資料2 第6回企画調査会

文化審議会文化財分科会企画調査会(第5回)議事概要(案)

1 日時
平成19年4月11日(水) 14:00〜17:00
2 場所
東京国際フォーラム(G棟会議室 G602)
3 出席者
(委員)
石森会長 永井会長代理 西田委員 西山委員 佐藤委員 根木委員 平川委員 松場委員 林田委員 神崎委員 斎藤委員 田中委員 西村委員
(事務局)
高塩文化庁次長 土屋文化財部長 亀井文化財鑑査官 有松伝統文化課長 山﨑美術学芸課長 岩本記念物課長 苅谷参事官 長屋文化財保護企画室長 その他関係官
4 議事等
[1] 資料3に基づき,「文化審議会文化財分科会企画調査会(第1回〜第4回)における主な意見」について説明が
  行われた。
[2]文化財の総合的な保護を行うための方策に検討について議論を行った。

(事例発表:西山徳明委員より「文化財保護の地方分権とは」について)

今日は,地方における「文化財未満文化遺産」の急激な喪失,文化財保護における地方分権の必要性について,都市計画や景観に関する法律や制度との連携の必要性,以上3点について話を進めていきたい。

<「文化財未満文化遺産」について>

 文化財とは,本来は非常に広い意味であり,指定文化財等だけを指すものではないと思うが,ただ古いもの・本物であるものということに加え,芸術性,学術性等のフィルターを通して文化財として認知されるものである。この場では,そのような文化財になり切れないものを文化遺産として定義して使うこととする。
 萩市と太宰府市を中心に話していきたいが,98年,萩市の旧城下町である川内地区にある伝統的な環境資源(伝統的建造物群保存地区であれば保存物件になるレベルのもの)について,2〜3箇月かけて調査を行ったところ,伝建地区になっている地区以外の場所にも,たくさんの文化的要素が残っていることがわかった。ところが,2004年に再調査したところ,伝統的な建築物については,1,600あったものが1,400幾らになり,樹木・塀・垣等については,4,000弱あったものが3,400幾らになり,それぞれ10.6%,10%も減少していることがわかった。伝建地区の中ではほとんど減少がないので,伝建地区外で15%ぐらいが減少していることになる。この時期に大きな都市計画道路や再開発はなため,そのほとんどが自然崩壊あるいは持ち主の取崩しが原因のものである。同様の現象が東京芸大を中心とした東京の谷中の調査においても報告されており,全国的な状況であるということが指摘できる。このような事実というものを最初に報告しておきたい。
 文化財未満の文化遺産をどうするかについて,萩市や太宰府市と共同で研究を進め,地域から発するボトムアップ型の文化遺産のマネジメントの在り方を,全く新しい枠組みとして考えた。まず,文化財未満の文化遺産を考える際に,埋蔵文化財の概念を参考にした。埋蔵文化財については,地下に埋もれていて価値が顕在化していないため,その包蔵地に関して開発者負担で必ず発掘調査が義務づけられているが,地上にあるものでも,人の生活に埋もれているようなものもあるはずである。それらを埋蔵文化財と同様の発想で,包蔵地を指定するかわりに,データベースを作っていくこととし,地域に散在している身近な文化遺産を市民が気楽に楽しく拾い上げられるように,真正性が説明できるもの,一定時間継承されてきたものという2つの基準で絶対評価し,該当するものは全部データベースに載せるという文化遺産の登録を始めた。
それらを定義するのに,文化財保護法の6カテゴリーでは,地域から身近なものを拾い上げていく枠組みとしては使いにくいという意見も出たため,「空間遺産」「生活遺産」など別の言葉を考えることにした。まず文化遺産を空間遺産と生活遺産に分ける。空間遺産というのは不動産的な性格を持つもので,更にそれを空間要素と景観要素に分ける。空間要素というのは,実際は都市や地域の歴史を物語る地図上で確認できる要素,例えば歴史的な街路,道筋とか地割り,流路,航路などで,伝建であれば環境物件で把握できることもある。景観要素というのは,空間要素という地図上でしかわからないようなものを可視的に証拠づけるもので,具体的に言うと塀,生け垣,老木や建物の並びなどである。次に,生活遺産というのは,動産的な性格を持つもの,あるいは無形的なものであり,祭事,慣習,産業,産物や,言葉(方言)等の民俗的な遺産,美術・工芸品,文書,絵図など芸術的な遺産,蛍やタヌキなど自然環境や市民とのかかわりを持つ生物に着目した遺産,資料・文献など記録に着目した遺産などである。そのうち,特に目に見えないものを無形要素,目に見えるものを有形要素というふうに呼ぶ。無形要素は,例えばお祭りやリアカー部隊,有形は,焼き物や生き物,それから古文書,絵図などである。
 これらについてのデータベースをまず作り,空間,景観,有形,無形などの要素の属性をつける。そして,それをカルテで管理していく。それらが集まって,ある一つの遺産を形成するのだが,これがまさにここで議論になっている,総合的な文化財の把握の一つのテーマやストーリーになると思う。萩の場合は,市民が未来に継承したいと考える物語及びそれを証拠づける文化遺産群を「都市遺産」という名前でリストを作っており,地元の産官民が協力した組織をつくりNPO等を立ち上げて取り組んでいる。1番目は萩城下町で,2番目,3番目は明治維新,萩焼かもしれない。ある要素は複数のテーマに引き出されるかもしれないし,中には,どのストーリーにも仲間に入れてもらえない,単独の文化遺産もあってもいい。
農村街道集落で毎年ワークショップを開いて,文化遺産を「おたから」と呼び,おたから探しをしている。明治20年ごろの文献図を用意し,地元の方と事前に下調べをして,どの辺が昔どういう使われ方をしていたかを予習した上で,現地に出て探す。拾い上げたものは,データシートに記録して,将来的にはデータベースに上げていく。その場の成果としては,一つのストーリーを自分たちで考え,例えば萩往還明木宿という古い宿を理解するためのストーリーをトレイルで結び要素を示す。こういうものを成果物として1つずつ都市遺産を拾い上げていくという運動を,地道に数年にわたって繰り返している。
 そうやって拾い上げたデータベースやカルテをどのように使うのかを,太宰府市の文化財部局が作った保存活用計画を例に説明する。当該計画では,地域の歴史,文化,自然など市民が自慢して語りたいストーリーとその証拠群を「市民遺産」と呼び,例えば道真と太宰府,霊峰・宝満山などのようなものがある。この1つ1つを,だれもがわかるように400字程度のストーリーで説明した後で,その要素を明らかにして地図に落とすと同時に,それをめぐるルートなども設定していく。それにより,いろいろな部局がこれを根拠として,観光にかかわる整備,都市生活環境整備等の基本的な資料にできるような仕組みにしてある。またこれらの情報をデータベースとして,研究者,学校,市民,語り部,インタープリターなどの人たちと共有していくことによって,観光やガイドにも資するような形にする。
まず一点目として,文化財保護の視点からみると,これまで発見されなかった未知の文化財が発掘でき,価値があれば,従来どおり単体としても登録文化財として登録し保護対象とし得る。また,この調査会でも取り上げられている関連する個々の文化財の総体がまさに見つかる。そうすると,ただ道端にあるだけでは意味のない石塊であっても,それが一つのストーリーに乗ったときに意味あるものとなり,そのような価値づけが可能になる。
 2点目として,観光振興の視点からみると,観光資源としてのうわべだけの評価に正当な価値づけができ,本来の意味でのインタープリテーション,文化的な解説の資源として使うことができる。萩ではNPOを立ち上げ,ガイドの教育や認定試験など,様々な形で資源をうまく活用している。
 3点目として,景観の保全・形成の視点から見ると,重要な景観資源が発掘・評価されることになる。景観法の成立に伴い,景観形成に対する意識が高まっているが,現在,景観形成の指針について根拠となるものが得にくい状況にある。それに対して,データベースやカルテ,ストーリーなどが価値や根拠の提示につながるため,重要な景観資源のデータベースの役割を果たす。

<文化財保護における地方分権について>

2000年の都市計画法改正では,都市計画の市町村マスタープランや都市計画の提案制度など自治体,地域住民や市民から上がってくるものを吸い上げ都市計画としてオーソライズしていく仕組みがつくられたことが注目される。従来の整備,開発,保全などの最小限のものだけではなく,夢も書けるような懐の広いマスタープランを作れるようになった。景観法の景観計画の策定の在り方も,ボトムアップ型のものになっている。
 伝建制度は,調査,評価,地域社会のコンセンサス形成,条例の策定,保存計画の作成を行い,指定後においても修理・修景などを他省庁と連携してやるというやり方をとっており,地方分権,ボトムアップ型の方策を30年前から先進的にやってきている。
 今後の文化財保護行政におけるボトムアップとは何かを考える際に是非議論してほしいのが,「文化遺産の喪失を食いとめる」こと。それから,「多種の文化財を一体の環境として総合的に把握,継承・活用する」こと。「地域が大切と考える無数の有形・無形の文化財を地域の視点で拾い上げる」こと。「地域の人々の手によってマネジメントしていく枠組みを認め,それを支持していく」こと。これらが「ボトムアップ型」要するにこれまで文化財保護行政として余り取り組んでこられなかった内容ではないかと整理させていただいた。

<都市計画や景観に関する法律や制度との連携の必要性について>

 筑後吉井,八女福島という伝建地区では,行政が伝建の保存計画を最上位の計画と位置付けて,他省庁の街なみ環境整備事業等を,そのマスタープランの中で運用している。伝建地区の景観づくりのガイドラインを,町なみを壊さない程度の建て方から将来遺産になりそうな建て方までを何段階かに分けて示す。これにより,実際に八女福島や吉井では,たくさんの数の建物が年々伝統的な景観を取り戻してきている。例えば吉井は,文化庁の伝建補助で毎年約4件保存物件の修理を行いつつ,一方で10億円程度で新しく建つ建物や既に建っている建物の修景を国交省の事業で行っているが,それをすべて伝建の保存計画のルールで行っており,文化財の思想を他省庁のお金を使って実現していると言える。
 次に,文化的景観と伝建の関係についてだが,文化的景観は,人が住む,人の暮らしと強く関係するという意味では伝建と同様側面があり,実際に今回の文化的景観の選定プロセス等も伝建に似ている部分がある。ただし,伝建制度が持つようなきめ細かな選定・運用手順を踏むことが,現在の文化的景観においては困難な状況が地方の現場で見られる。文化的景観が,いろいろな種類の景観を対象にしたり,範囲がすごく広かったり狭かったり,様々な不確定な要素が多いためである。今後ある程度この2つの制度が合体していくことはあり得ると思うが,伝建制度には選定プロセスや運用,保存計画の策定等についてすぐれたノウハウが蓄積されているため文化的景観と伝建制度が一緒になってしまうのを伝建に深くかかわってきた者としては少し心配しているところがある。今後は,伝建と文化的景観の境がなかなか難しくなってくるのかもしれないが,その外側にある「広義の文化的景観」が大切であると思う。あらゆる都市,地域,集落,町が,日本の場合はほとんどが歴史的な集落であり,町であり,農村であり,文化的な景観を持っていると言えるが,それに対する議論がなかなかない。この部分がしっかり整理されれば,景観法や農政事業についても,根拠を持ち,住んでいる人や自治体が自信を持って取り組めるはずであると思う。景観法は地域が描く地域景観の将来像の実現を支援する仕組みであり,何か方向性を示すものではないためが,先ほどの事例で説明した市民遺産や文化遺産というような考え方は,地域の景観形成の根拠となりえる。景観法,都市計画,農政を含めいろいろなメニューが,地域,地方自治体には用意され提示されているのに,それを自信を持って使いこなす根拠がなかなか見つけ出せずにいる。それに対し,文化財の方からマスタープランを地域が描けるような仕組みをつくっていけば,文化財保護行政としての予算が拡大していかなくても,日本中の各地で文化遺産が守られていくという現実が生まれてくるのではないのか。
 最後に,歴史文化マスタープランというものを提案したい。当該自治体による歴史文化まちづくりの宣言,文化遺産データベースの構築,市民遺産リスト/市民遺産カルテの作成,それから,文化的景観制度による歴史的環境保全のための地区設定の仕組みである。バッファ・ゾーンという言葉をよく使うが,コアの犠牲になるバッファというような地域はないはずであり,むしろバッファと呼ばず,そこにある景観的固有性なり特性というものを積極的に評価し,文化的景観制度を使って保護していけないか。文化的景観は,6つ目の文化財のカテゴリーではなく,あらゆる文化財の環境を守るためのカテゴリーとして本来あってもいいと思う。
また,文化遺産/市民遺産としてリスト化したものを保存だけではなくて保全・活用するための基本方針というものをマスタープランでうたうこととする。市民遺産ごとのマネジメント計画ごとに,包括的保存管理計画がつくられ,内容として,評価・登録,保存整備,これは遺産そのものの価値の保全に関する整備計画,それから遺産を享受するための環境整備,ソフトにかかわる計画を規定する。それらのトータルとして,自治体レベルでマスタープランがつくられる。マスタープランは,都市計画市町村マスタープランと同ように,特定の遺産に対してだけ策定するのではなく自治体の宣言としてつくっていくのが良い。そして,国はそのような自治体を,例えば歴史文化行政団体と認定し,特別な助成措置を講ずる。これは,できれば文化庁と国交省,農水省,環境省との連携事業として実施した方がよい。
 また,一つのテーマを持っている市民遺産の中で,特に顕著で普遍的な価値があれば,それが初めて世界遺産リストに挙がっていくという考えでいいのではないか。
 国が,歴史文化都市というもので都市を指定してもいいのかもしれないが,それらを特徴づける市民遺産のリストを管理し,観光立国など国レベルでの施策に生かしていくというふうな仕組みがよいと思う。
 萩や太宰府市では,行政計画としての構想,保存活用計画をつくり,既に萩市では条例を作っており,太宰府市でも今から条例をつくろうとしている。エコミュージアムをヒントとした地域まるごと博物館のような形で,既に条例や,博物館を建設して,動き出している。

  •  各地方自治体が理解し,活用方法についての情報があれば使うところが多数出てくる感じがする。面的な整備について文化庁だけの力では限界を感じるし,国レベルで各省庁と協力するにしてもなかなか話が進まないと思っていたが,地域レベルで動きが出てきて,法律上も都市計画の中で大事な位置づけをされる動きになれば大変力強いと思うので,こういう動きはとても有効だと思う。
     問題なのは,地方への応援手段があるか。実際に地方公共団体で作業をやるための専門的なスタッフや仕組みを文化庁で整備し,地方を助ける役割になると思う。地方をどう応援すれば地方分権が進んでいくかに対し,具体的にどんな対応をとり得るかがポイントになると思ったが,大変心強い動きが進んでいると感じた。
  •  伝建の考え方を利用できるのではないかとのことたが,制度の問題以外に全体としてはうまくいっているが,その中で差がありそれはなぜかということを考えたときに,やはり人の問題があって,1つは,最初に調査に入る大学の先生の態度というものがあった。
     伝建のリストを見ると,後に伝建地区になった地区,そうではない地区があるが,誰が担当したかで差が出ている。その地区の住民への接し方・説明の仕方があるのだろう。また,行政に熱心な人がいるかどうか。その人が町の中を歩くとみんなが挨拶するというような人がいると,非常にうまくいく。また,地区に保存会ができるが,保存会にリーダーシップをとれる人がいるかも重要だ。もう1つは,保存時に調査した大学の先生が相談役になることはあるが,ホームドクター的に地区にいて設計管理をする人がいるところはやはりうまくいく。
     結局は,制度を作っても人の問題となる。条例や規則だけでなく人の動きは非常に重要だ。だから,人材をどうやって育て,確保するかという問題も,制度と同じで非常に重要だと思う。
  •  萩まちじゅう博物館というオープンエアの博物館を立ち上げようとしたが,行政だけでできることではないので,NPOを立ち上げた。もともと博物館にあった友の会や,地域のボランティアガイドなどの芽が既にある程度出ていたので,陰では行政が頑張っているが,NPOがやっている。そのNPOも,今は常勤のスタッフが約4,50人程度になり,博物館のガイド,外への連れ出し,公開している文化財の管理などを行っている。そうしてかなりプラスの方向に動いている。歩いている人に質問して説明できるかというと,そこまではまだだが,将来的にはそうしたい。
     例えば萩おたからものしり検定というものをやっており,毎年100人近い人が受検している。そうして草の根で広がっている。民間のお土産物屋さん,飲食店,民宿など観光に関わっている人が検定を受け,勉強し直して,「おたからマスター」のような資格をもらって,それを店にかけ,お客さんに安心して来てもらうなど,それほど具体化していないが,これが現状である。

事務局より,企画調査会報告書骨子(案)について説明が行われた

(休憩)

  •  大きなマスタープランをつくって,その中で位置づけていくということは非常に重要だと思う。
     ただ,マスタープランをもう少し広いものとして考える必要がある。一般的に文化財保護マスタープランというと,指定された文化財のネットワークと受け取られがちであるが,文化とか歴史という視点からもう少しトータルに地域環境を見て,コアになるのは文化財かもしれないが,様々なものを文化財候補として入れて構想する必要がある。
     都市計画の中に都市計画のマスタープランがあるが,その指導的な文書の中で,例えば文化財保護マスタープランを遵守しないといけないようなこと書かせ,連携をとれるようなことをねらうべきである。
     バッファ・ゾーンについて,文化財保護法の枠の中でやり切れないなら,別のゾーニングをやらせるための論理としても文化財保護マスタープランが使える。そのためにも,もう少し広くとらえることが大事である。
     例えば,史跡の隣にマンションが建っても,今の仕組みだと全然関与できない。今ある指定文化財の周りで,それに影響を与えるところに関しては,きちんとマスタープランの中に書き込んで,それは恐らく歴史文化地区とは違う名前になるかもしれないが,そういうものに関して,積極的にこちらから打って出るということを,本気で書く必要がある。
     文化財データベースというところがあるが,もう少しイメージを明確化させる必要がある。例えば国の登録制だけじゃなく,都道府県とか市町村の登録制を広げていけば,言ってみれば文化財のデータベースになっていく。そういうふうなイメージなのか,それとも,例えば史跡の遺跡地図をつくったみたいに,ある具体的なマッピングの中で様々なものを書いていくことで,地域の資産の全貌になることなのか,それとも,オーストリアやドイツで行っているインベントリーみたいなものをやるのか。
  •  歴史文化地区は,どうしてもエリアとか空間的な範囲を地区にするというように読む限り見える。確かに歴史的な町並みの中に民俗的な文化財があったり,無形の文化財があったりするから,それを一体としてと言うが,それだと,空間から先に入るため無理がある。萩とか太宰府は空間にとらわれないから,市民遺産と呼んでいるが,ある市民遺産は,町並みとか城下町というふうに地図上のエリアで区切れる。
     しかし,例えば萩焼とかいった場合は,動産のようなもののネットワークであり,ここでいう市民遺産は空間にとらわれずに,グループとして取り出せるというふうにしている。
     そういうものに対してまで歴史文化地区的な発想を広げることはできないのか,それとも,これはあくまでも地区としてやった方がいいのか。
    何か世界遺産の話に引きずられているような気がする。どうしても世界文化遺産,自然遺産は地理的な範囲が対象となるが,本来日本の文化財保護行政が持っている有形・無形,あるいは自然物まで含めた,一体となったものを価値づける総合的な概念をつくれないのか。
  •  無形遺産条約では文化的空間があるが,それは,地区の線引きはできない。地区を決定するところとそうじゃないところを両方入れるような制度があって,両方が読み込めるうまいネーミングを考えた方がいい。
  •  制度上どのような位置づけを与えることを想定するのかというのが大事なことである。政府の政策全体も地方公共団体の政策も,全部含めたようなオブリゲーションを負う性格の位置づけにできたらしたいが,法律上,枠組み上で,どうやればそれができるのか。
     文化財保護法の枠の中でやるのなら,それに伴う規制なり支援の仕組みをどうするかということで考えることになる。地方公共団体が決めることを奨励していって,それを政府が尊重するという仕掛けを作る場合は,政府全体で何か義務づけるような仕掛けができるのか,文化財保護法の体系の中だけで応援することで終わってしまうのかがポイントと思う。
  •  景観法とか都市計画法は,ボトムアップ型を支援するための仕組みをつくっているが,同じような枠組みをうまく使えないか。
     余り新しいことをオリジナルにやろうとするのではなく,いいことをやっているのはうまく活用して,ただし,文化財だからできる視点をうまく埋め込んでいくというようなことをできないか。
  •  文化財保護マスタープラン(仮称)の策定,歴史文化地区(仮称)の選定は,基本的には地方公共団体がマスタープランを策定し,そういうものの提案に基づいて,文化的価値の高い区域を国が歴史文化地区として選定するといったような筋書だと思うので,そういう意味では,法律的な枠組みとしては,現行の文化財保護法をそれほど大きく変更することなく,地方自治体の動きをできるだけ動きやすくしていくということになると思う。
  •  マスタープランを最初から全部に義務化するのは難しいと思うので,地区指定,バッファ・ゾーン,登録制,データベースなどを書いたようなマスタープランをつくりたい人がまずつくる。そういうニーズがたくさんあれば,マスタープランがかなりできていく。それが,使い勝手がよければ,ほかのところも使うようになってくると思う。
     マスタープランの中にストーリーが位置づけられれば公共団体が提案できて,そして,その公共団体が提案したものに関して国が認定するという仕組みを行うと,これはボトムアップにもなる。また,これだけじゃなくて,無形やバッファ・ゾーンなどにも対応できるのではないか。
  •  区域内の周辺環境を保全したり整備することを含めた総合的な計画となれば,歴史文化地区のマスタープランというものがまず最初にあり,その中で有形・無形の文化財として文化的価値が高いというふうに認定されたものを根幹にして地区指定をしていく,あるいはその文化財を複合的に守っていくというふうになるのでないか。
     一番大事なのは,今,列島の中で,日本の歴史文化を育て上げてきた地区というものを,まず周辺環境も含めて最も際立ったものを選定,策定して,その中から,非常に大事に保存されてきたり,有形・無形で伝えられた多様なものを,文化財地区というか,文化財を複合的に選定して,あわせて守っていくという順番になると思う。
  •  歴史文化地区の中身,内容については,いろいろなものが入り込む余地が多分にあると思われる。バッファ・ゾーンを含めるのか,文化財の第7の類型として考えるのか,それとも,一定エリアにいろいろな文化財が集まっている状態そのものを指して,それに対して保護保全の措置を講じようという発想なのか。この文面からは明確でないところがある。
     第7の類型ということになると,既存の6類型との間の概念整理をどうするかということも当然,基本的に考えておかなければいけない。
     歴史文化地区は,一定のエリアをとらえた,エリア本位の発想だろうと思う。今回の文化財の総合的な把握の中で,関連する複数の文化財という場合には,エリアを超えたものもあると思われるので,そういった具体的な事例に即して,エリア本位のやり方,方法と,エリアを超えた相互関連の文化財のグループというものをどういうふうに一体処理するのか,この両面を考える必要がある。
     ただ,一挙にということが無理であれば,エリア本位のこれを差し当たっては導入し,後者に関しては,次の機会を持つということもあり得るのではなかろうか。
  •  自治体をまたがってマスタープランをつくりたい,あるいは歴史文化地区に名乗りを上げたいというケースが当然出てくると思われる。恐らく大部分は自治体単独ということになると思われるが,自治体をまたがって出てくるという可能性もあるので,どのような整理の仕方をするか検討する必要がある。
     また,文化財保護の外側の関連する分野の保存について,コーディネートできる,あるいは共通言語で語ることのできる人材が恐らく必要になってくると思われる。時間のかかる話ではあるが,文化庁の中にも,各地方自治体にも必ず必要になってくると思う。
     「はじめに」という書き出しのところは,この書き方だと非常に高みに立って,まず意義を述べているという感覚がどうしてもするものです。今回のテーマである,国民の理解を求める,あるいは参加を求めるということからも,もっと住民の視点のレベルの方から入っていって,この文言も十分に使えるといったような書き方にした方が,より理解を得やすいことになる。
  •  最初から「文化財は」で入るが,歴史文化的な遺産の中で,文化財もあるけれども,文化財がそもそもあるのではなくて,歴史文化的な遺産というものの中に代表されるものとして文化財があるのではないか。
     市民サイドからいえば,文化財の単体とか総合ということではなくて,地域の歴史とか知恵というものをどう継承していくんだというストーリーが基本になっているのが本筋ではないかと思う。
     今までにないものを入れていったりして,新しいものが生まれる過程をそのストーリーの中に追い込んでいかないと,文化財が忘れられつつあったり,文化未満遺産みたいなものがどんどん消えていくという現状を変えることはできない。
     なので,素材としては文化財というのがあるかもしれないが,それをうまく使って新しい価値をつくっていくんだというようなメッセージが必要なのではないか。
     マスタープランのところも,文化財保護のマスタープランではないのではないかという気がする。
  •  歴史文化地区のエリアは,形あるものでわかりやすくそれに対する対策を示すのは大事な視点だ。だが,形なきものは捉えにくい。つまり,骨子案4ページに記述のある「日本の文化財概念の特徴である,無形文化財の概念を十分に生かした構想」を取り上げるのかどうか知りたい。
     世界無形遺産の登録について,歌舞伎,能などは既にある程度集約されているためどれをとっても日本ということが言える。しかし文楽は,人形浄瑠璃が各地にあったが,ほとんどが形を崩してきていて,大阪の文楽劇場へゆだねざるを得ない状態になっている。そうすると,第5,第6の世界無形遺産登録といったときに,各自治体が神楽,盆踊りなどをそれぞれ申請したときに,日本というくくりでそれをまとめられるかが大きな課題だ。そのため,これらを取り上げられる状態としておくことが必要だが注記では物足りない。
  •  「無形文化財」が特記された形になっているが,特に地方・地域等のことを考えると,各地域によって立つものは民俗文化財,とりわけ「無形の民俗文化財」という用語はとても大事になると思う。
     それから,歴史文化という用語だが,伝統的な文化という広い概念は,単に文化財だけではなく,教育の現場においても用語と概念がだんだん広がってきている。今まで伝統的文化という用語と概念が長い間軽く扱われてきた。その用語をうまく活用しながら,文化財の中で考えていく。文化財という用語はとても重要なキーワードだが,伝統的な文化の用語と概念を大事にしていく姿勢を盛り込んでいくことが必要だろう。
  •  「お金がない」で文化の問題を片づけないでいくような方法,思いを盛り込むことが大事ではないか。経済効果がないということで文化を踏みつぶされないように何とか考えられないか。
  •  国の役割は重要だが,むしろボトムアップとして地方による文化財の保護・活用を考える際,どうしても国・自治体共に財政が非常に厳しいという前提があるので,文化庁,各地方自治体が頑張っていても,なかなか成果が見出しにくいということを申し上げた。安倍首相も美しい国づくりを提唱しているが,その根幹に文化があってしかるべきだ。
     そのため,「はじめに」で,当然文化というものが日本の根幹であることをより明確に,「はじめに」の理念的な箇所で再度と確認し,位置づけるとことが必要だ。現在の骨子(案)では,ある程度具体的な案の提示ということが意識されているので,各委員の指摘についても,できるだけよりよい形で盛り込まれるべきと思っている。
  •  日本固有の文化財ということを強調する余り,日本の歴史と文化が育ってきた海外との交流の中で育て上げられてきた歴史文化が表現としてもほとんど触れられていない。
     つまり,御承知のとおり我々の日本の歴史文化というのは日本の中だけで完結しているわけではなく,文化交流の証,特にこれから日本を訪れる外国人が日本の文化財に触れるわけで,その国内外への発信ということが非常に重要になっている。その中で国が文化財を正しく位置づけるときに,国際交流という視点を,日本の歴史と文化を育てたかなりの要素の中に国際交流の歴史があるということをしっかりうたわなければならないと思う。
     交流の中から生まれた文化がかなりの部分を占めているので,一国主義的・民族主義的な考え方が前面に出ることを恐れている。そこを一番気にしているので,そのことをどこかにはっきりうたわないと,非常に問題になるのではないか。
  •  国際交流による歴史的な要素も大変重要であろう。国土交通省を中心にしてこれまでの全国総合開発計画にかわり国土形成計画を策定中だが,従来は外国との連携が無視されていたが,今回の国土形成計画では,東アジアとの連携の中で日本の将来を考えるということがあるので,当然文化財を考える上においても,大変重要な指摘であろう。
  •  ここで議論されていることが,1日も早く現場で具体的に機能するようになればいいと思う。国から経済優先的な話が流れると,末端にも経済優先という流れがおのずと響いてくる。町民への説明会のときに行政側が「どんなビジネスチャンスが訪れるかわからない」と言ったことに対し不安を覚えた。経済優先でない,本当に文化というものを直視して大事にするということを国そのものが考えるべきだと思う。
     それから,「地方公共団体の取組が適切に機能することが大事」という趣旨のことが書いてあるが,もちろん地方公共団体の動きは現場ではとても機能しているが,世界遺産にしても伝建地区にしても,末端のところでは機能しない不備な点がたくさんある。そこで重要になってくるのが,住民である地元の人たちの意識だ。
     住民意識の高まりが重要だが,地元事業者の姿勢が非常に大きく地域に影響すると感じている。最近,日本の地方はどんどんスラム化していくという都市計画の講演を聴いた。伝建地区や修景作業で作られた地域であっても,そこに行く沿線道路の景観が乱れていてバランスがとれておらず,それを「スラム化」という表現にしていた。
     例えば,不景気なため町並みの中の商店が閉鎖すると,日本では駐車場や更地にしてしまう。だが,ヨーロッパは,違う業種が入ってきてその店舗を活用しているという。そのようなことが日本でも起こっていけば素晴らしいと思うが,それは事業主の意識の問題だろう。大企業がやることは大きな影響力があるが,地方にとってはやはり地元に根づいた小さな商店,小さな企業の意識というものが非常に大きく影響すると思う。
     例えば本店は一切外から見えない店づくりをする,社屋をなじませ景観を壊さないようにするなどの配慮が,ここにいさせてもらっている理由かと思うが,企業自体がどんどん意識を変化させていって,地元で景観を壊さないような動きができるようになったら,行政と同様のリーダーシップをとれるような機能を持てるのではないかと思う。
     先日,白川郷に行ってきたが,まず私が感じたことは,ショックなシーンが多過ぎたということだ。経済優先にしてしまうことがどれだけ地域にデメリットを与えるのかということを,もっと考えなければいけないと思った。帰りに七尾に寄ったが,そこの商店では,一画に歴史の説明ができるようなスペースを作り,店主そのものが語り部になっているような取組をするなど,白川で見た商店主たちとの差が歴然としていた。
     だから,地元の店主や小さな事業主の動きが,地元の人たちの意識に大きく影響を与え,文化財的なものに対する意識に与えていく影響はすごくあるのではないかということを申し上げたい。
  •  国際との問題もあったが,保護法の目的の中に,国際や国際文化の貢献というものがあるが具体的な条文はなく不満に思っている。
     もう1つは,人材の話だが,人材育成というよりは,人材の確保と人材の参加ということをどうやってシステムとしてやっていくかという制度の問題を議論していただきたい。
     結局は,例えばNPOの人たちが参加するためのモチベーションの問題,例えば,すごく人気のある京都検定や世界遺産検定など検定制度の問題もあるが,もう1つは,資格の問題で,専門家の知識と能力をどうやって担保,確保するかという問題と,そのような人たちを職能としてどうやって保証するか,職場を確保するかという問題がある。入札制となったときに資格をきちんとすべきだと思う。資格を持った中での入札ならばある程度保証されるだろうし,地方で県指定や市町村指定の建物を見ていたときに,お金をかけて修理したが,文化財としてめちゃくちゃにされ,記録もないものが結構あった。その人たちは善意で一生懸命やっており,壊そうとしてやっているわけではないが,知識,経験がないためだ。規制緩和の問題と絡み,文化庁としては難しい問題であるが,文化財を守り,活用していく中で,専門性を求められるので,専門性をどうやって確保するかという資格の問題として,是非それも議論して,提案の中に盛り込んでほしいと思う。
  •  文化の重要性は私も同感だ。幸い文化芸術振興基本法ができ,閣議決定で基本計画もできているので,現実にこれらが進むように,うまく生かしていければいいと感じている。
     2つ目は,4ページの最後に調査研究のことが書いてあるが,その重要性も強調しておく必要があると感じている。
     3つ目は,世界遺産で提言したが外れたもののフォローアップが必要だということが書いてあった。その場合に提案されたものの中に,都道府県や地方公共団体を超えたものも出ているが,当然そういうことを考えていかなければならないと思う。そのことのフォローアップが具体的な課題になっているとすれば,どうフォローしていくかをしっかり議論しなければいけないと思った。
  •  人材の資格や確保,意識の高揚は,本当に必要なことだと強く思っている。私たちが東京で考えているようなことが,地方の隅々には行き渡らない。『月刊文化財』などに九州国立博物館の役割などが書かれていたと思うが,現場の出先でしっかりと見ていくようになれればいいと思った。東京にいただけで,地方へ行ってどうなるかをなかなか見られない。そうではなく,地方へ行ったら地方の期待もあるので,彼らと一緒になって地方を高めていくだけの責務を負う,という思いを国の人が持たないといけない。
     だから,文化庁の中では地方の細かいところまで目が行かなくても,現場に行けばそれを細かく見るような人材育成も現場ではあると思うので,九州に国立博物館ができたことの意味合いを十分に生かさなくてはいけない。国の人がもっと意識を高めて指導的な役割を果たし,相談役という意味で活動してほしいというのが思いである。
  •  人材が「*」印で注書きのようになっているが,とても大事なテーマなので,少しラージアップして項目にしてほしい。さっきの伝統的あるいは歴史文化の地区の選定などとほぼ同じ,あるいはそれ以上に大事なテーマだと思われるので,格上げしたテーマで検討できればと思う。
  •  石見銀山には官民が一体となってやっている協働会議があり,136の項目が挙がっている。そのうち4つ,5つの項目を落とし込むだけで半年ぐらいかかった。だから,応援隊のようなものがあって,援助してもらえると非常に有り難いと思うので,暫定リストに挙がった時点でのフォローアップにもっと力を入れていただきたい。
     もう1つ,私のところでも,文化財の家が維持管理できなくて市に寄贈されるという例が最近増えてきている。民間と一緒になってそういうものを活用していくことにも,アドバイスしていただく人材がいればとても有り難い。
  •  専門技術的な人材育成と同時に,文化財や文化遺産と関わる段階として,インタープリターもアメリカの国立公園などではそれ自体が職能になっているし,更に本当の市民が文化財とどう関わるかも大きな課題であり,大事なことで,そのために今日は発表したつもりだった。
     何を言いたいかというと,要は文化財を支える人材というのは,兵庫のヘリテージマネジャーのような高度な技術者はもちろん,一方で,まさに市民レベルの本当に文化財が,文化遺産が,歴史ある町が好きという市民の気持ちをどんなふうに保護に生かしていくかという,視点の向きが全く違うものだ。
     景観法も都市計画法も,本気で市民と自治体が相談したら何ができるかなということを真剣に考えた法改正だったと思う。だから,景観法が枠組み法というのは,自治体・市民・地域で何ができるかということを信じ,景観行政も都市計画行政も自治体に委ねたわけであり,自分たちで考えてほしいということをやった。ところが,責任放棄という批判をする専門家もいるが,意欲的な地域がいい結果を出し,いいモデルをつくることが最高の法律の解釈だと思っており,そういう視点をこの場で持てるのか持てないのかを私は問うたつもりである。だから,最初の理念に書くだけではなく,例えば文化財保護法の体系自体はほとんど何もいじる必要はない。ただ追加してもらえないだろうかということなのだ。
     埋蔵文化財を改正のときにしたような,そこに本当の価値を見いだして,自治体や地域の取組に対して,双方向からの視点を初めて持った,そういう目に見えるような改革ができないか。ただしそれは,保護法を大きく変える必要はなく,何かを追加していけばいい。実はそれが一番言いたかったことである。
     だから人材育成の話にしても,高度な技術者と同時に,文化財と市民との関わりのようなものに真剣に目を向けていけないだろうか,その辺の論点を序文だけに終わらせずに継続してもらえれば私も来たかいがあるなと思う。

資料6に基づき「今後のスケジュール」について説明が行われた。

—— 了 ——

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