資料4 第4回企画調査会

文化審議会文化財分科会企画調査会(第3回)議事概要(案)

1 日時
平成19年1月24日(水)15:00〜17:00
2 場所
霞ヶ関東京會舘 35階 シルバースタールーム
3 出席者
(委員)
石森会長 永井会長代理 西田委員 西山委員 林田委員 松場委員 村上委員 石澤分科会長 神崎委員 田中委員 西村委員
(事務局)
土屋文化財部長 亀井文化財鑑査官 小松伝統文化課長 山﨑美術学芸課長 岩本記念物課長 苅谷参事官 長屋文化財保護企画室長 その他関係官
4 議事等
  1. [1]資料2に基づき「第1回,第2回の企画調査会における主な意見について」説明が行われた。
  2. [2]資料3に基づき「世界文化遺産特別委員会における調査・審議の結果について」説明が行われた。
  •  各地から大変熱心に提案が挙がってきた。全体として文化財保護に関心が高まってきたのだから,暫定リストに載らないところも世界遺産と違う形ででも救ってあげられるようなことが提起できれば文化財保護にとってプラスではないか。
     企画調査会で前向きに何か新しいコンセプトをつくり上げて,フォローできるような仕組みができればと思う。
  •  実際に世界遺産に登録推薦するためには,登録のための審査をクリアできるだけの保護体制が整った段階で,どれから出していくかということになると思う。これからの予定を伺いたい。
     また,地方公共団体からの推薦は次回以降どうなっていくのか。
(事務局)
 今回は,暫定一覧表記載後に世界遺産の推薦・登録を目指す過程で準備をしていけば足りるものを4件選んだ。残りのものについては,2月以降も精力的に審議を尽くし,その中で見極めていく。
 来年についても新規の提案を受け付けるということを地方公共団体には伝えてある。
  1. [3] 資料4,5に基づき「重複・隣接して存在する指定等文化財について」,「世界文化遺産の例について」説明が行われた。
  •  問題となる視点が2つある。1つは隣接しているにもかかわらず,それぞれが個別に管理されているため,担当課の違いによって連携がうまくいかないということが起こらないようにしなければならない。直接手が出せる分野でないということで,十分な保護が行われないということがないよう,文化庁内で網羅的なチェックを緊急に行わなければならない。
     もう1つは,総合的に協力して世界遺産に似た国内の制度を別につくるなど,世の中の関心が高まり,文化財保護法だけではなくほかの法令や市長部局の協力も得られるような仕掛けを作っていくということも考えられるのではないか。
  1. [4] 文化財の総合的な保護を行うための方策の検討について

(意見発表:「今後の文化財保護の枠組みの在り方について」)
○西村幸夫委員より意見発表

Ⅰ.指定文化財の周辺環境の保護施策について

選択肢1 文化財保護法における環境保全制度は,木造文化財の延焼防止等を中心に想定した制度となっているため,これを拡充して景観的な問題なども含めて解釈できないか。
選択肢2 新たな発想で面的文化財の地区を設ける。地域に様々な文化が残されているものをひとつにまとめる。(ハーグ条約中の文化財集中地区)
選択肢3 世界遺産のバッファゾーンの制度を設ける。条例の標準的なものの制定。国法による保護。(韓国の文化財保護法の例)
選択肢4 文化財の概念を拡張する。周辺環境まで含めて文化財だという考え方。(ドイツの文化財保護行政の例)
選択肢5 文化財の保存管理計画を周辺にまで拡張する。
選択肢6 都市計画の制度として文化財周辺保護のための地区制を導入する。文化財の周辺を特別用途地区として高さや用途を規制する。
選択肢7 景観法による景観計画の中に重要な指定文化財の周辺や背景を守るということを位置づける。

Ⅱ.新しい文化財概念の拡張

提案1 新たなテーマと自薦システムを土台にした面的な日本文化遺産登録制度の創設。(世界遺産暫定リスト改訂の議論を参考にして)
提案2 街道など線的な資産:日本風景街道を参考にする。
提案3 文化の道に関するテーマによるシリアル・ノミネーション。
提案4 工業製品のプロダクツまで含めて建物と工作機械全体を見る。
日本の生活文化に非常に大きな影響を与えた家電製品などは,それ総体としては非常に重要な文化的な資産。
提案5 負の遺産である戦争に関する遺産をきちんと直視し,議論する。
提案6 祭りや伝統儀礼を総体として文化財とする。有形と無形の民俗文化財の融合
提案7 伝統的建造物群保存地区の登録制度。建て替え等による先細りを防ぐ。

Ⅲ.その他の提案

提案1 都市計画マスタープランの対となる歴史文化マスタープランの制定。
提案2 規制改革特区の積極的活用。金沢市おける道路標識の小型化等。
提案3 面的な文化財,文化財集中地区やバッファゾーンの無電柱化の優先的推進。
提案4 指定文化財や歴史的な都市や街道への案内標識を茶色で表示する。
提案5 歴史文化都市の指定。中国の歴史文化名城指定を参考にする。文化財ではなく都市として指定,文化遺産保全のためのマスタープラン策定に義務づけ。

(西村委員の意見発表について)

  •  「指定文化財の周辺環境」に関して,選択肢1から5は文化財保護行政そのものの対応策・改善策であり,選択肢6,7はほかの行政範囲との連携を前提としたもの。また,「その他の提案」の中の提案1や提案5も,主には都市計画や景観法との兼ね合いでやるということを提案されている。この調査会として,ほかの部局との連携の在り方をどういう形で最終的にまとめるのかのイメージが湧かず,非常にもどかしく思う。是非とも避けずに議論していただきたい。
     ほかの部局との連携に際し,文化財のことに関しては,やはり文化財部局がリードして提案していき,例えば景観法を応用するにしても,都市計画法を応用するにしても,文化財保護の部局である文化庁の発議が大きな指針として世の中に対して示されるという案を,是非ともこの調査会の成果として出したい。
     「新しい文化財概念の拡張」について,提案1,4,5は,これまでの文化財概念のメニューでは対応しきれない。文化財保護法の枠組み自体を大きく転換しないと提案できないような内容になっている。それゆえに,提案1,4,5は今回のこの調査会の重要なテーマではないか。
     特に提案1に関して,世界遺産をまねて日本でそれに対応するものをつくるのはなかなか難しい。暫定リストに載せるための条件を相対条件として示すのではなく,むしろ絶対条件として示して暫定リストに入れていく。少し矛盾するが文化財保護の体系は余りいじらないで,むしろ暫定リストを上手に使いこなせないだろうか。
     ただ一方で矛盾するのは,提案4と5は近代というものの見方,戦争や負の遺産の見方という新しい切り口なので,どう考えても新しい文化財概念ではない。その辺をもう少し伺いたい。
     ただ,こういうものがないと,多分御指摘のとおりのものが一気に失われていく。地方で無数にあるものを絶対評価で拾い上げて地域の遺産として守っていく。
     それは国が直接手を下す必要はなく,基本的な考え方の中に文化遺産を地域でどう生かすかということについて基本精神をうたい,自治体がそれを掲げてやっていけるようなものにつながるのではないか。
  •  今の文化財保護法は,日本が貧しくて,本当に守るべきものが数少なく,お金も出せなくて,やらないといけないという仕組みの中ででき上がってきたので,全部をこの中でカバーするというのは難しい。
     96年に登録制度ができたのは非常に大きな変化。今回の世界遺産では自薦の仕組みで上がってきた。パンドラの箱を開けてしまったのかもしれないが,次の段階に議論を引き上げたということがあるのではないか。
     つまり,今まではボトムアップで登録制度だといっても,メニューは文化庁が用意していた。今回はメニューそのものも自分たちで考えられるということで,その意味で新しい時代に出てきた。今までの文化財保護の仕組みと違うことをうまく作っていかないといけない。
  •  この世界遺産の暫定リスト提出にかける,活性化された雰囲気,あるいはエネルギーというものを文化財保護にも活用しない手はない。
     と同時に,この暫定リストを見ていて気づかされるのが,4件が県境を超えているということ。県境を超えて文化遺産,歴史遺産を守っていこうという発想は今までの文化財行政にはなかった。県境を超えてでも必要なもの,大事なものはきちんと保存するという方向でうまく機能できるのではないか。
     世界遺産でも,国境を超えて指定しようという動きがあるとも聞いている。この辺のところが一つの突破口になり得るのではないか。
  •  文化財の学問的な周辺については,我が国は後発だという認識を持っている。文化財の普遍概念の構築とか,ほかの学問に対して理論武装が必要ではないか。もっとレベルを高めて何か大きなグランドデザインのようなものが欲しいと感じている。このメニューを見ると多分に技術的な問題,アイデアの問題であると思うが,概念構築,理論武装はどうされるのかお聞きしたい。
     それからもう一つは,例えばこれを真横から切ってしまうと,地域振興とどうつながるか,あるいはエコツーリズムとどうつながるか,学術研究とどうつながるか,自然環境とどうつながるかとか,個々の事例は事例としても,その地域にあるものを関係づけていただくと,イメージアップできるし非常に面白い,これから文化財をみんなやりたいという気持ちが起こってくるのではないか。
  •  「新しい文化財概念の拡張」の提案4について,産業的な遺産として古いコンピューターなどは産業廃棄物のはずであり,提案5と同じで負の遺産のはずであるが,ストーリー性を展開させ,これが日本的な流れであると言った途端に,それがプラスの評価を受ける。文化財の専門の方々も単に守るだけではなく,ストーリーを展開するクリエーターとしてどうやっていくかということが,いろいろなほかの分野で求められ始めたのだと思っている。昭和20年代のような保護だけの感覚では,我々自身も存在し得ない。そこにクリエーターの部分を入れて,現代にキャッチアップしていかないと,文化財を理解してもらえないという話になってくるのだろうと考えている。
  •  工業製品とかプロダクツ,近代化遺産というところにも視点を置かれていることが非常に興味深い。繊維産業に関して言えば,一時は世界中にその名をはせた日本の繊維業界の力は,今や海外のものに押されて衰退の一途をたどっている。いいものを評価し,民間企業としても,そういうものを採用していくことによって活性化ができればと思っているが,そこに大きな社会背景というものがあり,そういうものにも配慮して論じなければ,理想だけに終わるのではないか。民間の意識がどこまで高まっていくかというところまで,現場の声を聞いていくというのが重要なことだと思う。
     世界遺産について疑問に思っていることは,暮らしのある地域と,そうでない地域の世界遺産の制定については,大きな内容の差があるということ。暮らしのある地域で住民が一番不安に思うのは治安である。本当の保護ということがどういうことなのか。むしろ保護されることと逆のことが地域で起こっている。現場からのそういう声をここに届けるのも役目であると思っている。
  •  意見発表の中身を実際にやっていくためには,予算,権限や法改正が必要となるが,そういうものがどうしても足りないのが実態で,それらを満たしていくためには,社会の認識を作らなければならない。
  •  韓国の文化財,あるいは文化行政について,彼らは文化財あるいは伝統文化の保護・再生,それからもう一つ創造という言葉をよく使う。文化あるいは伝統文化,文化財についての基本的な概念が違うように思う。我々は型を継承しなければいけない。もちろん,それは大事なことだが,時々の変化・変革・変容があるのではないか。という前提に立ってみると,変わることを恐れてはいけない。
    韓国は文化に対する考え方の柔軟性が高いように思う。もし許されるならば韓国の文化行政,文化財の活用・応用・創造ということを,この調査会で一度どなたかお呼びして勉強してみてはどうか。
  •  「新しい文化財概念の拡張」ということでストーリーを大事にしようということを言っている。暮らし,文化,生活,産業,風景の多様性というものを総体として評価していくようなことが,文化行政の重要なところになってもいいのではないか。ある種文化の遺伝子のようなもので,きちんと保護し次の世代にストーリーとともに受け渡していくことが非常に重要な新しいミッションであって,そのために今,消えそうなものをうまくサポートしたり,今までとは違うストーリーの組み方でできるのではないか。また,そういう議論が必要なのかもしれない。
  •  文化財の総合的な保護を行うための方策ということで,文化財概念の拡張,一方で普遍的な文化財の概念の構築といった理論的武装の必要性について御意見を頂いている。また地域振興と文化財の保護活用をどう絡めるかという問題についても御意見を頂いている。
     一方では世界遺産が様々なポジティブインパクトだけではなく,ネガティブインパクトも数多く受けているというところで,文化財の保護と地域振興・観光振興とのバランスをどのようにとっていくかいうことも課題になっている。
     それともう一つは,他分野,他省庁との連携といった問題も,今後文化財の総合的な保護を考える上において重要な議論でもある。
  1. [5] 資料7,8に基づき「国民の文化財保護への理解と参加を促進するための方策ついて」説明が行われた。
  2. [6] 資料9に基づき「今後のスケジュール」について説明が行われた。
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