資料4 第6回企画調査会

文化審議会文化財分科会企画調査会報告書の骨子(案)

Ⅰ.はじめに

  •  我が国には,人間と自然とのかかわりの中で生まれ,地域の風土や生活を反映し,他国の文化との交流を通じて育まれてきた豊かな伝統的な文化が存在する。それらは,現代を生きる私たちに,我が国の歴史や人々の生活の仕方を伝えると同時に,その根底にある知恵を継承することによって,日々の暮らしに精神的な豊かさや感動,生きる喜びを与える普遍的な力を有している
  •  また,地域社会においては,地域の歴史や特色を表し,古来様々な形態で存在,継承してきたこれらの伝統的な文化が,地域の人々の心のよりどころとして連帯感を生み出し,共に生きる社会の基盤を形成している
  •  その中で,我が国あるいは我が国国民の存立基盤となる文化的所産が文化財であり,我が国の文化の結実した一つの形ともいえる。そのような文化財は我が国の歴史や文化の理解のため,また将来の文化の向上発展のためになくてはならないものであるとともに,風土と歴史の中で醸成されてきた地域の伝統的な文化の在り方と,それを踏まえた将来の地域づくりへの指針を示すものであり,継承していくことが重要である
     しかし,現在,社会構造の変化や価値観の変容等により,歴史的な建造物,文化的な景観,遺跡,地域に伝わる祭りや行事など長い歴史の中で伝えられ,保存されてきた文化財や,文化財を守ることで伝えてきた伝統的な技術,知識や知恵が失われつつある
  •  このような状況の中,人々が暮らしの中で,文化財を守り,文化財相互の関係性と文化財の根底にある知恵を継承することによって,日々の暮らしが豊かになるよう,時宜に合った施策を行うことが必要である
  •  このたび,文化財保護に関する総合的な政策審議の場として企画調査会を設置し, 優先度の高い以下の課題について検討を行うこととした
  • 文化財の総合的な把握を行うための施策
  • 国民の文化財保護への理解と参加を促進するための施策
  • 様々な分野との連携方策
  •  検討に当たっては,文化財を個別に捉えるのではなく,地域の歴史や風土との関わりの中で,文化財相互の有機的な関係性に着目して一体的に文化財を捉えることが必要であり,そうすることで個々の文化財及び地域の歴史や風土への理解が一層深まる
  •  また,我が国の文化財保護法は,建造物や美術工芸品に代表される有形の文化財だけでなく,無形の民俗文化財等,有形,無形の文化財を含め幅広く保護措置を講じている。また,名勝や天然記念物に代表されるように,自然と文化を一体として捉え保護措置を講じる側面もある。こうした我が国独自の視点を十分に踏まえた上で,新たな施策を検討していく必要がある
  • 更に,国が直轄で保護するもの,地方公共団体が保護するもの,国が情報を収集・提供し,地方公共団体の文化財保護の取り組みの支援を行うものの整理に留意することが必要である

Ⅱ.文化財の総合的な把握について(P)※次回の資料にて前回の委員からの御意見を反映

1.これまでの審議会報告における指摘と現在の課題

(1)これまでの審議会報告における指摘

  •  平成6年の文化財保護企画特別委員会,平成13年の企画調査会の報告書等において,従来のような文化財保護法における文化財の類型別の保護手法に加え,類型の枠を超えた文化財の総合的な保存・活用の必要性や,周辺環境を含めた保護の必要性が指摘されている
  •  これまでの総合的把握の必要性についての指摘は,主に以下の3つの観点からのものである
  • 関連する複数の文化財を総合的に捉えることにより新たな価値を見いだす観点
  • 文化財の周辺環境の保護の観点
  • 文化財の保存・管理の適正化の観点
  •  上記の指摘のうち,これまでの指摘事項のうち施策として具体化しているもの(例えば文化的景観)もあるが,十分に具体化されていないものもある

(2)現在の課題

  • 最近の世界文化遺産登録の傾向として,歴史的・文化的・自然的主題を背景として相互に緊密な関連性を持つ複数の文化財を総合的に捉えた上で,その周辺環境も含めて保護を図る手法が国際的に広がりを見せている。
     また,本年1月の世界文化遺産特別委員会の審議結果でも,地域に独特の歴史・文化の様相を総体として示し,日本の歴史・文化の重要な一端を担っていると判断できるような連続性のある文化資産を一体として捉える文化財の捉え方及び包括的な保護の在り方を,日本の総合的な文化財保護の在り方を検討する上でも十分考慮すべきとの指摘がなされている
  •  我が国の文化財保護法は,もともと,有形・無形,動産・不動産,人工的なものから自然的なものまで,多様な種類の文化財を,同一の法体系の枠組みの下で保護措置を講じているものであり,総合的な捉え方になじむものだといえる
  •  また,地域では,個性的な地域社会を形成するに当たり,地域の伝統的文化を活用した独創性あふれる地域づくりが重要視されていることから,おのずと文化財を総合的に捉える視点が生じてきている
  •  更に,我が国の世界文化遺産の推薦において,地方公共団体からの提案を受け付ける方法が導入されるなど,地域住民による文化財保護を促進する観点から,地域の提案によって文化財を保護する仕組みが重要性を増している

2.観点別の課題と対応案

これまでの審議会報告における指摘や,最近の課題を踏まえ,先に述べた観点に分けて課題を挙げた後,対応策を検討する

(1)関連する複数の文化財を総合的に捉えることにより新たな価値を見いだす観点

[1]課題

  • 人々が文化的価値を感じる対象が広がっており,現在の6つの文化財類型では捉えきれない側面も出てきている
  • 関連する個々の文化財を総体として把握することで,新たな価値付けが可能となる

ex.平成6年の報告書における例示としては以下のものについて総合的,一体的な保護の施策を講じる必要性が指摘されている

  • 歴史的関連性を持って一定地域に集積する複数の文化財
  • 同一作家の作品と各種資料
  • 祭礼行事における芸能・儀礼的所作と衣装・用具等
  • 史跡等や建造物と関係古文書・絵図
  • 世界遺産暫定リストに追加記載すべき文化資産として地方公共団体から提案されたもののうち,暫定リストに記載されないものについてフォローする仕組みを考えることが必要とされており,総合的な把握と関係させて検討することが重要である

[2]解決の方向性

  • 視点の当て方,関連性の考え方により,関連する文化財の組合せは様々に存在。また,全体の規模・範囲が大きくなるにつれ,そのパターンは更に広がる
  • そのため,文化庁が自ら関連する具体的な物件の組合せを考えて指定を行っていく方法よりも,一定の枠組みを示し,それに合わせて地域が提案したものにつき,その文化的価値や保護措置の実施状況を判断し,認定・支援する方法がなじむ
  • その際,地域は,地域に存在する文化財相互の有機的な関係性に注目して,組合せを検討することが必要である
  • 国が文化財保護法によって保護する文化財と,地域が独自に必要と考え保護する文化財を総合的に捉えて新たな価値を見いだすことが必要である

(2)文化の周辺環境の保護の視点

[1]課題

  • 文化財として指定等されている物件の整備及び活用を図る観点から,その文化財の周辺環境についても文化的な環境としてとらえ,当該文化財を核とした環境の保護・整備の重要性が高まっている。そうすることにより,核となる文化財の魅力がより高まるとともに,快適で文化的な環境が生まれ,都市再生の方策としても重要である
  • 人々がその生活空間の中に地域の文化伝統を取り入れ,地域コミュニティーをつくり活用する試みが始まっている
  • 欧米諸国では,都市計画の中に文化財保護の観点を入れた仕組みを持っているところが多く見られるが,我が国では,文化財保護施策と都市計画施策等の関係分野の連携が十分とはいえず,関係施策の中に文化財保護の観点を盛り込んでいくこと,文化財周辺での文化財の価値を損なうおそれのある開発行為との調整を可能とする仕組みが必要とされている
  • 世界遺産においても,登録の案件として,構成資産(コア・ゾーン)の周辺に緩衝地帯(バッファ・ゾーン)を設定することを求めている。文化財の周辺も含めた文化財の周辺環境の保護は,世界的な要請となってきている

[2]解決の方向性

  • 文化財保護と関連する行政分野(都市計画,環境保護,防災,農林水産業等の産業)との連携により,文化財の周辺環境を総合的に整備していくことが必要
  • 文化財の周辺環境に対しては,法律で一律の行為規制をかけるのではなく,各地域の判断に基づき,当該環境の特質に合った規制を行う必要がある。その際,自主条例で規制することも考えられるが,文化財保護の目的に適合した規制とするためには,国が文化財保護の観点から一定の枠組みを作り,地方公共団体がそれに基づいた規制を行っていくことが適当である

(3)文化財の保存・管理の適正化の観点

[1]課題

 ある物件が重複して指定されている場合又は複数の文化財が隣接して存在する場合について,異なる文化財類型間の保存や活用の考え方の調整等の必要性が指摘されている

ex.高松塚等の重複指定,建造物の中の美術工芸品,史跡の中に存在する建造物,伝建地区内で行われる祭り等

[2]解決の方向性

  • 文化庁内における異なる分野間の更なる連携の促進
  • 各文化財の価値を確実に継承するために,個別文化財の保存管理計画を策定しつつ,異なる文化財類型間における調整を図ることが可能となるような仕組みを追加的に創出する
  • 複数の文化財を対象とした包括的な保存管理の方針・方法について,所有者,地方公共団体,文化庁等の関係者間で情報共有する仕組みを創出する

3.具体案と期待される効果

(1)具体案

[1]文化財保護マスタープラン(仮称)の策定

 地方公共団体が,域内に所在する文化的資産(有形文化財のみならず無形文化財を含める)を保護し,その活用を図るとともに,区域内の周辺環境を保全,整備するための総合的な計画(マスタープラン)の策定を促して文化財の保存活用を核とした地域づくりを促進する。

  1. マスタープラン作成の主体を地方公共団体とし,地域の企業やNPO等の地域の声をとりこむなど地域のコンセンサスを得やすい仕組みとする
  2. 単に文化財のマスタープランに終わることなく,当該地方公共団体の行政計画との緊密な関係を前提とすることが望ましい

[2]歴史文化地区(仮称)の選定

 国は,文化財保護マスタープランに位置づけられたもののうち,地方公共団体からの提案に基づき,多様な類型の文化財(無形文化財を含める)が多数所在する文化的価値の高い区域を歴史文化地区として選定する。当該選定を受けた地区については,文化的資産の保護やその区域内の保全・整備について,様々な支援措置を講ずる。

  1. 歴史文化地区の選定に当たっては,個別の文化財の価値に応じて,国・地方公共団体がそれぞれ適切に指定等の保護措置を講ずることを前提として,それらの総体が示す独特の価値について評価を行う
  2. 日本の文化財概念の特徴である,無形文化財の概念を十分に生かした構想とし,祭り等の活動に不可欠な人間生活の舞台としての町並み等を当該文化財と一体のものとしてとらえ整備保全する
  3. 歴史文化地区のマスタープランには,文化的資産を保護していくための地方公共団体における人材育成等のソフト面の計画も盛り込まれることとする

[3]文化財情報の一元的な把握の推進(文化財データベースの充実)

  1. [4] 適正な保存管理の前提として,指定文化財についての保存管理計画の策定を更に推進するための方策を検討する。更に,城跡(史跡)とその中の城郭(重要文化財)等の複合型の文化財等複数の文化財間の保護手法の調整やその周辺環境の保全を目的とした,包括的な保存管理計画の策定について検討する
  1. [5]特定の地域を対象とした文化財の総合的な把握のための総合調査と総合的な保存体制の設立を検討するための調査研究を国が推進する

(2)期待される効果

  • 文化財保護を総合的に考えることにより,従来の個別の文化財保護では見落とされがちな多様な文化財の意義や価値,保護の必要性が明らかになる。広域に渡る歴史・文化・文明の価値を表す文化遺産を,部分的ではなく,全体として保存することが可能となる
  • 文化財を個別に捉えるのではなく,文化財相互の関係性を理解することで地域そのものの理解が進み,住民が地域の歴史や文化をより身近に感じることにつながる
  • 地域における文化財保護の取組が奨励されることにより,文化的環境の保全,文化を生かしたまちづくりが促進される
  • 全体のマスタープランが示されることにより,住民が文化財保護の活動に参加しやすくなることや,企業からの寄附が受けやすくなることが期待される
  • 異なる文化財類型の保護のための情報共有が図られ,総合的な保護が促進される

Ⅲ.国民の文化財保護への理解と参加のための方策について

  •  貴重な文化財を未来へ守り伝えていくためには,国や地方公共団体に加えて,様々な分野において文化財保護に関わりを持つ個人や団体を増やすことが必要
  •  そのためには,国民一人一人が,文化財を共有の財産として認識し共に保護を図っていこうとする意識の醸成が不可欠
     また,そのような取組が人々の生活や人生を豊かにすることに気付いてもらうことが重要
  •  その際,国,地方公共団体や関係者が行う文化財保護活動に対する国民の理解と協力を求めるということにとどまらず,個人,企業,NPO等が文化財保護の主体となり,行政がそれを支援するという仕組みや,官民が連携して文化財保護を共に担っていくという視点が必要

(1)課題

  • 我が国においては,文化財は敷居が高いものというイメージがいまだに強い。文化財への理解や親しみを深めるためには,地域に関(かか)わる人々が,自らが大切だと思う身近な文化財の保存と活用に関わっていく取組を促進することが必要
  • そのため,地域における文化財を保護するための人材の拡大が必要

<以下のような方策について検討が必要>

    文化財を活用する場での専門性の確保
  • 地方公共団体において,住民の中から専門的な能力を持った人を養成し,文化財保護の現場へ派遣する仕組み(EX.兵庫県の「ヘリテージマネージャー」の取組)
  • 一般の人が地域の文化財の管理などに携わることができるような仕組み
  • 文化財の価値をわかりやすく伝える人材の養成
  • NPO等が文化財の保護のための活動に参加するためのモチベーションの確保
  • 退職後の団塊の世代(アクティブシニア)にインセンティブを与え,ボランティア等で文化財保護に参加してもらうことが必要
  • また,子供たちが伝統的な文化や文化財に親しむ機会を増やすことが必要(伝統文化子供教室,ミュージアムタウンの構想,学校における伝統文化教育の推進等)
  • 更に,文化財を核とした地域づくり・まちづくりの重要性が増している中,保存のための措置に加えて,活用のためのより効果的なマネジメントについても検討していくことが重要
  • 一方,国の行う文化財保護のための施策について,一般への周知が不十分な面もあるため(制度はあっても存在が知られておらず利用されない),改善が必要

(2)解決の方向性

  • 国指定文化財に対する文化財保護法による規制,また整備や公有化に対する支援という基本的な制度は国が行うべきものであるが,地域の身近な文化財保護の取組や人材育成は,地方公共団体で主体的に進めることが適当
  • 国は,これらの地方公共団体の取組を奨励し,地域における活動に誘導策を講じること,また,各地域における先進的な事例を収集し,情報発信するセンターの役割を果たすことも必要
  • 同時に,上記の活動を行いやすくするための環境整備(企業等が文化財保護の活動に支援を行いやすくする仕組み等)の充実が必要
  • また,国の行う文化財保護のための施策の効果的な広報が必要

(3)具体案

  • 地域における文化財保護のための取組(地域における文化財を保護する人材の育成や,ボランティアの活用方法等)について,事例を収集し,方法論の調査研究を行い,広く情報提供するための枠組みを創設(文化財のサポーター制度等)及び先進的な取組の顕彰を行う
  • 企業等が文化財保護活動を支援しやすくする仕組みの創設(企業や国民から幅広く資金を集め,幅広い分野に資金的な支援を可能とする寄附の受皿となる組織の創設や税制優遇措置等)
  • 国の文化財保護施策についての広報の強化
  • Ⅱの文化財保護マスタープラン制度・歴史文化地区制度(仮称)の創設(地域の大切な文化財を保護する活動の奨励にも資する)
  • 個人が所有する伝統的な民家や美術工芸品等を自ら公開するなど,住民参加型の文化財の公開の取組を促進する
  • 各地で整備されている市町村史は地域に存在する文化財を理解する上で重要な情報を含んでいるものの,大部なことから市民へ浸透しにくいため,市町村史をわかりやすくまとめWEB上でパンフレット化して公開するなどの取組を推奨支援する
  • 各地域において展開されている総合的な視点から地域の文化財をめぐるツアーのデータベース化・事例集の作成等を行い公開する

(4)期待される効果

  • 地域における活動を国として奨励することにより地域活性化が期待される
  • 地域における文化財保護の取組が活性化することにより,各地域において,地域の歴史や文化への理解と誇りが育まれることが期待される
  • 各地域の活動の情報を地域の人々自らが共有することで地域における取組が促進される
  • 企業等が文化財保護活動を支援しやすくする仕組みの創設により,文化財保護に対する民間からの支援が促進される

Ⅳ.他分野との連携方策について

  •  文化財の魅力を高め,その効果的な保護を図るためには,それらに関連する地域振興,都市計画,観光振興及び産業振興等の分野と連携して行うことが必要
  •  関連分野の施策と連携することにより,文化財を人々の生活により身近なものとし,その関心を高めることが可能となる
  •  また,様々な施策分野において文化財の活用の重要性が高まる中,保存と活用のバランスについても検討し,不適切な活用による保存への弊害を防ぐことも必要

Ⅴ.おわりに

  •  今回の施策は出発点であり,今後も文化財保護に関する政策的な議論を重ね,社会の変化を見据えた施策を実施し,文化財保護への意識を高めていくことが必要
  •  現行制度は長い歴史のもとに培われてきたものであり,個別の文化財の指定等及び保全に手抜かりがあってはならない。今後も,現行制度のプラス面は評価しつつ,社会の変化に応じた施策を重ねていくことが必要
  •  文化財やそれを支える組織が公的支援に値すべき重要な価値を有するものであることを国として積極的に打ち出し,更なる保護の推進を図っていくことが必要
  •  また,文化財保護が地域振興等に資することにつき十分説明できるような理論構築を行っていくべき
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