭祀の場であったとされる秋田のストーンサークルは、200年以上にわたって継続的に営まれてきた大規模なものである。現代人がそのままの当時の姿を視覚的に確認することが可能な希少性の高い縄文時代の遺跡であり、縄文人の精神文化に関連する考古学的遺跡として、価値は高い。
 日本の世界文化遺産及び世界遺産暫定一覧表に記載された文化資産には、未だ見られない分野の文化資産である。
 なお、現時点での個別の課題は次のとおりである。

(1) 主題
   「縄文文化」の定義及び世界史上における位置付けの明確化が必要。
(2) 資産構成
   同一の文化圏及び地域性などの観点から、秋田県以外の広域に所在する同種・同時代の諸要素の選択に関する検討が必要。
(3) 真実性
   地下に埋蔵されている考古学的遺跡と整備後の景観の両面から、資産の真実性について整理することが必要。
(4) 登録基準の妥当性
   提案書に欠落している登録基準iii)に関する説明が必要。

出羽三山と最上川が織りなす文化的景観 -母なる山と母なる川がつくった人間と自然の共生風土-

 仏教以前の自然崇拝を色濃く残す出羽三山とその信仰と深く結びついた人々の生活と生業を支える最上川が織りなす貴重な文化的景観である。出羽三山をとりまく自然や信仰に関わる遺産、その参詣道としてばかりでなく、日本有数の穀倉地帯を潤し、米や紅花、上方から木綿、茶等の産物を運んだ最上川沿いに残る米倉庫や防砂林などが人々の自然と共生の歴史を雄弁に語っている。
 稲作文化を支えた河川等の流通機構と沿川に展開した農耕文化、その結果生まれた高度な精神文化を表す総合的な資産として、価値は高い。
 世界遺産一覧表及び世界遺産暫定一覧表には、未だ反映されていない分野の文化資産である。
 なお、現時点での個別の課題は次のとおりである。

(1) 主題
   出羽三山信仰、最上川の舟運等、鳥海山信仰、蔵王信仰など複数の主題が複合しているが、今後、世界遺産を目指す上でどのような主題が適切か整理が必要。ただし、出羽三山など信仰関連遺産を主題の中軸に据えた場合には、他の提案資産の中に主題の類似するものが存在する。
(2) 資産構成
   想定されている多様かつ豊富な構成資産の相互の関連性・連続性に関して、確実な説明が必要。特に、出羽三山と最上川とを結び付ける根拠を明確化するとともに、海域を含む総合的な観点からの資産構成について検討することも必要。
(3) 登録基準の妥当性
   提案書に示された登録基準iv)については、歴史上の重要な段階を物語る建築・景観の見本の観点からの再考が必要。

金と銀の島、佐渡-鉱山とその文化-

 日本海に浮かぶ佐渡島に所在し、中世末期から近世・近代・現代へと継続した日本最大の金銀山遺跡である。島内には400年間にわたる金銀の鉱石採掘に関連する遺跡をはじめ、建造物・景観などが良好に保存されており、人類が獲得したすべての鉱山技術の変遷を実見できる希有な資産である。鉱山に関する考古学的遺跡のみならず、近代の採掘に関連する一群の構成資産が良好に遺存するなど、価値は高い。
 なお、現時点での個別の課題は次のとおりである。

(1) 主題
   金銀山遺跡に関する調査研究を推進し、世界遺産一覧表へ登録推薦している「石見銀山遺跡とその文化的景観」との比較研究が必要。
(2) 資産構成
   採掘に携わった人々の生活実態にも注目しつつ、採掘活動の基盤としての起源を持ち、現在にもその機能が継承されている集落・農地等の土地利用の実態を表す構成資産の選択についても検討が必要。
(3) 登録基準の妥当性
   提案書に示された登録基準ii)について、佐渡金銀山遺跡が文物交流において世界に与えた影響の観点からの再考が必要。

近世高岡の文化遺産群

近世の城郭・藩主の菩提寺・墓所などから成る一連の資産として、価値は高い。
 日本の世界文化遺産及び世界遺産暫定一覧表に記載された文化資産には、未だ見られない分野の文化資産である。
 なお、現時点での個別の課題は次のとおりである。

(1) 主題
   顕著な普遍的価値について、検討が必要。
 他の提案の中に、主題の類似するものがある。特に「城下町金沢文化遺産群と文化的景観」は同じ加賀藩に関連する資産である。
 近世大名文化を背景に形成された城郭及び城下町の観点からの位置付けについて検討が必要。
(2) 資産構成
   城下町としての骨格・街道(参詣道を含む)、町並み等の諸要素の取り込みを視野に入れ、検討が必要。
(3) 完全性
   高岡城跡の城跡としての真実性/完全性に関する検討が必要。特に廃城後に建設された各種施設について、講ずべき措置の明示が必要。
(4) 緩衝地帯
   範囲の設定根拠の明示が必要。

城下町金沢の文化遺産群と文化的景観

 近世城下町の構成資産として、金沢城跡、兼六園、これらと一体の辰巳用水、都市の骨格を成す惣構堀などが良好に遺存するほか、寺院群の景観及び伝統的な町並みも良好に保存されている。また、城下には能楽や茶の湯など近世以来の伝統文化をはじめ、金工・漆芸・象嵌などの工芸技術が現在に継承され、市民生活に浸透しており、城下町及び伝統文化・精神性が融合した貴重な文化遺産群及び文化的景観であることから、価値は高い。
 日本の世界文化遺産及び世界遺産暫定一覧表に記載された文化資産には、未だ見られない分野の文化資産である。
 なお、現時点での個別の課題は次のとおりである。

(1) 主題
   他の提案の中に、主題の類似するものがある。特に「近世高岡の文化遺産群」は同じ加賀藩に関連する資産である。
 近世の大名文化を背景に形成された城郭及び城下町の観点から、金沢が持つ特質及び優位性に関する検討が必要。
(2) 資産構成
   都市遺産の観点から広く町並みを資産構成に含めることについて検討が必要。都市の骨格及び城下町を支えた都市周辺の多様な諸要素を広く資産構成に組み入れるため、文化的景観の観点からの資産の評価について検討が必要。
(3) 完全性
   城下町の中心を成し、史跡への指定が行われていない金沢城跡の保護。
(4) 登録基準の妥当性
   提案書に示された登録基準iii)については、城下町に継承された様々な伝統技術と構成資産との関係から十分な説明が必要。

霊峰白山と山麓の文化的景観

 神仏習合・修験道を基調とする白山信仰が全国に普及し、独立峰と禅定道、山麓の宗教都市及び施設など、信仰と生業・生活が独特の景観を形成していることから、価値は高い。
 なお、現時点での個別の課題は次のとおりである。

(1) 主題
   顕著な普遍的価値について、検討が必要。
 既登録の「紀伊山地の霊場と参詣道」と主題が類似する。また、信仰関連遺産としては、他の提案の中に主題の類似するものがある。
 信仰の対象として崇められてきた各地の山岳の中で、白山と白山信仰が持つ位置付けについて明らかにすることが必要。
(2) 資産構成
   長い歴史の中で信仰に関する諸活動の基盤となり、現在にもその機能が継続している集落・農地等の生活・生業に関する諸要素の取り込みについて検討が必要。
(3) 緩衝地帯
   範囲に関する再検討。

若狭の社寺建造物群と文化的景観-仏教伝播と神仏習合の聖地

古代的特色を残し、仏教伝播と神仏習合の経緯を示す一連の建造物群を中心として、信仰の対象である山などが一体の景観を形成し、価値は高い。
 なお、現時点での個別の課題は次のとおりである。

(1) 主題
   顕著な普遍的価値について、検討が必要。
 信仰関連遺産としては、他の提案の中に主題の類似するものがある。
 仏教及び神仏習合の観点から、本資産の位置付けに関する検討が必要。
(2) 資産構成
   資産を構成する諸要素の総数・概要が明確でないため、追加情報を要する。
 寺院群とその周辺地域から成る文化的景観の完全性を担保するために、両者を緊密に関連づける資産の捉え方・範囲について整理が必要。
(3) 完全性
   例えば史跡若狭国分寺跡の保護範囲など、構成資産の範囲に関する検討が必要。
(4) 緩衝地帯
   範囲に関する再検討。多田ヶ岳については、文化財としての保護が必要。

善光寺~古代から続く浄土信仰の霊地~

 平等性と寛容性を根幹とする善光寺信仰は広く民衆に浸透し、善光寺を中心とする宗教空間が庶民に開かれていった。その中に仲見世などの町並みが形成され、現在まで受け継がれていく過程を良好な景観として伝え、価値は高い。
 なお、現時点での個別の課題は次のとおりである。

(1) 主題
   顕著な普遍的価値について、検討が必要。
 信仰関連遺産としては、他の提案の中に主題の類似するものがある。
 日本の仲見世や門前町という観点から、本資産の位置付けについて検討が必要。
 また、高野山など山上伽藍との比較を通じ、中世以降の庶民信仰などの観点から、本資産の位置付けについて明確化が必要。
(2) 資産構成
   寺院の旧境内及び参道・周辺界隈など資産の範囲(伽藍と門前町の立地・場の意義に鑑みた資産の範囲、街道筋、背後の丘陵地帯等)に関する検討が必要。

松本城

 高い技術により築造され、天守閣をはじめとする城郭の主要建築が残存する我が国唯一の平城の事例として、価値は高い。
 なお、現時点での個別の課題は次のとおりである。

(1) 主題
   主題及び顕著な普遍的価値について、検討が必要。その際には、近世の大名文化を背景に形成された城郭又は城下町の観点から本資産の位置付けを明確化するとともに、城郭のみの資産構成が適切であるのか、あるいは城郭については既登録の「姫路城」、暫定一覧表に既記載の「彦根城」との統合が可能であるのか等について、検討が必要。
 ただし、城下町の観点から捉えた場合には、他の提案の中に主題の類似するものがある。
(2) 資産構成
   城郭の堀及び土塁等の骨格を表す諸要素の保存状況、城郭と一体を成す城下町の諸要素に対する評価の視点が必要。

妻籠宿と中山道

歴史的な街道とその沿道の宿場町が、在郷や周辺の自然環境とともに独特の景観を形成し、全体を広く回廊状に延びる「文化の道」として評価することが可能であることから、価値は高い。
 日本の世界文化遺産及び世界遺産暫定一覧表に記載された文化資産には、未だ見られない分野の文化資産である。

(1) 主題
   顕著な普遍的価値について、検討が必要。
 流通・往来の観点から、本資産の位置付けについて検討が必要。
(2) 資産構成
   想定されている区域外の中山道とその沿道に所在する旅籠集落や伝馬制度に関連する遺構などを視野に入れた検討が必要。
 輩出した歴史的人物や創作の背景となった文学作品なども視野に入れ、木曽地方全体が持つ歴史的・文化的な文脈に基づく再検討が必要。

飛騨高山の町並みと屋台

 飛騨の匠の木工技術に支えられる伝統的な町並みと祭礼の屋台が独特の調和を見せることから、価値は高い。
 なお、現時点での個別の課題は次のとおりである。

(1) 主題
   主題及び顕著な普遍的価値について、検討が必要。
 屋台は動産であるため、世界遺産の構成資産に含めることはできない。
 歴史的な町並み、祭礼の場などの観点から、本資産の位置付けについて検討が必要。
(2) 資産構成
   屋台が巡航する範囲の全体を捉え、「祭礼の場」としての面的な資産の価値評価について、検討が必要。

三徳山

山岳修験の場として急峻な地形と独特の意匠・構造を持つ建築が調和し、神仏習合が進んだことを示す事例として、価値は高い。
 なお、現時点での個別の課題は次のとおりである。

(1) 主題及び資産構成
   主題及び顕著な普遍的価値について、検討が必要。
 山岳修験の観点から、本資産の位置付けについて検討が必要。
 三徳山のみの資産構成が適切であるか否かについても、検討が必要。
 既登録の「紀伊山地の霊場と参詣道」と主題が類似する。また、信仰関連遺産としては、他の提案の中に主題の類似するものがある。

萩城・城下町及び明治維新関連遺跡群

 城郭を中心として開府以来400年の時を経た今もなお城下町としての町割が良好に遺存し、往事の建築物が面として残る貴重な近世の都市遺産である。特に萩城は旧規模をよくとどめ、城下町は近世の都市計画を代表する顕著な見本であるほか、個々の構成要素である武家屋敷・町屋・寺院も近世後期の建築を代表するものである。また、湿地を埋め立てて道路や宅地を造成し形成された城下町には、治水対策として開削した水路を物資輸送路や農業用水路としても使用するなど、独特の土地利用の景観が見られる。明治維新に関連して日本の近代化を示す遺跡群も集中して遺存し、価値は高い。
 日本の世界文化遺産及び世界遺産暫定一覧表に記載された文化資産には、未だ見られない分野の文化資産である。
 なお、現時点での個別の課題は次のとおりである。

(1) 主題
   他の提案の中に、主題の類似するものがある。
 近世の大名文化を背景に形成された城郭及び城下町の観点から、萩が持つ特質及び優位性に関する検討が必要。
 明治維新の世界史的な意義付け、城下町萩に残る明治維新関連資産の意義・位置付け等が可能か否かについて検討が必要。明治維新関連遺産としては、他に主題の類似する資産が国内に存在し得る。
(2) 資産構成
   都市の骨格を成す地形及び集住地等を広く資産構成に組み入れ、都市の全体を文化的景観として評価することについて検討が必要。

錦帯橋と岩国の町割

 世界的にも希少性の高い5連アーチ形の木橋で、高度に発展した独特の架橋技術を示すとともに、地形と融合して形成された両岸の土地利用の在り方を含め、景観上も優秀である。創建以来、現代においても極めて高く評価される水準の力学構造を持つ科学技術の結晶であり、架橋の維持・補修を含む技術の総体を330年にわたり伝承している有形・無形の文化遺産として、価値は高い。
 平成8年に国際記念物遺跡会議(イコモス・ICOMOS)及び国際産業遺産保存委員会(TICCIH)が示した調査結果によると、世界遺産としての潜在的価値を持つ120余の橋梁の中に含められており、その高い価値については世界に周知されている。
 なお、現時点での個別の課題は次のとおりである。

(1) 主題
   木造橋及び河川を中心として、両岸の町並み等を含む文化的景観の評価について検討が必要。
(2) 真実性
   特に橋梁については景観の要素として優秀な価値を認めるが、材料の真実性が低い点に鑑み、技術の確実な継承及び技術者の育成の観点をも含め、真実性の総体に関する十分な検討と証明が必要である。この点については、国内外の専門家との合意形成を確実に進める努力が求められる。
(3) 登録基準の妥当性
   登録基準に関する説明のうち、v)については、土地利用の観点からの説明を補足すること。

四国八十八箇所霊場と遍路道

 弘法大師空海ゆかりの札所寺院八十八ヶ所を周回する全長約1,400キロメートルにも及ぶ壮大な巡礼道であり、地域社会と一体となった遍路文化が数百年にわたって伝承されている希有な資産である。回遊巡礼路の総長が極めて長く、宗教・宗派を超えて一般民衆による弘法大師信仰に基づく霊場巡礼の機能を四国の地域社会が支え続け、生きた文化資産として現在に確実に継承されていることから、価値は高い。
 なお、現時点での個別の課題は次のとおりである。

(1) 主題
   国内外の観点から、回遊巡礼の資産としての位置付けを明確化することが必要。
(2) 資産構成
   保護の対象とする構成資産が明確でない。巡礼という行為を通じて、現在に機能が継続している点についても十分考慮しつつ、連続性・関連性を持つ一連の諸要素を特定するために、熟度の高い調査研究の計画的な推進が必要。
(3) 保護手法
   ほとんどの構成資産が史跡等に指定されていないため、今後の指定の見通しについて見極めが必要。
 回遊巡礼の形態・機能に重要な価値評価の視点があることから、霊場及び遍路道を中心に線状・回廊状の区域の全体を視野に入れた保護手法について検討が必要。
 流通・往来の観点から、巡礼路である道路のみならず、霊場の周辺と巡礼路の沿線に所在する集住地・農地等を広く資産構成に組み入れるなど、文化的景観の観点からの保護手法について検討が必要。
(4) 登録基準の妥当性
   提案書に示された4つの登録基準の説明については、全般的に再検討が必要。特に、登録基準ii)に関する説明については、世界的な文物交流の観点からの証明が不可欠。
(5) 連携・協力
   複数県に及ぶことから、構成資産の取捨選択及びそれらの保護手法に関する合意形成の在り方を十分見極めることが必要。

九州・山口の近代化産業遺産群

 日本の工業化・近代化は、西洋技術の導入以降、極めて短い期間のうちに他の非西欧諸国には類例を見ないほどの飛躍的な発展を遂げたが、本資産はその過程において主導的な役割を担い、製鉄・造船・石炭・紡績等日本の経済発展を支えた産業遺産群である。重工業に関する一群の近代遺跡・近代化遺産から成り、欧米以外の地で最初に発展を遂げた近代産業技術の痕跡を示すものとして、価値は高い。
 日本の世界文化遺産及び世界遺産暫定一覧表に記載された文化資産には、未だ見られない分野の文化資産である。
 なお、現時点での個別の課題は次のとおりである。

(1) 主題
   日本の伝統産業との関連性の下に進行した我が国の近代化・工業化の特質について正確に把握することが必要。
 その中でも特に欧米から移入された重工業に関する技術が果たした役割を明確化することが必要。
 重工業に関する近代の産業遺産は全国各地に展開していることから、九州・山口に特化して主題を定める根拠について明確化が必要。
(2) 資産構成
   対象とする構成資産の範囲を拡大することにより、資産全体の主題が拡散することのないよう留意しつつ、産業構造及び産業活動が持つ相互の関連性及び連続性を視野に入れ、資産構成とすべき諸要素を特定すること。
 「萩城・城下町及び明治維新関連遺跡群」の構成資産との区分について、整理することが必要。
(3) 連携・協力
   複数県に及ぶことから、主題や構成資産の取捨選択に関する合意形成の在り方を十分見極めることが必要。特に、所有者等との合意形成は重要。
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